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「妬けるな」
「!」
後ろから音も無く抱き締められて息を呑む。
聞き慣れた低めの声に、嬉しさで心臓が速くなった。
「義兄さん!妬けるって、いつもみたいに避けられただけですから」
顔が見たくて振り返ろうとするも、太い腕が身動き取れないほどに絡みついている。
何故?と動揺しながら困っていると、片手でがっしり固定されつつ、空いた手の指先が着物の胸元から忍び込んだ。
「まだそんな事を言ってるのか?本当に鈍いな。お前が跡取りになれば周りと話すようになるのは必然だが…失敗したか」
「…っ…や、やめて下さい」
屋敷中から見られてしまう場所で何をするのか。
熱くなる頬を感じながら懸命に身を捩ろうとするも、びくともしない。
温かい指先が己の胸を撫でるようにゆっくり動く。
時折柔らかな突起に触れるたびに震えては小さく吐息を溢した。
「ぁ…和之さん…かず…」
囁くように呼ぶ名は自分の声とは思えぬほど甘い。
力が抜けてしまった肢体をようやく抱き上げ、無言で離れの縁側から部屋へ入る。
仰向けに寝かされたまま見上げるも、思いもよらぬ激情が浮かんだ瞳に気圧された。
「なぁ青司、もしかしたら義父はこんな気持ちだったのかもしれないな」
壊してしまいそうな激しさと、世間や己から守ってやりたい複雑な感情。
時折自分でも制御出来ないほど魅かれ喰われそうになる。
心が化け物と化していく。
そうなって感じたことがある。
質素な離れは青司を見えない者として守り、誰にも見せないための囲いでもあるのかもしれないと…
「なに…?」
わからない、と不安になりながら頭を横に振る。
艶やかな髪が微かな音を立てて畳に乱れた。
震える長い睫毛と、涙を浮かべた姿を優しく抱き締める。
己の目を見せないように。