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カテリナです。シャーリィがベルモンドを名乗る男を拾って教会へ連れて来てから数日が経ちました。あの娘の好意を無駄にしないためにも薬草を惜しみ無く使い、経過も順調です。どうやら彼は傭兵として活動されていたとか。
「ちょっとしくじって怪我をしてな。つまらない理由だよ、シスターカテリナ」
「詮索はしませんよ、必要なら話していただければそれで構いません。ここでは、過去なんて些細なことです。シャーリィが拾ってきた以上は完治するまで面倒を見ますよ」
「感謝する、シスター。」
「あの子は厄介事を持ち込む常習犯です。尻拭いは保護者の仕事ですからね。ただし……あの子の恩に仇で返すなら…分かっていますね?」
「もちろんだ、シスター。そこまで見下げ果てた男に堕ちたつもりはないよ」
「結構。それなら良いのです。まだしばらくは掛かりますから、ゆっくりと過ごしなさい」
「何から何まで世話になる。動けるようになったら、恩返しをさせて貰う」
「構いませんが、ひとつだけ聞いても?」
「追われる身じゃないかって質問なら、答えは違う。俺を保護しても面倒には巻き込まれないはずだ」
「それなら良いのですが」
ごきげんよう、シャーリィです。助けたベルモンドさんは順調に回復しています。私は今日も稽古が終わった後は農園に顔を出して手伝いに参加します。任せても良いのですが、ただじっとしているのは性に合いません。それに、最近はルミも遊びに来てくれません。ちょっと忙しいとの話でしたが、大丈夫でしょうか?近々孤児院へ顔を出して見ましょうかね。
「お嬢様、何度も申し上げますがこのような仕事は我々にお任せください」
「何度も言い返していますが、これが私の性分なんですよ、ロウ」
この白髪のお爺さんはロウ。アーキハクト伯爵家で庭師として働いていました。あの日は休暇で不在だったから難を逃れた人ですね。あっ、陰謀とかではありませんよ。お孫さんの話をしていたので、私がお父様にお願いして休暇を与えたので。
伯爵家の惨劇後ひっそりと暮らしていたみたいですが、昨年本当に偶然ターラン商会の本店で再会したんです。どうやら職に困って暗黒街にまで逃れてきたとか。
私を見た時の驚き方と言ったら、側に居たルミが引くくらいでしたからね。号泣された時は困りましたけど。
本人の強い希望もあり、私の農園の管理者として働いてくれています。もちろんお給料も出していますし、お孫さんとの文通も欠かしていないのだとか。
手紙だと時間が掛かるので、いつか最近流行りの電信を用いた電報とやらを導入したいものです。ロウはお孫さんとのやり取りを増やせますし、組織としても情報伝達の速さは強さになります。
「しかし、お嬢様が土いじりをなさる姿を旦那様が御覧になられたらいかほどお嘆きになるか…」
「むしろ喜びそうですけどね。農具片手に気炎を上げていましたし」
民に混ざって農作業することもある父でしたからね。うん、これは遺伝なのです。お母様?本人曰く作るより壊す専門だとか。
「それより、農園の方はどうですか?」
「皆の頑張りもあり、更なる拡大を行っているところでございます。大樹の影響がどこまで及んでいるか不明なため、手探りではございますが…」
例の木を私達は『大樹』と呼ぶことにしました。そのままで何の捻りもありませんが、名前が分からないので問題はないはず。伝われば良いんです。
「そうでしたか、マーサさんから更なる納品数の増加を依頼されていましたので助かります」
「嘆かわしや、お嬢様が商人の真似事を為さらねばならないとは」
「ロウ、これは必要なことです。街で生き抜くため。何よりあの日の真実を知るために。その為なら何でもします」
「お嬢様……そうでございましたね。微力ながら、ロウめもお手伝いさせて頂きます」
「頼りにしていますよ、ロウ」
身内なので信用できるのは有り難いです。これでスパイとかなら私は死ぬしかないですね、うん。
それから一週間後、教会の中を歩き回るベルモンドさんを見かけました。
「もう歩いても大丈夫なんですか?」
「ああ、君のお陰だよ。今はリハビリがてら散歩をしているだけさ」
「それは良かった。ちゃんと歩けるようにまで回復できて何よりです」
「ありがとう。君には何か御返しをしないと気が済まないな。生憎手持ちは少ないが、何か恩返しが出来ないか?」
「ふむ。ではベルモンドさん、腕前のほどは?傭兵さんなのでしょう?」
「どうかな、それなりに修羅場は潜ってきたつもりだが、この様だからな」
「うん、次の質問です。帰る場所はありますか。何らかの組織に属しているとか」
「いや、一匹狼を気取っているよ」
「なら問題はありませんね。ベルモンドさん、私のボディーガードとして働きませんか?もちろんお給料は出しますよ」
「俺を雇うって言うのかい?」
「はい。私はまだまだ子供です。自分の身を護るにも限界があります。それなら、強そうなボディーガードを連れた方が何かと安全なので。どうですか?」
「分かったよ、これも何かの縁だ。君に命を救われたのは事実だしね。それに、行き場がなくて困ってたから好都合だ。シャーリィ……いや、これからはお嬢と呼ばせて貰うよ。宜しくな」
「こちらこそ、ベルモンドさん」
「ベルだ。雇用主なんだから、呼び捨てで構わないよ」
「分かりました、ベル。よろしくお願いします」
そんなつもり無かったのですが、傭兵のベルモンドことベルをボディーガードとして雇うことが出来ました。これで多少は自衛になるかな。