外に出て、翼に対して検証を行うとしよう。
外に出てみれば、珍しく皆が揃っている。私に向ける皆の視線からは、興味の感情が見て取れる。
〈お早う御座います。おひいさま。新たな部位が生まれましたこと、誠におめでとう御座います〉
〈ご主人、おはよ!その羽ってどうなってるの?教えて!〉
〈あまり驚いてはいないようだが、主はある程度、予測がついていると言っていたな。予測は当たっていたようだな〉
〈髪の毛や尻尾と同じで、綺麗な色をしているね。やっぱり、自由に飛べるようになったのかな?〉
やっぱり皆、気になるのか。
まぁ、分からなくはない。私だって気になるしな。それでは、早速この翼を調べてみようか。
まずは形状だな。
肩甲骨を起点にして、新たにもう一対の腕が生えたような感覚だ。付け根から先端までに関節が二つある。
付け根から第二関節までの長さは私の腕と同じぐらいで、尻尾に覆われている鱗と同質のうろこに覆われている。太さは、大体私の腕ぐらいか。
可動範囲はかなり広いな。腕と同じ…いや、それ以上に広い範囲を動かせそうだ。翼の第二関節からは、関節の無い翼指が三本生えている。これもまた私の腕と同じくらいの長さだ。
この翼指の太さは付け根が私の指二本分で、先端へ行くにつれて手首の太さほどまで太くなっている。
奇妙なことにこの翼指、筒状になっていて先端が口を開けたように開いている。如何にも此処から何かを放出できそうな形状だ。エネルギーもスムーズに送れている。
翼指と翼指の間、そして翼指と翼の付け根の間に、白に近い灰色の飛膜が張っている。厚みは…私の爪の厚みと同じぐらいかやや薄いくらいだ。とても柔らかく、翼を畳むのに全く支障が無い。
触れてみたところ、肌触りは艶があって滑らかだが耐久性はかなり高そうだ。触覚もある。飛膜の内側は髪や鱗以上に偏光性があるらしく、薄っすらと虹色に光を反射させている。
だから派手なんだってば、私!
光物は好きな方だけれど、もっとこう、慎ましさというか何というか、加減をしてくれないか?七色もいらないだろう。情緒に欠ける。
仕方がない。自分の身体だ。諦めて受け入れよう。ギラギラ光らないだけマシだと思っておこう。マイナス思考でいるよりもプラス思考だ。
「翼の形状はこんなところか。皆はコレ、どう思う?」
〈とても素敵な色だよ?ずっと見ていたい〉
〈フレミーに同意よ!とっても素敵だわ!一緒に空を飛びたいわ!〉〈とっても良い色なのよ!ノア様の翼を見るために傍にいたいくらいなのよ!〉
〈おひいさまの力を象徴するかのような素晴らしき翼だと存じます〉
〈うむ。翼のある主を見て、ようやく本当の意味で主に出会えた気がするな〉
〈ご主人の瞳や力の色と同じだね!もっと強くキラキラしてたら、眩しくて目を向けられなかったかも〉
〈姫様の御力が、飛躍的に上昇したのではないかと愚考します〉
翼に対する意見は様々だ。
光物が好きなフレミーやレイブランとヤタールからは飛膜を絶賛され、反対にウルミラからは私と同じく派手だという意見。似た感想を抱いてくれて嬉しい。ゴドファンスは翼全体を手放しで褒めている。ホーディの感想はなんだか、これが私の完全体だ、と言われているような気がする。ラビックは翼が生えたことに対する私そのものへの感想を答えていた。
ただでさえ規格外だった存在が、翼まで手に入れてしまったのだ。ラビックが冷や汗をかいているように見える。
実際にこの翼がどれほどの力を持つのかは、これから確認すればわかることだ。能力の検証に移るとしよう。
さて、形状を確認する際に動かしていたから大体把握できているが、羽ばたく力は腕の力と大体同じぐらいのようだ。
そして、可動範囲が本当に広い。どの方向からでも、羽ばたいた際の風圧で私を持ち上げられるだけの風を容易に起こせるぐらいには、十全に翼を動かせる。
フレミーが私の翼を見た時に飛べるかどうか尋ねてきたが、飛べるな。間違いない。実際にやってみよう。
「ちょっと羽ばたきだけで空を飛べるかどうか試してみようと思う。皆、少し離れてもらって良いかな?」
皆に私から距離を取ってもらう。
皆ならば私の羽ばたきで起こした風ぐらいで吹き飛ぶことは無いとは思うが、舞い上げられた砂が降り掛かったりしたら、申し訳ないからな。
エネルギーも使わず、助走も付けず、足の力も使わず、翼を地面に向けて羽ばたかせる。念のため、全力は出さない。
私を背負ったことのあるホーディ曰く、私の重量はウルミラよりも軽いらしい。ただし、尻尾の伸縮や、エネルギーの使用によって、重量が変動しているとのことだ。
平時でウルミラよりも軽いのであれば、三割程度の力で翼を羽ばたかせれば、何の問題も無く身体を浮かばせられるだけの風を起こせる筈だ。
強風が巻き起こり、砂が舞う。確かな浮遊感と共に、私の身体はホーディの背丈ほどの高さまで空中へ浮かんだ。少し羽ばたく力を弱めて、その場で、留まれるようにしてみる。
ほとんど力を使わないな。空中で停滞するだけならば、一割も力を込めなくて良いようだ。今度は、再び三割ほどの力で羽ばたいて、どれだけの機動力を得られるのかを試してみよう。
翼に力を込め、上昇を開始する。樹木三つ分の高さまで上がれば十分だろう。羽ばたく角度を変えながら、移動を試みる。
これは、思っていた以上に楽しいな。様々な角度に翼を動かせるから、行きたい方向にも容易に羽ばたくける。
ただ、思ったよりも速度は出ていない。翼の力だけで羽ばたいているからだろうか?一度地上に降りて確認を取ってみよう。
「ただいま。問題無く空を飛べるようだったよ。それで、レイブランとヤタールに聞きたいことがあるんだ」
〈何かしら!?何でも聞いてちょうだい!初めてとは思えないくらい上手に飛んでいたわ!〉〈お帰りなのよ!空を飛ぶのって楽しいのよ!?〉
私が自由に空を飛べるようになったのが嬉しいのだろう。意気揚々に返事をしてくれた。
「君達が空を飛ぶ際には、翼を羽ばたかせる以外に何かやっていることはある?力を込めずとも、もう少し早く飛べると思ったのだけど、思っていたよりも速度が出なくてね」
〈翼だけではそんなものよ!ノア様力も込めていないでしょ!?〉〈力を翼に宿すのよ!もっと早く飛びたいときは『風爆』を利用するのよ!〉
「空を飛ぶお手本を見せてもらっていい?」
〈任せて頂戴!ノア様なら直ぐに私達より早く飛べるわ!〉〈勿論なのよ!思いっきり飛ぶのよ!〉
もう一度飛翔してレイブラン達と高度を合わせ、彼女達の飛行を確認する。
翼にエネルギーが送られ、空気を押し付ける力が、見た目以上に強力になっている。
音すら置き去りにするほどの彼女達の飛行速度に感心していると、自分の目の前に即座に『風爆』を発生させる。
自分に向かってくる風を翼で受け止めて急停止をしたのだ。更にもう一度『風爆』を発生させると、今度は風に乗りながら風を叩きつけるように羽ばたき、急加速をしだした。
なるほど、やはり速く飛ぶにはエネルギーは必須か。そして事象『風爆』の併用。進みたい方向へ風を起こし、その風を翼で受け止め、羽ばたく事によって押し出すようにして急加速が可能になるということか。
彼女達は私ほど体が大きくないから、1つの図形で十分な効果を得られているようだ。私の場合、一色のエネルギーを用いて翼ごとに一つずつ事象を発生させた方が良さそうだな。
そうなると、彼女達のように空を縦横無尽に飛び回るには、もう少しエネルギーの分別も図形の組み立てもスムーズにできるようにする必要がある。翼ももっと自在に、そして精密に動かせるようにしたい。
まだまだ検証は終わっていないが、日課としてやることが、どんどん増えてきているな。面白いじゃないか。
やはり、できることが増えるというのは、良いものだ。
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