「籍、いれませんか?」
別に交際してるわけでもなかった
マンションの部屋が隣で
ただの少し喋れる仲がいいご近所さん
それが大森さん
たまたまドアの前でバッタリ会ったのが
確かきっかけで、
そこから少し話せるようになって
たまにあった時は挨拶をする
でも、ほんとにそれくらい
だから彼がそうやって言って来た時は
幻覚でも見てるんじゃないかと
自分の目を疑った
「……とりあえず、入りますか?」
「あ……はい」
適当にコップを用意して
その中にブラックのコーヒーをいれる
「あの、どうぞ」
「あ、ごめんなさい……勝手にお邪魔して」
「いえ…大丈夫ですから」
ブラックのコーヒーを見て
大森さんの眉が少し動いたのは
たぶん気のせい
もしかしてブラック苦手?
私も飲めないけど
今はちょうど牛乳を切らしている
まぁ、突然来たのはそっちだし
少しくらい我慢して欲しい
「あの……それで、あれは」
「そのまんまの意味です、籍いれませんか?」
「……なんで私?」
「まぁ、そうなりますよね……」
すみません……と頭を少しかいて
大森さんはそうなった経緯を話してくれた
週刊誌に撮られて
熱愛を出されてしまったこと
少し前起きた熱愛でも
交際の話と写真が出回ってしまい
それの真っ向からの否定のため
結婚をしたいこと
おまけに最近はストーカーまで増え
その対策のためにも結婚をしたいこと
「突然すみません……こんな私情ばかりで」
「いえ……大変でしたね」
「……ありがとうございます」
大森さんがミセスと知ったのは最近
初めて会った時
私は音楽に疎くてミセスを知らなかった
今思えばかなりオフに近い感じで
大森さんと話をしていたと思う
軌道に乗っているミセスにとって
おそらくそういった報道は
1番の毒だ
早いとこ消せるなら消したいだろう
「あの……私でいいんですか?本当に」
「大丈夫です、多分……」
「逆に言うと、僕鈴さん以外にそういったこと
頼めるような人が居なくて……その…」
「そうですか……」
「ごめんなさい、本当に……
全部自分の我儘なんですけど……」
そんな暗い顔をして下を見ないで欲しい
ここで見捨てられるほどに
私は人間性を捨ててはいないし
見過ごせるほど心も黒くない
「………いいですよ」
「………本気ですか?」
「あ、いいならいいです。断ります」
「ちょちょちょ、ちょっと待って……!」
「私も……圧かけられてるんですよね」
「ご両親にですか……?」
「いえ、友達に。私の両親は既に他界しているので……」
「……すいません、そんなこと」
「いえ、気にしないでください」
完全なる利害の一致
それ以上でもそれ以下でも無い関係
ただの偽装結婚
左手の薬指に指輪を填めただけの事で
実際そんなふうに捉えていた
コメント
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めっちゃ好みの作品ー!!!