テラーノベル
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ベッドに突っ伏したまま、僕は寝ちゃったみたいだ。
目が覚めたら、ベッドサイドにシュメリがいた。
僕の髪を撫でていてくれた。
「シュメリ、なんで……」
鍵をかけていたはずなのに。
どうやって開けたんだろう。
(ここはシュメリのお屋敷だから、開いちゃうのかな)
鍵の意味がない。
「リンネ、泣いていたのかい?」
シュメリが僕の目尻をなぞった。
「え……本当だ」
枕が濡れている。
目も腫れぼったい。
「もう、朝?」
「夜中だよ。まだ、眠っていい」
シュメリが優しい。
僕は酷い言葉を投げつけて逃げたのに。
「……怒らないの?」
「怒らないよ。少しだけ、悲しかっただけだ」
チクン、と胸が痛んだ。
「リンネにとってバルトが大事な人だと、知っているつもりだよ。バルトもいなくなって、森の家もなくなると聞いて、ショックだったんだろ」
「……うん」
シュメリが優しいから、胸が痛い。
「バルトにも考えがあって、ああ言ったんだろう。森の家は、しばらくあのままにすると言っていたよ」
僕は枕に顔を埋めた。
「……バルトは、出て行くの?」
くぐもった声が小さく流れた。
「リンネ……」
シュメリが僕の髪を撫でる。
「バルトには、バルトの人生がある。彼の人生を生きることを、許してやれないか」
「バルトの、人生?」
前にバルトが話していた。
『俺にも嫁さん、娶らせてくれ』
あの頃の僕は、小説の内容しか考えてなかった。
だからバルトはシュメリのお嫁さんって決めつけていたけど。
(僕がバルトからシュメリを奪っちゃった。バルトはシュメリのお嫁さんにはならないんだ)
バルトが誰かと結婚して、一緒に住む未来があるんだ。
「例えば、この屋敷を出たとしても、いつでも会える。今なら魔術師団でも会えるだろ」
「そうだけど」
シュメリの言う通りだ。
たとえ、一緒に暮らさなくても、遊びにだって行ける。
きっとバルトは会いに来てくれる。
(全部、僕の我儘だ)
わかっているけど。
簡単に受け入れられない。
心が捻じ曲がって、納得できない。
だって、寂しい。
「バルトがいないと、寂しいよ」
「私がいても、ダメかい」
シュメリの声が寂しそうだ。
違う、そういうんじゃないんだ。
シュメリにそんな思い、させたいわけじゃないのに。
「シュメリが好き。シュメリといるの、嬉しいし、楽しい」
だけど、シュメリとバルトは違う。
自分の気持ちをどこに持っていけばいいのか、わからない。
(三人でいられる今が幸せ過ぎて、失くしたくないんだ)
それはやっぱり僕の我儘で。
それくらい僕だって、わかってる。
(これも、大人になるってことなのかな)
だとしたら、大人は寂しい。
(でも……)
僕は、ちらりとシュメリを窺った。
「シュメリ、ごめんなさい。結婚しないなんて、思ってない」
「わかっているよ」
僕は起き上がって、シュメリに抱き付いた。
「悲しい想いをさせて、ごめんね、シュメリ」
「大丈夫、何があっても離す気はないから」
シュメリが強く抱きしめてくれる。
その温もりも匂いも、大好きだ。
絶対に、失いたくない。
僕はシュメリの胸に顔を埋めて、その身体を抱き返した。
次の日の早朝、僕はバルトの部屋に行った。
ドアをノックして、声を掛ける。
「バルト、いる?」
「いるよ」
静かな声が返ってきた。
緊張しながら、僕はドアを開けた。
「おはよう」
バルトは、コーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。
「おはよ。目、腫れてるな」
バルトが僕の目尻を指でなぞった。
シュメリと同じ仕草なのに、バルトにされると安心する。
「昨日は、ごめんなさい」
「いや……あれは、俺の話し方が悪かった。森の家はしばらく、そのままにしておくから、安心しろ」
「うん……」
バルトが僕の頭を撫でた。
「何もかも全部なくなったら、寂しいよな」
バルトの手が温かくて。
声が優しくて。
ぼろっと涙が零れた。
「それじゃダメだって、わかってるけど。森の家がなくなるのも、このお屋敷からバルトがいなくなっちゃうのも、やっぱり悲しいんだ」
この悲しみは、僕にはまだ大きすぎて。
僕の中から溢れちゃうんだ。
「うん」
バルトが僕の涙を拭いてくれた。
「悲しいけど、バルトに幸せになってほしいって、思ってもいるから。バルトが決めたこと、わかったよって言える僕に、なろうって」
涙が止まらなくて、言葉が続かない。
「そうなれるように、頑張るから」
「……うん」
バルトが立ち上がって、僕を抱きしめた。
バルトから抱きしめてくれるのなんか、久し振りだ。
「本当は、俺のほうが全然、子離れできてねぇんだよ。お前が俺のこと追ってくるの、嬉しいんだ。それじゃ、ダメなのにな」
久し振りに、間近にバルトを感じる。
温もりも匂いも、昔と同じバルトだ。
「リンネはいつまでも、俺の大事な育て子だよ」
「バルトぉ」
涙が、とめどなく溢れる。
「だから、幸せになれ」
「うん……うわぁん」
バルトの言葉が嬉しくて、僕は声を上げて泣いた。
僕が泣き止むまで、バルトは抱きしめてくれていた。
この温もりに甘えるのは、最後にしないといけない。
そう思うと悲しいけど。
昨日までのモヤモヤは、僕の胸にもうなかった。
コメント
1件
第48話、読み終えたよ……。リンネがちゃんと「ごめんなさい」って言えたのが、すごく良かった。シュメリもバルトも、怒らずにリンネの気持ちを受け止めてくれる大人で、胸が熱くなった。特にバルトの「子離れできてねぇ」って本音、グッときたわ。リンネの成長と、二人の愛情が感じられる、温かくてちょっと切ない回だった。大好きだ。
お股ポテト
29
はるにし
72