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さつまいも

「……チタ女王。まだ、例の失踪劇についての真相を語ってくれないのですか」
「もう、何十年も前の話でしょう。今、話すことでなんの意味があるのです」
「いえ、だって気になるじゃないですか」
「私が語れるのは、あの国民に寓話と揶揄される真実のみです」
「……また、その話ですか」
「私が直々に本に書いてあげたでしょう。これを読んでくれたらわかりますよ」
「『狂想』ですか。しかし、これはあの迷信……「名もなき山の中に化け物がいる」というものを空想したものでしょう」
「そう思うなら思えばいいのです。ただ、私にとって、彼らは確かに生きていた。彼らは、立派な人だったのです」
「はあ。まあそう仰られるなら、もう問いません……ハーブティー、おかわり入れましょうか?」
「ありがとう。お願いするわね」
「失礼します」
側近が部屋を出た。
チタ女王は窓辺に座り、優しく本の表紙を撫でた。
装丁には、デフォルメされた三つ目の化け物がいる。
彼らは、誰よりも人間臭かった、と今になって思う。
そして、チタ女王にとって、これは夢だったのではないかとも思う。
彼らのその後は、知っている。
でも、彼らが今どこにいるのかはもう知らない。
それは、重要なことではない。
チタ女王にとって、彼らが生きた軌跡を残せれば、それで良かった。
革製の手触りのいい本を持ち、空を見る。
遠く、遠く霞に消えるように、名もなき山はそこにあった。
チタ女王は最後のページを開く。
ずっと後悔していた。
最後の一節。
伝わるところによれば、その名もなき山の中には、いわく。
___恐ろしい化け物が棲んでいる。
そうではなかったのだ。
これは加筆訂正しなければならない。
そう、この物語を締めるにふさわしい言葉は。
伝わるところによれば、その名もなき山の中には、いわく。
___誰よりも人間らしい化け物が棲んでいた、と。
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