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皆様、こんにちは。芽花林檎です。早速ですが、次のお話に参りたいと思います。それでは、ご覧ください。
(お願いをまとめた文書が公開されております。お時間がございましたら、そちらもご覧ください。)
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ここは、天界。天使の住む世界。天使というと、どのようなイメージがあるだろうか。神様の使者として、神様と人の仲介を担うもの、宗教から生まれた存在と思う人も多いだろう。また、普通の生活で天使という言葉を使う場合、大概、やさしい心で人をいたわるものという意味合いが含まれることが多いだろう。でも、この天界にいる天使の風貌は、私たちの思う天使とはかけ離れているらしい……
天界。美しい。本当に美しい。言葉で言い表せないほど、美しい。誰もがこの世界を見てそう思う。空は瑠璃色で、雲は光をはらんだ薄い金色に光っている。風が穏やかに流れていく。
でも、その美しさの奥深くには、冷たい気配があった。美しい。確かにこの世界は美しい。でも、温かみがなかった。美しいという概念だけを描写したかのような世界が広がり、そこに、命はなかった。
天界の入り口にある静寂に包まれた森の深くには、泉があった。ひっそりとたたずむ泉。水面は、鏡のように空を、雲の淡い光を反射し、時折、泉の深いところから、光がやさしく放たれる。泉は、人の願いと欲望を映す鏡だった。人間界から届く強い感情に共鳴すると、光が差し込み、それが形を成す。それが妖精であり、天使である。泉は、この世界の根源だった。
入り口は、こんなにも美しい。誰もが見ても美しいと思うだろう。でも、そこに温かみはない。冷たさだけが残る。残忍な美しさ。美しさの形骸化。内部に足を踏み入れてみると、入り口の光景がすべて虚偽だったように思える……
周囲には、天使たちが住まう白亜の塔が立ち並んでいた。その表面は、残酷な光を反射し、氷のようにきらめいていた。その地面を、天使たちが歩いている。美しい。肌が透けるような半透明の布を身にまとい、透けた肌が光を反射して柔らかく光り、立ち振る舞いは、完璧としか言いようがなかった。歩くたびに、その周囲が光に包まれ、きらきらと輝いて見える。でも……その瞳に、感情はなかった。瞳に、光はなく、ただ冷酷だった。感情の欠片もない。無機質で、機械的、人間の際限のないどす黒い色に染まった欲望から生まれた彼らは、その欲望という衝動に身を任せ、行動する。欲望を満たすというただ一つの目的のために手段を択ばない彼らがいる世界は、阿鼻叫喚だった。
ある天使は、ほかの天使の衣服を剝奪し、ある天使は、私有地を拡張しようとし、ある天使は、ほかの天使の心臓に刃を突き立てる。声もなく、感情もない。ただ美しい顔のまま、無表情で互いを傷つけあう。そう、ただ、欲望を満たすという目的のためだけに。人間の際限のない欲望が具現化された存在である彼らが行動する世界の光景は、地獄よりも冷たかった。
その日、泉が不意に震えた。水面に淡い光が差し込み、静かな波紋が広がった。天使たちが振り向く。光が泉に差し、それが光の粒となって、ひとつの形を成していく。でも、その光の粒は……天使たちが期待する冷たい光の礫ではなく、柔らかく、温かく、慈愛に満ちた光をはらんでいるものだった。泉の中心から、小さな人影が浮かび上がる。透き通るような体、淡い光を纏った薄い桃色に染まった髪。その瞳には、まだ世界を知らない、純粋無垢な、そしてあたたかな感情に満ち溢れた光で満ちていた。ー妖精だ。妖精が生まれたのだ。でも….天使たちの表情が歪む。冷たい憎悪と、殺意がにじむ。
…….「異物だ。排除する。」
声なき声が、天界に響いた。その瞬間、天界に、冷たい亀裂が入った。
妖精は、まだ自分が何者なのか知らない。自分が、周りの天使と何が違うのかも知らない。ただ、胸の奥一つだけ、確かな、ゆるぎない衝動があった。
ーーーー誰かが、僕を呼んでいる。
名前はまだ知らない。誰か、がなぜ自分を呼んでいるのかも知らない。なぜ自分が生まれたかもわからない。
でも、その誰か、に会いたくてたまらなかった。
妖精の誕生と同時に、天界の静寂が破られ始める。天使たちが、無機質な足取りで泉に近づいてきた。妖精は直感した。
(このままだと抹消される…….)
妖精は、逃げなければならなかった。その理由を知る由もなく。
妖精は、必死に逃亡した。その誰かに会うために。
でも、その一方で……生まれたばかりの小さな生命を、天使たちは無慈悲に消し去ろうとしていた。
妖精は、すぐに知ることになるだろう。自分が天使に追われる理由。自分が生まれた理由。誰か、の名前。誰か、が自分を呼ぶ理由。
月明かりが、残酷な天界の夜を冷徹に照らす。その無機質な感情の器の中に閉じ込められた妖精は、心の奥底が震えていた。
いかがでしたでしょうか。ここまでお読みいただきありがとうございました。批評、コメント、感想、お待ちしております。それでは、また次のお話でお会いしましょう。
2026/03/10 芽花林檎
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