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何故こんな神作が伸びない。
「ごほっ……」
咳き込み、零れ落ちた『それ』を見るために机を眺めた。
「……ああ、まただ。…これで何回目だろう。」
………嘔吐中枢花被性疾患。通称『花吐き病』
……今吐いた………『花』は………勿忘草…『私を忘れないで』か………
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
初めてこれを経験したのは2日…いや、1日前だったか。
「っ…ごほっ……」
……なんの変哲もなさそうなこの咳が、後の私の日常の崩壊の音を意味していた。
「……?……花……?」
咳き込んだあとに現れた、機械の装置に落ちた……向日葵の花。……口の中からでてきたものだ。普段見るものよりは小さいが、確実に向日葵だ。
「………ああ、きっと誰かが置いていったものだ。…今になって私が気づいただけだろう。」
そのときの私は、偶然咳をしたときに初めて向日葵の花が目に入った。そう信じることにした。
………しかし、現実は無情だ。
「っ……!」
突然の吐き気に襲われ、トイレに駆け込んだ。
「うっ……おえっ………」
……普通の嘔吐であれば、びしゃびしゃと音が聞こえてきただろう。……しかし、音はなかった。
涙で霞んでいた視界が開け、中を見ると……先程の光景が浮かんできた。
「………っ…」
……………1面の花。先程と同じ向日葵の花……いや、サイズが大きくなっている気がする。……それだけがそこにあった。
「……Non………これは………人体の構造上………科学的にはありえないことではないか………?」
人間が花を吐く。そんな異様な光景に、私は私に興味を持った。それと共に、この花は口から出てきたのに、なぜ胃液などで溶けたりしないのか。…この花を作るエネルギーはどこから…………体内のどこで作られているのか………いろんな疑問が次々に頭に浮かんだ
「…この花を調べ……仕組みを知りたいな。」
科学者魂、とでもいうべきか。……このときの私はこの光景に興奮すらしていた。
「…一応書物も漁ってみよう。……ゲンドゥル君にも報告はしておくか。」
……ゲンドゥル君ならなにか知っているかもしれない。神として何年も生きているだろうから。そんな期待も込めて、部屋に戻った。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「……ゲンドゥル君、いるかい?」
その呼びかけに、すぐ返事がきた。
「はい、博士。こちらにいます。」
「突然で申し訳ないが、人間が花を吐く、というのを聞いた事はあるか?」
特になにか躊躇うということはせず、そのまま気になっていることを伝えた。
「…………なぜそのようなことを?」
ゲンドゥル君の顔が少し……本当に少しだけ。気づかない人が9割……と言えるかもしれないくらい、本当に少しだけ、怪訝そうな顔をした。…………もしかしたら見抜いたのかもしれない。……まあ、言おうとしていたから何の問題もない。
「私がそうだからだ。」
「っ………」
ゲンドゥル君は目を見開いてこちらを見つめてきた。
「……博士。………それは『花吐き病』といいます。…正式名称は『嘔吐中枢花被性疾患』です。…はるか昔から潜伏と流行を繰り返してきた、と私は記憶しております。」
「……嘔吐中枢花被性疾患……………」
…昔からあったのか。病名まで知れてしまった。…………だが、この病はどこから来たのか?……そんな私の思考を読み取ってなのか、ゲンドゥル君は言葉を続けた。
「この病は『片想いを拗らせる』ことで発病します。……発病者の吐き出した花に触ることで、他の方へ感染が広がります。」
「っ………」
危なかった。ゲンドゥル君が知らなかったら、私は持ち帰った花を見せているところだった。……感染を広げるところだった。
それともうひとつ、気になることが。
「…………片想いを……拗らせる……?」
そう、この言葉。……恋心を抱いていたのか、私は。………………恋、と思っていなかったが、よく頭にちらつく顔がある。
「…………ベルゼブブ……っ…ごほっ……!っ……………おえっ…ごほごほっ……はっ……はっ…………」
そう、あの蠅の王。………彼の顔がちらつくと、花がでる。………いや、それよりも………さっきと比べ物にならないくらい、大きくなっている。………あまりの圧迫感に呼吸が止まりかける。くるしい。すこしざらっとした花の質感も、指ではなく舌で感じている。……指か舌かだけで、こんなにも気持ちの悪いものなのだな。…………それにしても、私は苦しんでいるというのに、出てくる花はなんでこんなにも………美しいんだ。
「………っ………ベルゼブブ様……?……………いや、それよりも博士……」
「……っ近づくな。…………花に触れば感染るのだろう…?」
先程の言葉を思い出し、ゲンドゥル君を止めた。自分で吐いた花は、自分で片付ける。そうしなければ、誰かが同じ目に遭う。
「…………ふぅっ……ゲンドゥル君、……これの治療法はないのか?」
病気とわかったから、治療法もあるのではないかという結論に至り、ゲンドゥル君に聞いた。すると、険しい顔をしながら言葉を放った。
「………根本的な治療法はありません。……しかし……」
「しかし?」
ゲンドゥル君が言葉に詰まった。続きを教えてくれ、と言わんばかりに私は食い気味に聞いた。
「…………博士の想っている相手……ベルゼブブ様と『両想い』になる。…そうすることで、最後に白銀の百合を吐き出し、完治となります。」
「………両想い…………………」
……あの死に急ぐ、蠅の王と。…………無理だ。……そもそも『神』と『人間』。……そもそもの前提がおかしい。種が釣り合わない。
「………………吐き出す花には、ちゃんと意味があるんですよ。」
「……意味?」
「はい。……花言葉をご存知ですか?」
「……………あまり詳しくはないな。」
「……博士が吐き出している向日葵。『あなただけを見つめる』という意味があります。」
「…………………」
あなただけを見つめる………か。………太陽を向いて咲くからかな。……それにしても………視覚的に見えるっていうのは……すこし恥ずかしいな。
「…………………………博士。…席を外しますね。」
そういってゲンドゥル君は部屋を出た。………なにをしにいくのだろうか。……それにしても、何か覚悟を決めたような目だったような………
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ひとりでベルゼブブ様のところまで来てしまった。……いや、来て正解だろう。博士のために。
「……失礼いたします。ベルゼブブ様、いらっしゃいますか。」
「……………なんだ。……テスラのところの………」
「ゲンドゥル、と申します。」
暗いこの部屋は、先程までいたあの部屋とは真逆の雰囲気。……禍々しい雰囲気がある。
「…………ここになにをしに来た。」
「……単刀直入にお聞きさせていただきます。博士を……ニコラ・テスラ様をお救いいただきたいのです。」
………直入すぎただろうか。深く下げた頭を少し上げ、ちらっとベルゼブブ様の方を見ると、怪訝な顔をしていらっしゃった。
「………僕が……あいつを?」
「はい。…博士は今、嘔吐中枢花被性疾患という、通称『花吐き病』を患っていらっしゃいます。片想いを拗らせることで発病する、治療法がない病です。」
「…………それと僕に何の関係が。」
「その博士が片想いをしているのが、貴方様……ベルゼブブ様なのです。」
「………………………」
信じられない、とでも言うような表情をして固まっているベルゼブブ様。……繋がりでいえば、ラグナロクで戦ったくらいしかないだろう。この反応は想定内。
「…この花をご覧ください。」
先程こっそり拾った………しかし絶対に触れないよう、手袋をし、袋に入れた状態のあの花をベルゼブブ様の目の前に出した。
「……これは?」
「先程博士が吐き出した花です。……向日葵。『あなただけを見つめる』という花言葉があります。花吐き病は、発病者の片想い相手への気持ちと合う花言葉を持つ花が吐き出される病です。………おわかりですね、ベルゼブブ様。…………博士は、ベルゼブブ様のお名前を出して花を吐きました。」
できるだけわかりやすく伝えたつもり。…伝わってくれているだろうか。……
「…………なぜだ。……なぜ、僕なんだ。」
「………それは博士にしかわかりません。」
…私だって聞きたい。なぜよりにもよってこの蠅の王なんだろうか。……ヘラクレス様、アポロン様など、同じく輝く方々がいらっしゃるのに、なぜ影…闇の方なのだろう。………いや、博士の想い人だ。……私は……なにも言わない。………ことにした。
「………………向日葵、といったな。」
「……はい。向日葵です。」
「…………………………顔を見るだけだ。」
「……っ………!…」
「…………なんだ。」
「……いえ、なんでもございません。………お願いいたします。」
…博士を待たせている。……早く戻らなければ。……意外な答えを出したベルゼブブ様への小さな驚き、博士を救ってくださることへの大きな感謝、そこに混じる複雑な感情(………いや、考えないことにしよう。)を抱いて博士の元へ戻った。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
……コツ、コツ、と靴と床がぶつかる音がする。……なぜこんなことになったのだろう。
………このワルキューレ………ゲンドゥルが急に部屋を尋ねてきたと思えば……『テスラを救え』だなんて言い出して……
………………誰にも言ったことはない。………僕はテスラに対して……説明のできない感情を抱いている。………………ただ、自分の中のサタンに壊されないよう、『説明のできない感情』で留めている。…………
………向日葵。……………見たことはあっただろうか。…………あの花は……僕には眩しかった。………しっかり見ることはできなかった。……ただ、美しい、とは思った。…美しいなんて………無縁の僕が……そう思ったのは……なぜだろう。
……そう考えていたら、ゲンドゥルが話しかけてきた。
「……ベルゼブブ様、花吐き病について補足させてください。」
「………………」
なんと返事をしたらいいのかわからず、無言になってしまう。……しかしゲンドゥルは言葉を続けた。
「……………花吐き病。昔から潜伏と流行を繰り返していました。」
「………………」
「……………片想いを拗らせ発病し、治療法がない、と言いましたが、ひとつだけ方法があります。」
「…………それに僕が関係しているのだろう。」
……片想いを拗らせていようが、結局は僕には関係がない。しかし、片想い相手に助けを求めた。つまり治すために僕が関係しているのだろうという判断をした。
「…………察しがいいですね、ベルゼブブ様。……その通りです。……治療法は、片想いしている相手と両想いになること。…両想いになれば、白銀の百合を最後に吐き出し、完治となります。」
「……………………両想い、か。」
やはりそういうことだった。……申し訳ないが、やはり無理だと思ってしまった。…………愛したものを壊してしまうサタンがいる自分に『愛』する資格などないからだ。………ただ、顔を見ると言った以上はさすがに見ないわけにはいかない。
「………博士が吐き出した花には触らないでください。感染します。」
「…………………………ああ。」
気づいたら扉の前にいた。………この先に、テスラがいる。……………大丈夫なのだろうか。…………………………そんな不安を抱いている間に、ゲンドゥルが扉を叩いていた。
「………博士。…大丈夫でしょうか?」
「…………っ……ああ……ゲンドゥル………か…………まだ……入るな…………」
「っ……!博士……?」
「…………おい、ニコラ。」
「………っ!……ぐっ……おぇっ……いっ………はっ………」
……………………中で何が起きているんだ……?………この声は………?…………………気づいたら扉を開けるために手を伸ばしていた。
「ベルゼブブ様っ……!!」
「………っ………………………」
名前を呼ばれ、ふと我に返った。………だが扉に伸ばした腕だけは戻ることがなかった。
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「ごほっ……」
咳き込み、零れ落ちた『それ』を見るために机を眺めた。
「……ああ、まただ。…これで何回目だろう。」
……勿忘草…『私を忘れないで』か………小さな花でよかったと思ってしまうくらいだ。………止まらないな、私の体は。
………それと……扉の向こうから……ベルゼブブ君の声がした。………なぜ彼がここに……?……………ああ、ゲンドゥル君か………………
「………っ!……ぐっ……おぇっ……いっ………はっ………」
痛い、と思ってすぐにガチャ、と音がして、2人の姿が目に入った。
「…………っ!……………見ないでくれ……」
羞恥心だろうか。…花を触れさせてしまうかもしれないという恐怖心だろうか。……………何かが私を震わせる。
「…………テスラ。」
「っ…………ごっ……おぇっ………」
窒息感で苦しくなり、自分で指を口に入れ、花を取り出した。
「……………赤色の薔薇、桃色の胡蝶蘭。『あなたを愛しています』。……アイビー、かすみ草。『永遠の愛』。……白色の躑躅、カタクリ。……『初恋』………………博士、いくつ想いを抱えているのですか。…………それと、勿忘草。『私を忘れないで』。……………」
…………すべて解説されていく。…私の想いを。………ベルゼブブ君。君はどうしてくれますか。
「っ………ぐぉぇ………っは……はっ……」
………………目がちかちかしてきた。………だが、花を……片付けなければ…………………………
「…………………テスラ。大丈夫か。」
「………っ……!!近寄らないでくれ………感染してしまう……………」
「……マスクも手袋もしている。服のおかげで肌の見えるところはない。花を拾うぞ。」
…………ああ、こういうところだ。……なぜ…………こういうことをしてくれる…………
「……………テスラ。聞こえているか。」
「……ああ…」
「…僕は誰かを愛する資格はない。………壊してしまうからだ。…自分の意思と関係なく。………僕が幸せ、愛を感じることで中からサタンがでてくる。そして壊す。…………テスラ。……………そんなやつを好きになって後悔してないか?」
……ベルゼブブ君は自分のことについて教えてくれた。………………返事は……
「……Non。……サタンがなんだ………壊す……?…………私はそんなことさせん。……ベルゼブブ、君は………私という……今にも壊れそうな人間を見て………そんなことを言っているのかい……?……………」
…………今、1人で確実に壊れるか……未来で、もしかしたら回避できるかもしれない、けど壊れるかもしれない………だったら1つしかないだろう。
「…………ベルゼブブ君。……私は、君が好きだ。」
「…………………そうか。………………僕は………いいのか………?…………幸せになっても…………」
「ベルゼブブ様。博士は言ったんですよ。なぜそんなにうじうじする必要があるのですか。」
ゲンドゥルにそう言われ、ベルゼブブ君は『うっ』と図星であったかのような声を出した。
「…………………………………わかった。……僕には……これが『恋』かはわからない。………けど、………テスラはなにか惹かれるものがある。」
「はいはい、それが恋ですよ。」
ゲンドゥル君が面倒くさそうな対応になってきている………
そのとき、突然吐き気が襲ってきた。
「っ………げほっ……おえっ………」
ベルゼブブ君を突き倒し、口を抑えてなんとか吐き出した。
「………………博士…………それは…………」
ゲンドゥル君がそう言ったため、何かと見てみると
「「……………白銀の…………百合………」」
ベルゼブブ君と声が被り、お互いを見つめ合った。
「……………ふっ……………」
ベルゼブブ君が耐えられなくなり、吹き出した。
「Non!ベルゼブブ君!なにを笑っているんだ!」
「…………いや……これでよかったんだなって…………………ごめん、もっと早くこうしていればよかったってことだよね。」
「…………………………本当に。…………花を吐く度に感情を知られるのはとても…………なんというか…………恥ずかしいな、あれは。」
「……博士、ベルゼブブ様。………………………おめでとうございます。」
………すこし不満げそうな声な気がしたが……気のせい、というやつだろう。
「……………ニコラ。」
「………………!?…………べ、ベルゼブブ君っ……!?」
「……………………」
すごくじとーっと見られている。……これはつまり………
「…………べ……ベル……君………?」
そう呼んだ瞬間、ベルゼブブ君が微笑んだ。
「………………はぁ…………それでは。邪魔者は退散ですね。」
「「ちょっとまってくれゲンドゥル(君)!!」」
そんな言葉を他所に、ゲンドゥルは外へ行ってしまった。
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「「…………………………」」
少し気まずくなって、先に声を出したのは私だった。
「………………………ベル君。………すこし…寝てもいいか………?……………何日も寝れていなくて……………」
そう聞いてみたら、ベル君は慌ててなにかをしだした。……毛布を2つ用意して……1つは膝に掛けだした。……なにをしているんだ?
「……もちろんだニコラ。………膝を貸そう。」
そう言い、無理やり膝に頭を乗せられた。…………毛布はこういうことだったか。……離れようとした。………だが、……意外と心地がいい。…………………………
「…………ニコラ、おやすみ。………しっかり休んでね。」
そんな声が聞こえた気がした。
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しばらくしてゲンドゥルが戻ってきた。
「ベルゼブブ様、博士。…食事を用意………あら。………ベルゼブブ様、博士が起きたら呼んでください。」
食事………そういえばニコラは食事をとれていたのだろうか。
「……わかった。」
そう短く返事をしたあと、ゲンドゥルはまたどこかへ行こうとした。
「……これをお渡しいたしますね。」
そう言って僕の手の上に小さな機械を置いた。
「………これは?」
「私を呼ぶためのボタンです。博士が前に作ったものです。……このボタンを私のと同期してあります。これを押すことで、私のボタンが反応します。」
ゲンドゥルが僕の手の上のボタンを押し、ゲンドゥルの持つボタンから音が聞こえてきた。音は小さいが、振動もある。…………この振動………………いや、気のせいだろう。
「ボタンを止めるまで音も振動も止まりません。………この細かく規則的な振動には、モデルがいるんですよ。」
「……!」
どきっとした。……振動にモデル……?………………いや………………そんなわけないだろ…………
「それでは。…ずっと前からこの振動のモデルの方に渡すよう頼まれていたものは渡しました。……なにかあればこれで呼んでください。」
「………………………は?」
「それでは、ごゆっくり。」
「いや、待ってくれ……」
引き止めようとしたが、膝にニコラがいるから動くことはできなかった。そしてゲンドゥルはそのまま去ってしまった。
「……ゲンドゥル……いや、ニコラ……」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「………………ん…」
久々に寝ることができた。……研究をしていて寝れなかったのと、花吐き病になってから体のどこがが圧迫される苦しさで寝ることができなかった。
「…………おはよう、ニコラ。」
「っ!?」
寝起きの視界でうまく見えなかった目の前が、はっきりと見えるようになってきた。その時、真っ先に映ったのはベル君の顔だった。
「…………これはどういう状況かい?」
どうなっているのかわからない。……なぜベル君の顔がこんなに近くにあるんだ?
「…花吐き病が完治して、ニコラが寝たいというから、僕の膝を貸していた。」
「………、!、」
膝の上……!?そう聞いた瞬間、私は急いで飛び起きた。
「すまん!ベル君!!」
「……なにを謝っているんだ?……元気そうならいい。……食事はとれるか。」
そういい、ベル君は右手をポケットに入れ、かちっという音が聞こえた。
「……?今の音は?」
「ゲンドゥルから渡されたボタンを押した音だ。……きっとすぐ来るだろう。」
「……………っ!!」
ゲンドゥル君から渡されたボタン……あれのことだったりするか……?いや……すぐ来るということは、あれに間違いないだろう。
「…………そのボタンについて、何か言われたか……?」
「…………………音と振動で相手を呼ぶ。振動にはモデルがいる。………ゲンドゥルは振動のモデルの方に渡すように頼まれていた。そしてモデルにしっかり渡した、と。」
「………………」
多分顔が赤くなっているだろう。聞いている途中で手で顔を覆って隠したからベル君には気づかれていないとは思う。…………なんで言ってしまったんだ………ゲンドゥル君………
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ベルゼブブ様に渡したボタンが反応した。
博士が起きたということだろう。急いで博士の部屋に戻った。
部屋の前まで来て、深呼吸をしてから扉をノックした。
「博士、ベルゼブブ様。失礼します。食事をお持ちいたしました。」
そういって扉を開けた。………そこには、顔を覆って小さくなっている博士と、その周りで博士を心配するベルゼブブ様がいた。
「………あの。」
気づいていなさそうだったので、声をかけた。すると、ベルゼブブ様が私に
「…ニコラがちいさくなってしまった」
と言ってきた。………内心、『なんだこいつ』と思ってしまったが、もちろん口にはしない。
「………こうなった原因は。」
「…………わからない。」
…これは………無自覚のやつだろう、と思った。
「……では、私がいなかった間に何を話していたのか教えてください。」
そう言うと、ベルゼブブ様は細部まで教えてくれた。…………察しはついた。
「…………………ああ……そういうことですか。……ベルゼブブ様、博士は照れているだけです。」
「…………照れ…?」
………気づいていないようだ。………幸せと愛から離れていた時間が長すぎて、そういうのに疎くなっているのかもしれない。
「……放っておけば戻りますよ。……博士、食事をお持ちしました。……なにも食べれていませんでしたよね。」
そう言って博士の方へ視線を向けた。
「…………ああ………いただこう………」
指を少し広げ、指と指の隙間から私の持つ食事を覗いていた。
「……ここに置いておきます。…お好きなときにお食べください。」
そう言って食事を置き、2人の時間を邪魔しないようにここを出た。
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…………ゲンドゥル君が去ってしまった。
………温かそうな食べ物を見て、ぐぅっ、と比較的大きな音が鳴った。
「…………ふっ」
「ベル君、なんで笑うんだ………」
ここまでしっかり鳴るとは思ってもいなかった。…だが、腹が鳴る、ということは胃腸が健康である、ということだ。……しばらく食べれていなかったから久々の食事だ。
「………いただきます。」
…おいしい。……………あの口いっぱいに広がる青臭い感じもなく、こびりついた匂いはこの食事の匂いに塗り変わっていった。
「…………ニコラ……?」
ふと名前を呼ばれる。どうしたんだ、と言おうとしたが、上手く声がだせなかった。……なぜだろう。
「………………」
ベル君は袖で私の目尻をなぞった。……その袖は濡れていた。……………そうか、泣いていたのか。私は。
「……………………ああ………ありがとう……」
………………感動だろうか。…温かかった。……食事も、私を救ってくれた2人も。
………この感謝を、私は2人に返せるだろうか。
END.
2026.03.13