テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「はい、二人共喧嘩はやめなさい」
アミは二人の間に仲裁に入る。
「だって姉様、ユキが!」
「人のせいにしないでください!」
勿論これは本気でいがみ合っているというよりは、本当の意味での子供の喧嘩だ。
ミオはともかく、ユキがこんなにも感情を顕にするのは本当に珍しい事。アミはそれが微笑ましかったが、先ずは現状を解決せねばならない。
「二人共こんな事で喧嘩しないの。これから何時でも一緒に寝れるでしょ?」
そう、これはごもっともな事。だが子供同士の喧嘩に、ごもっともという正論は通用しない。
「し……しかしですね」
「そうよ! 私は納得いかない!」
“はぁ……この調子じゃ、これから先が思い知らされるわ。やっぱりここはーー”
「いい加減にしなさい! 喧嘩した罰として、今日は二人で寝る事」
それがアミが考えていた事。
やはりお互い打ち解けるには、同じ布団で一緒に寝る事が一番と。
「じょっーー冗談でしょ姉様!?」
「そうですよ! 何でそんな馬鹿な事を……」
アミの提案に、当然の如く二人は目を丸くさせて反論した。
「二人で寝る事。いい?」
二人の意見等、全く意に介さないアミの口調は穏やかだが、表情は笑っていない。
「はっ……はい姉様!」
「わ……分かりました」
その有無を言わせぬ圧力にはミオはおろか、ユキまで牢籠ぐ。不本意ながら二人共、押し黙り従うしかなかった。
*
「全く! 久々に姉様と寝れると思ってたのに、なんでアンタなんかと……」
アミの提案で“強制的”に二人で就寝となった事に、ミオは未だにぶつくさと文句を呟いていた。一つの布団で一緒なのにお互い背を向けているので、奇妙な構図となっている。
「……」
ユキに返事は無い。というより、対抗するのに疲れたと云った方が正しいのだろう。
「何よ、もう寝ちゃったの?」
反応が無いなら無いで寂しいもの。ミオは背を向き直り、反応の無いユキへせがむ様に問い掛けた。
「いえ……」
ユキは背を向けたまま返答する。
「なんだ、起きてるじゃん! まあ……いいわ」
正直疲れた。さっさと眠ってしまうのが一番。
ーー暗闇の空間の中、暫しの沈黙が流れる。
「そういやさぁ……」
沈黙に耐えられないのか、ミオが口を開く。ユキに返事は無いが、それに構わず独り言の様に呟いていく。
「ユキはどうして、そうまでして姉様の側に居てくれるの? そりゃあ狂座からここを守ってくれるのは助かるけどさ……」
ミオは二人から、狂座から光界玉を守る為に掟を越えた協力関係を結び、力を貸しているという事位しか聞いていない。
その為、ただアミの処で厄介になっているだけに過ぎないのではないかと。
「アンタ程の力があれば、守りに入る必要は無いんじゃないの?」
それはミオにとって不思議な点だった。守りながらの闘いは難しい上、そうまでして此処に居て闘う理由が見当たらない。
そもそもユキは、云わば部外者だ。正直この集落、一族にそこまでの義理は無いだろう。
だがミオは知らない。ユキが特異点で在るという事。彼女からしてみれば、その異質な髪色や瞳は少々変わった程度の印象でしかない。
そしてユキがアミの傍に居る理由も。
アミもユキも、過去の事はミオには話していない。否、わざわざ話す必要が無い。
話しても理解出来るものでは無いし、これはアミだけが心の内に仕舞っている。
「……生きる意味」
背を向けたまま、ユキはそっと呟いた。
「生きる……意味?」
ミオは彼の言っている意味が分からないかの様に、不思議そうな顔でオウム返しをする。
「アミを守る事が、私にとっての存在理由そのものなのですよ。それでは理由になりませんか?」
ユキの言葉の意味に、ミオはやっぱり理解出来ない。
でも一つだけ確かな事。
「よく分からないけど……。でもアンタがそこまで姉様を想ってくれてる事、それは分かるわよ」
“きっとユキは何があっても、姉様を守ってくれるだろうーー”
それは短いやり取りながらも感じた、確信とも云える絶対的な信頼ーー安心感。そして確かなる絆。
話は此処で途切れ、何時の間にか二人は深い眠りに堕ちていった。
***
――――翌朝――――
アミは二人が寝ているだろう部屋へ、起こさぬ様そっと近付く。
“――あの二人はちゃんと仲良く寝ているかしら? 歳も近いんだから、もうちょっと打ち解け合って欲しいな……”
彼女はそんな想いを胸に部屋の障子をそっと、音を起てる事無く開く。
『あっ!』
思わず声が出そうとなるのを堪える。
昨夜までは、お互い背を背き合っていた二人。素直になれない、その距離感。
でもアミが其処で見た光景は、お互いが向き合って安らか寝息を立てる二人だった。
「良かった……」
“作戦は成功かな?”
アミは二人の頭上の床にそっと腰を落とし、寝ている二人の頭を優しく撫でる。
“出来れば闘いなど無くなって欲しい……”
今は叶わぬ願い。だけど願わずにはいられない。
この時が何時までも続きますようにーーと。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!