コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
サンペドロからクレンショーまで、車内はお互い無言だった。
奈津美さんの家に着くと、リビングのソファに座った。彼女は一人分空けた隣に座った。
「一つ言わなくちゃならないことがある」と俺は言った。
彼女は黙っている。
「君と逢えば逢うほど苦しい。幸せになればなるほど苦しい」
俺は目を瞑って上を向いた。
「君を傷つけたくない。でもこのままでは、そうしてしまいそうだ」
彼女は黙っている。
「君の男性恐怖症はわかっている。このままずっと一緒にいると、俺は君の期待を破ってしまいそうで怖い。
俺達、逢うのは今日で終わりにしよう」
壁時計の音がカチッ、カチッ、カチッと響く。
「でも、エバンスで会ったら話できるでしょ?」
「いや、もう話をするのもよそう。忘れられなくなる。もう姿、見せないでくれ。俺もつとめて君の前には現れない」
「でも、たまに電話していいでしょ?」
「それも困る」
「でも私、電話する」
「俺は切る。悪く思ってほしくない」
俺は下を向いた。
「それでは、元気でいてください。心から祈ってる」
そして、おもむろに立ち上がった。彼女の顔を見ることはできなかった。