テラーノベル
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午前8時20分。
カチカチ、と小気味よい音を立てて上がる青い炎。
いつもなら大きなオーブンの前で力強く生地を叩きつけているエリオットだが。
慣れないキッチンに立ち、不器用そうに小鍋を握る姿はどこか新鮮だった。
身に着けているのは、チャンスのクローゼットの奥に眠っていた古いネイビーのエプロン。
サイズが大きく後ろで余った紐が、かえって細い腰のラインを強調させている。
長い金髪は、料理の邪魔にならないよう不器用にお団子状にまとめられていた。
「ええと……トマトソースはこれでよし、あとは卵を……」
小さなまな板の上、真剣な眼差しで動かされる包丁。
チャンスのために、慣れないキッチンで朝食を作ろうと奮闘していた。
コンロの上からはトマトとハーブの温かい湯気が立ち上り、狭い空間を優しく満たしていく。
そのとき、リビングの方から静かな影が近づいてきた。
隣のコンロへ手を伸ばそうとした瞬間、背後から伸びた腕が、細い腰をすっぽりと包み込む。
「……っわ!?」
包丁を持つ手がピタリと止まり、驚きで肩が跳ね上がった。
背中にじわりと覆い被さる、馴染みのある重くて熱い体温。
チャンスだった。
ベッドから抜け出してきたばかりの姿、胸元まで緩く開けられた白いシャツ。
結んだ銀髪も少し崩れ、サングラスのない切れ長の瞳がうなじをじっと見つめている。
「チャンス……びっくりするじゃん。今、包丁持ってるんだから危ないって」
少し怒ったように口を尖らせるが、首筋に触れる規則正しい呼吸の熱さに言葉が続かなくなる。
チャンスは抗議を気にも留めず、無防備に晒されたうなじに深く顔を埋めた。
肌に直接唇を触れさせるようにして、深く、息を吸い込む。
「……いい匂いがする」
低く微かに掠れた声音が、肌を直に震わせた。
それだけで、エリオットの心臓が大きく跳ねる。
「……そりゃ、朝ごはん作ってるからね。ピザの匂いでもした?」
少し照れくさくなって、わざと軽口を叩いて動揺を隠そうとした。
チャンスのネクタイがあれば引っ張ってからかってやれるのに。
腰を抱きしめる腕に、さらにぐっと力が込められた。
エプロンの薄い生地を挟んで、ぴったりと密着する二人の身体。
「違う。……お前の匂いだ。湯上がりの、ひどく甘い匂いがする」
「なっ……」
ストレートすぎる言葉に、耳たぶが瞬時に真っ赤に染まった。
言い返す暇もなく、大きな掌がエプロンの上から脇腹、そして肋骨の輪郭をじわじわと撫で上げ始める。
男性的な指先が布越しに皮膚を擦るたび、身体から力が抜けていく。
「ちょ、待っ……チャンス、ん……」
「手が止まっているぞ、エリオット。朝食を作るんじゃなかったのか」
耳元で意地悪く囁く、低い声。
恥ずかしさに揺れる睫毛を、至近距離からじっと見つめる。
その強い圧に射抜かれ、頭の中はまたたく間に真っ白になっていく。
ゆるりと解かれる、エプロンの紐。
シャツの裾から、容赦なく素肌へと滑り込んできたチャンスの指先。
冷えた朝の空気の中で、その手のひらの熱さは暴力的だった。
触れられた場所から、じりじりと甘い痺れが広がっていく。
「……ぁ、……ん、……ちゃん、す……」
コンロの上では、小鍋のトマトソースがふつふつと激しく泡立ち始めていた。
このままでは焦げてしまうと分かっているのに。
後ろからがっちりとホールドされ、弱いお腹を執拗に撫でさすられるせいで指一本動かせない。
「ちょ、待って……焦げちゃうから……、火、消さなきゃ……」
包丁をまな板の上に置くと、掠れた声で懇願した。
からかう側の主導権を握っていたはずが、気づけば完全に鳴かされる側へと突き落とされている。
「消せばいいだろう。……自分で」
動きは止まらない。
細い首筋に歯を立て、軽く痕を残すように抉りながら。
もう片方の手でエリオットの手首を掴み、コンロのつまみへと誘導する。
「…ん……っ」
ぴったりと押し付けられた状態で、震える指先がやっとの思いでつまみを回した。
パチン、と消える火。
静まり返ったキッチンに、小さく漏れる吐息だけが切なく響く。
「……ぁ、……っ」
火が消えた瞬間、身体をくるりと自分の方へと向き合わせ、シンクの縁に押し付けた。
露わになった金髪が激しく揺れる。
「火は消えたな。……次は、俺の番だ」
サングラスのない瞳の奥、底なしの独占欲と狂おしいほどの愛しさがギラギラと灯っていた。
エリオットはもう、抗うことなんて出来なかった。
緩んだエプロンの胸元を掴み、自分からチャンスの唇へと、熱を求めるように溺れていった。
朝の静寂を取り戻したキッチンに、シンクのステンレスが擦れる鈍い音だけが低く響く。
背後から迫る冷たいシンクの縁と、目の前から圧し掛かるチャンスの硬い胸板。
エリオットは完全に退路を断たれ、ただ激しく上下する互いの胸の境界線を見つめることしかできなかった。
「……っ」
まだ何も始まっていないというのに、触れ合う肌の熱だけで喉が勝手に震える。
緩んだネイビーのエプロンが、チャンスの手によって乱暴に肩から滑り落とされた。
乾いた床に、布地が力なく落ちる音が響く。
「……ま、……待って……まだ、……ん」
言いかける唇を、容赦のない深い口づけが塞いだ。
昨日までの、カジノの緊張感を孕んだゲームのような口づけではない。
ただひたすらに本能を剥き出しにした、獲物を噛み砕くような重い抱擁。
エリオットの指先が、チャンスの崩れたシャツの背中に必死に縋り付き、その肉体に爪を立てた。
「……んむ、……っ、……ぁ」
鼻から抜ける吐息が、狭いキッチンの空気をどこまでも甘く、濃密に変えていく。
絡み合う舌の熱に浮かされながら、エリオットの頭は急速に思考の自由を奪われていった。
チャンスの手が、シャツの隙間からエリオットの細い腰を強く掴み、そのままシンクの上へと強引に押し上げる。
冷たい金属の感触が、熱を持った腰に触れて、エリオットの身体が小さく跳ねた。
「……つめ、た……っ、……ちゃん、す……」
「冷たいなら、俺の熱で我慢しろ」
低い声が鼓膜を震わせると同時に、エリオットのズボンのベルトが冷酷な音を立てて外された。
布地が引き下げられ、朝の清冽な空気に、無防備な下半身が晒される。
エリオットは恥ずかしさに耐えるように片腕で顔を覆ったが、チャンスはその手首を優しく、けれど絶対に拒めない力で退けた。
「隠すな、エリオット。全部見せろ」
「……っ、……や、だ……」
強がりな言葉とは裏腹に、エリオットの濡れた瞳は、チャンスの底なしの独占欲を真っ向から受け止めていた。
チャンスはエリオットの片足を大きく割り、己の硬い体躯をその間に割り込ませる。
朝の光の中で、二人の影が不格好に、けれど密接にシンクの壁に投影されていた。
「……っ、……んぅっ」
前戯もそこそこに、チャンスの指先がエリオットの最奥へと、容赦なく侵入を開始する。
突然の異物感と、それを凌駕する狂おしいほどの愛撫に、エリオットの背中が弓なりに撓んだ。
シンクの縁を掴む指先が白く強張り、長い金髪が激しく揺れて顔に張り付く。
「おい、力を抜け……。壊しちまうだろ」
「……だ、……誰の、せいで……っ、……ぁ」
苦しげに、けれど快感を隠しきれない声でエリオットが喘ぐ。
指が一本、また一本と増えるたびに、エリオットの内部はチャンスの熱を求めて、 貪欲に 蠢き始めた。
完全に 準備が 整う のを 待てない ほどに、 チャンスの 側も 限界を 迎えていた。
サングラスのない その 瞳は、 完全に 理性を 焼き尽くされた 獣の それだった。
「……もう、 待てねぇ」
低い 呟きと 同時に、 限界まで 昂まった 己の 質量が、 エリオットの 狭い 割れ目へと 一気に 突き崩すように 割り込んだ。
「……――ッ、 ぁ、 ……あ、 ぁ……っ!」
エリオットの 喉から 漏れた 声は、 小さな 悲鳴となって 白い 天井へと 霧散していく。
あまりの 衝撃と 密着感に、 エリオットの 視界が 急激に 滲んでいく。
しかし、 チャンスは 容赦を しなかった。
シンクの 縁に 青年を 縫い付けたまま、 本能の 赴くままに 激しく、 重く 突き上げ 始める。
ガタガタ、 と ステンレスが 軋む 音が、 静かな 朝の 部屋に 暴力的なほど 生々しく 響き渡る。
「……っ、 ぁ、 ……ちゃん、 す、 ……ん、 ぁ、 ……っ」
激しい 衝撃に 揺さぶられるたび、 エリオットの 喉から は掠れた 吐息が 零れ落ちる。
いつもなら どんな 不利な 状況でも 余裕の 笑みを 崩さない 青年が、 今は ただ 男の 腕の中で、 狂わされるままに 揺れていた。
チャンスの 大きな 手が、 エリオットの 汗ばんだ 金髪を 乱暴に 掴み、 仰向かせた 首筋に 再び 深く 歯を立てる。
「……ぁ、 ぁっ! ……ん、 ぅ、 ……チャン、ス、 ……っ」
痛みが 快楽へと 変換され、 エリオットの 内部が 狂ったように チャンスを締め付けた。
その 底なしの 罠に 嵌まるように、 チャンスも また 速度を 狂わせていく。
どちらが 攻めていて、 どちらが 堕とされているのか。
キッチンの 狭い 空間の中で、 二人の 汗と 吐息は 境界線を 失っていく。
窓の外からは、 いつしか 小鳥の さえずりが 聞こえ始めていたが。
二人には 朝の 訪れなど まったく 目に入らなかった。
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