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「お疲れ様……」
ベッドですやすやと眠るらんの身体を、壊れ物に触れるような手つきで、なんとなく撫でる。
さっきまで、狂ったように叫び、自身の体さえ傷つけかねない勢いで大暴れしていたとは思えないぐらい、今は静かに寝ている。
もっとも、それは彼女の意思ではなく、点滴から流し込まれた鎮静剤によって、意識を強制的に沈められているだけなのだが。
「……っ」
ふと、パジャマの袖から覗く腕を撫でて、手が止まる。
以前にも増して、骨の感触がダイレクトに伝わってくるようになった。肉は落ち、皮膚は薄くなり、そこを走る血管が痛々しいほど青く透けている。
はぁ、なんでなんだ。
らんは、ずっとずっと頑張ってるのに。
逃げ出したくなるような痛みを伴う治療も、一進一退を繰り返して一向に治らない症状にも、歯を食いしばって耐えてるのに。
「神様、もう十分でしょう」と、空に向かって叫びたい気分だった。これ以上、この小さな身体のどこを痛めつければ気が済むんだろう。
「ひどいね、神様は」
独り言は、無機質な病室の壁に跳ね返って消える。
俺が代わってあげられればいいのに。この骨が浮き出る痛みも、呼吸の苦しさも、全部俺が引き受けられたら。そしたら、らんはまた、あの屈託のない笑顔で笑ってくれるのかな。
「らんは本当に世界で一番頑張ってるよ。…お疲れ様」
届かないと分かっていても、声をかけずにはいられない。少しでも彼女の深い眠りに、温かいものが混ざるようにと願いながら、その細い肩をそっとさする。
「……ん」
微かな声が漏れた。
薬の底から這い上がろうとするように、らんの指先がピクリと動く。無意識に俺の温もりを求めたのか、彼女は俺の腕に縋り付こうとした。
けれど、ガチャン、という冷たい金属音がそれを拒む。
ベッドの柵に固定された抑制帯が、彼女の自由を奪っていた。
「ごめんね……ごめん。もう少しだけ、我慢して」
暴れて自分を傷つけないための処置だと分かっていても、自由を奪われている彼女を見るのは胸が締め付けられる。
俺は彼女の手を優しく包み込み、抑制帯の感触を上書きするように握りしめた。
「これが外してもらえたら、好きなだけハグしようね。行きたいところ、全部行こう。だから、今はゆっくり休んで」
彼女の呼吸が再び深く、一定のリズムに戻るまで、俺はずっとその手を離さなかった。