とんでもない頭痛で目が覚める。
カーテンの隙間の木漏れ日すら眩しい。何事かと思って体を起こすと、自分がまだ外着なことに気が付く。そうだ、昨日ストレスが溜まりすぎて愚痴って…。結局何杯呑んだんだ?若井と…若井に悪い事したな。
よく良く考えればこの世の物事は、不安定で未完成のまま進むことが多い。俺達の関係だって、若井は最初戸惑っていたが今では受け入れてくれて。あんな風に普通に話せるようになるくらいで。その内見せかけだけでも綺麗になるはず。最初からおかしな状況だったじゃないか。元貴から有り得ない筈なのに急に告白してきて、俺がそれを受け入れて、平穏だった分慣れるまでがストレスだっただけだ。年上なのに、大人気ないことをした。頭は割れるように痛いけどスッキリした気分でそう思った。若井にちゃんと謝って、元貴とも話をしよう。今日の夜には元貴が帰ってくるはずだ。
取り敢えずシャワーを浴びよう。まずはそこからだ。
◻︎◻︎◻︎
「涼ちゃん、ちょっと来て」
元貴が帰ってきて俺はすぐさま家に呼び出された。雨が降りそうな日だった。スタジオを出てからずっと無言で、それでもって手を握られていて逃げられない。疲れでテンションが低いのかと思ったが、まずい、これは相当お怒りモードだ。何したっけ、なんて言い訳しよう、まだ話し合いが出来ていないのに。いや、大丈夫。もし嫉妬の話ならいい機会だ。若井の為にもしっかり結論付けよう。あれ、そういや若井といえばこの間の夜帰りに何かされたような…?
「座って。お茶でいい?」
「あ、うん…。お構いなく…」
トクトクと注ぐ音が響く。外ではそろそろ雨が降り出したようで、どんどん音が酷くなる。こちらを元貴は一瞥もくれない。先手を切るか?いやでも逆上されて今より更に縛られたらキツイな…。まずは海外出張がどうだったか聞きながら、相手がどう出るが探るか。
「あのさ元貴」「言いたいことがあって」
声が重なる。
数秒経った後、俺がもう一度口を開いた。
「…どうだった?ハンガリーでCMの撮影だったんだよね。夜寝れた?」
「…寝れなかったよ。一睡も。それに…」
ふと口をつぐんだ。何事かと見つめていると、頭を振りコップを2つ手に持って、テーブルの向かい側に座る。ひとつを俺に差し出してこちらを見た。
「俺はいいんだよ。涼ちゃんは随分楽しんだみたいだね」
「え?いや別に…」
「じゃあこれは何?」
元貴がスマホをこちらに向けた。と、同時に心臓が止まりそうな衝撃が走った。
写真だった。夜なのか薄暗くて、少しピンぼけしている。でもはっきりと同じくらいの身長の男2人が写っている。その手は、恋人繋ぎをしていた。1人は金髪を結んでいて、もう1人は茶髪のセンター分けで___
…俺と若井だった。
「っえ…これ、何…?」
「へぇ、とぼけるタイプなんだ。涼ちゃんって」
「いやち、違くて、その…」
何が、違うんだ。鳥肌が立ち、ぶわっとフラッシュバックする。確かににあの日俺は若井に手を引かれていて、そのまま家まで送って貰って…。
「これ知り合いに貰ったんだよね。何したの?酒で記憶飛んでるなんて言わせないよ。ここ涼ちゃんの家でしょ」
「な、何もしてない!元貴、信じられないと思うけどっ」
「うんうん。そっか。ゆーっくり教えて?」
微笑んでいるが、目は1ミリも笑っておらず背筋が凍る。何も喋れないでいると、元貴は嘲笑気味にため息をついた。
「…何がいけなかった?俺が重かった?それとも若井に誘われた?」
「わ、若井は関係ない!聞いて、『俺』が悪くて…!」
「俺、がねぇ。うん、それで?」
あ、やってしまった。一人称を取り違えた。これじゃあ浮気を疑われて動揺して、答え合わせしてるみたいなもんじゃないか。
「…『僕』、が。若井を呼び出して、ちょっとした相談みたいな、ことしてた…だけ、だよ…」
「相談。なんの相談?俺にできないの?」
「も、元貴、とのことについて…だから…」
行ってる途中で声がどんどん小さくなる。押されるな、あの時、元貴が親しげに話していた時俺だって傷ついたんだ。
「…ねえ。それならさ、この前のバラエティ出演の時誰と話してたの?べたべた触らせて、随分親しげだったけど」
「…あぁ見てたの。前から仲良くしてる、歳が近い芸人だよ。それと何が関係ある訳?」
「大ありだよっ…!」
本当に気づいてないとても言うのか、お前は。
「俺にはあれもダメ、これもダメって全部封印してくる癖に、なんで自分はいいの?自分だけ満足して他はどうでもいいってこと?」
「そ、れは…!その…りょ、涼ちゃん見てるだけで危なっかしいんだよ。俺だって本来ならもうちょっと探ってから告るつもりだったのに…」
「危なっかしい?俺が不器用過ぎるからってこと?」
「違う。涼ちゃんは、その…いつも鈍臭くて天然なとこをわざと作ってんのかと思ったら、実はそんな事なくて。そうかと思えば真面目だったり礼儀正しかったり…ああもうなんて言うのかな!一言で言うとモテてんだよ、あんた!」
彼から息を切らして出てきた言葉が、上手く飲み込めなかった。
俺が、『モテている』?
作り物の俺が、本当の自分?
みんな、不完全で天然で、愛嬌のある『涼ちゃん』が好きなだけ…?
「…元貴は何にも分かってない!!見せかけだろ、そんなの!いい子にしてる部分だけ都合よく切り取って…!」
怒号が飛んだ。俺の口からだなんて、信じられない。『涼ちゃん』はこんな事しない。
「は、見せかけ?俺が涼ちゃんを形だけ好きだっていいたいの?恋に恋してるって?そんな奴らはもうこっちが懲り懲りなんだよ…!」
「違う、違くて…!俺は…!」
「じゃあ俺はどうしたら涼ちゃんを愛してるって伝わんだよ!自分勝手なとこ、俺も嫌いだよ…!不器用なんだよ、愛想つかされたくないから!」
違う。愛されてないなんて思ってない。誤解をときたいだけなんだ。俺はそんな元貴の思うようなふわふわして可愛いもんじゃない。もっと実直で、荒々しくて、それでいて…。
元貴を睨んだ。あぁもう、本当にお前が嫌いだ。
「そんなに好きなら、俺の事抱いてみろよ…!!」
ずっと孤独だった。
お前が来るまでは。本当は分かってたんだ。愛されたくて、こんな卑屈じゃ誰も構ってくれないから。あの子はみんなからなんの取り柄もないのに天然だから頼られなくても、可愛がられるんだ。羨ましかった。
でも結局、愛されるのは取り繕った方だけだ。分かってた、分かってたのに。真似してしまったんだ。期待させるような瞳でこちらを見つめてきたお前は、そんな俺をぶっ壊した。
壊したんなら、責任を取れよ。
「なんで今まで、避けてたの…?夜そういう空気になったの1度や2度じゃないよね。俺はその分寂しくて、突き放されたみたいで…」
別に抱かれることが愛されることだなんて思わない。ただ、思いを通じ合わせる手段のひとつであることは間違いない。それを避けられるんだ。まるでお前の本性を見透かしているぞ、と言われたように。
「…。俺は、怖かった。臆病なんだ。…でも、そんなふうに思ってたなら…もういいよね」
突如お前は立ち上がり、手を引かれる。
「…っ!?ちょ、元貴…!」
そのままソファーへ押し倒され、上から押さえつけられる。抵抗も虚しく、塞ぐようにキスされた。あれ、そういえばちゃんとキスもしたこと無かったな。雨の酷さとは裏腹に、元貴の目は真っ黒に澄んでいた。
「…俺だって、我慢してたんだ。手加減なんてしないよ」
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読んでくださりありがとうございます!
1番いいところで終わらせるという鬼畜…!自分でも自分に殺意が湧きます…!でも、物語はやっと2人の本心を映し出して来たんじゃ無いでしょうか。そしてやっぱりどちらも不器用ですね。次はお待ちかね、がっつりもりょきになっております。皆さん心穏やかに待って頂ければと思います…!!涙
追記:修正しました、めっちゃハンガリーでした…。
次も是非読んで頂けると嬉しいです。
コメント
4件
次回のがっつり♥️💛、楽しみにしてます❣️🤭 ドキドキワクワク✨
涼ちゃんの気迫が凄いっ!!ホレた(///∇///)