月陽は黙って夜桜の背中を見ていた。無駄がなくではとこは出て引き締まるべきところはきっちりと引き締まり、まさに完璧としか言い様のないプロポーション。
なんとも言えない敗北感を味わっていたら夜桜が浴槽に入ってきた。
狭い。……でもまあ、窮屈ではないかな。
「私ね、中学3年の時いじめがあったんだよ。さっき綺麗って、言ったね」
言う必要なんて全くない。ただ同情を誘うだけ。
それでも月陽の口から抱えていた苦悩が流れていく。
「うん。日本人形見たい」
そう言われた事に特に思うことは無く頷く。
分かってる。自分の顔だ。嫌でも毎日見る。
「この綺麗な顔のせいで醜い嫉妬で、軽いいじめが起こった。裏切られた気分だっよ。私は直ぐに逃げた。親も反対しなかったよ。それ以来私は感情なんて表に出さないようにしてきた」
夜桜は黙って聞いていてくれる。いきなりこんなこと言われても困るだろうに。
「でも、昨日はあんなに笑ってたじゃない」
夜桜はどこまでも真っ直ぐな目を向ける。
月陽は昨日久しぶりに求めた。
欲しいものを、綺麗だと思う事を、笑う事を。
少しだけ我慢し続けた我儘を。
「……そうだよ。楽しかったんだ。久しぶりにはしゃいだよ。失敗だったなあ。1年間は影のように過ごしてきて、何事も無かったのに」
月陽は嘆くように言い深いため息をつく。
「楽しかったらいいじゃない!私も!楽しかったからあの後追いかけた!」
「……気持ち悪い」
胸が詰まる。頭がボーッとする。
「えっ?」
夜桜はショックを受けたように呆然とする。
「のぼせた」
「ええぇぇえええぇぇえ!」
夜桜は、勘違いと、心配と焦りとか色々と一瞬で頭の中を巡ってこれ以上ないくらい叫んだ。
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