テラーノベル
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彼はハルさんから預かっている段ボール箱を漁っていた。 古びたアルバムや書類の束を一つずつ取り出し、中身を確かめている。
その様子をなんとなく眺めていると、ふと一枚の写真を手に取った。
彼はしばらくその写真を見つめたあと、何かに気付いたようにノートパソコンを開く。
手元のノートと画面を何度も見比べながら、忙しなくキーボードを叩き始めた。
気になって近付く。
そして写真を覗き込んだ瞬間、胸の奥がざわりと揺れた。
「あ……」
思わず声が漏れる。
そこに写っていたのは、お父さんとお母さんと、私だった。
中学校の卒業式の日。
写真の中の私は泣き腫らした目をしている。
今見ても分かるくらいだ。
「こんなに泣いてたんだ……」
友達とは違う高校へ進学することになり、みんなと離れる寂しさで胸がいっぱいだった。
でも、それだけじゃなかった。
当時の私は反抗期の真っ最中で、お父さんやお母さんに素直になれずにいた。
些細なことで言い返し、不機嫌になっては部屋へ閉じこもる。
今思えば恥ずかしくなるようなことばかりだった。
それでも二人は無理に怒ったりしなかった。
困ったように笑いながら、少し離れた場所で見守ってくれていた。
だから卒業式の日に流した涙は、友達と離れる寂しさだけじゃない。
感謝と後悔が入り混じった涙だった。
ありがとうと言いたかった。
ごめんなさいとも言いたかった。
でも結局、どちらも言えなかった。
今度でいいや。
まだ機会はある。
そんなふうに思ってしまった。
「ちゃんと言えばよかったな……」
呟いた途端、胸の奥が小さく痛んだ。
そこで不意に気付く。
そういえば私は今まで一度も両親のことを思い出していなかった。
忘れていたわけではない。
写真を見ればすぐに分かるし、一緒に暮らしていた頃の記憶だって残っている。
それなのに思い出さなかった。
考えようともしなかった。
まるで、そこだけ避けて通ってきたみたいに。
「なんで……?」
理由は分からない。
だけど結果として、私は両親を遠ざけていた。
写真の中のお父さんを見る。
隣で笑っているお母さんを見る。
胸の奥がじわりと熱くなった。
そうだ。
お父さんとお母さんはどうしているんだろう。
死んだことは知っている。
見たわけじゃない。
ニュースで知った。
私が死んだ後に。
「変だよね」
苦笑が漏れる。
「自分が死んだ事件をニュースで知るなんて」
両親はこの部屋で殺された。
誰かに。
そこまでは分かっている。
でも私は自分がどこで、どうやって死んだのかを知らない。
事件は未解決のままなのに、私だけが途中で放り出されてしまったみたいだった。
彼は画面を睨みながら何かを調べている。
時々ノートを確認し、「うーん」とか「待てよ」とか独り言を漏らしながら頭を掻く。
きっと事件のことだ。
都築七美
360
#初心者だからつまんないかも....
海夏
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ピデピー
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少し前までの私なら興味も持たなかったと思う。
犯人が捕まろうが捕まるまいが、もう死んでいるんだから関係ないと思っていた。
でも今は違う。
知りたい。
お父さんとお母さんに何があったのか。
私に何があったのか。
そして、どうして私はここに残っているのか。
「ありがとう……」
気付けばそんな言葉が零れていた。
当然、彼には聞こえない。
それでも言わずにはいられなかった。
私のために。
私が知りたいことのために。
こうして調べ続けてくれている。
両親は共働きだった。
帰りが遅い日も多かった。
そのおかげで私はハルさんと親しくなったし、寂しいと思ったこともそれほどない。
お父さんたちは申し訳なく思っていたみたいだけど、私はちゃんと分かっていた。
二人が私を大切にしてくれていたことを。
「分かってたよ」
自然と言葉が漏れる。
「──本当に分かってたんだよ」
だからこそ苦しかった。
もっと素直になればよかった。
写真の中のお母さんは優しく笑っている。
お父さんも少し照れ臭そうに笑っている。
そういえば熱を出した夜、お母さんは何度も部屋を覗きに来てくれた。
運動会の日は、お父さんが誰より大きな声で私の名前を呼んでいた。
恥ずかしくてやめてと言ったのに、嬉しそうに手を振っていた。
そんなことまで思い出してしまう。
でも──もう会えない。
その事実が胸の奥へゆっくり沈んでいく。
この部屋に二人の姿はない。
私みたいに残っている気配もない。
それはきっと、ちゃんと成仏できたということなのだろう。
本当なら安心しなければいけないはずなのに、胸の痛みは少しも軽くならなかった。
「会いたい──」
声が震える。
「お母さん」
返事はない。
分かっている。
それでも言葉は止まらなかった。
「お父さん」
静かな部屋に自分の声だけが落ちる。
どこにもいない。
もういない。
その現実が急に怖くなった。
「ごめん……」
視界が滲む。
「ごめんなさい」
言えなかった言葉が次々と零れる。
「ありがとうって言いたかった」
「ちゃんと伝えたかった」
涙が溢れて止まらない。
「一回だけでいいから」
「もう一回だけ」
「会いたいよ……」
声にならない嗚咽が漏れる。
幽霊なのに。
涙なんて出ないと思っていた。
「泣けるんだ……私」
そう呟きながら写真へ手を伸ばす。
お父さんに。
お母さんに。
触れたいと思った。
けれど指先は何も掴めなかった。
当然だ。
私はもう触れられない。
その当たり前の事実が、どうしようもなく悲しかった。
その瞬間。
彼がふと顔を上げた。
「ん?」
怪訝そうな表情でノートパソコンを見る。
「変だな。雨漏りかな?」
私はつられて画面へ目を向けた。
ディスプレイの端に小さな雫がついている。
いつの間にだろう。
ぼんやりとそんなことを思った、その直後だった。
不意に身体が軽くなる。
胸の奥に長いこと引っ掛かっていた何かが、するりと抜け落ちたような感覚。
「え……?」
思わず胸元へ目を落とす。
胸から伸びる紐が一本減っていた。
「あ──」
思わず声が漏れる。
また切れたんだ。
理由は分からない。
前の時もそうだった。
私はしばらく黙ったまま、自分の胸元を見つめていた。
コメント
1件
うわ……第6話、胸がぎゅってなったよ。 写真見つけて、初めてちゃんとお父さんお母さんのこと思い出したシーン、泣けた。 「ありがとう」「ごめん」って言えなかった後悔がひしひしと伝わってきて、私も涙出そうになった。 それに気づかないふりしてたっていうのも、なんだかすごくリアルで。 紐がまた減った描写も、心の重荷が少しずつ解けてるみたいで、すごく切なかった……。 続き、気になるよ。