久しぶりに我が家の扉を開けた。
家は当然手入れをされていないので、家具や床は埃っぽく、壁を登る小さな蜘蛛が数匹いた。だが、外とは違ってここには腐敗臭はない、それだけで十分だ。
パーカーさんと共に、父が使っていた部屋がある二階へ向かう。
「ここが父の部屋です。一階より汚れていると思いますよ」
「問題ない、中へ入ろう」
父の部屋の扉を開け、中に入る。
そこには埃の溜まった大きな本棚、木製の作業机、クローゼット、ベッド…。父が使っていた家具がそのまま放置されていた。
パーカーさんと父の研究書を探す。探すと言っても、この部屋には研究書どころか本も紙も殆ど残っていなかった。
パーカーさんは一階を探してくると言い、階段を降りて行った。私は変わらず父の部屋で研究書を探す。 本棚はもちろん。ベッドの下、クローゼットの中、机の引き出し。
どこにも父の研究書はなかった。
父の部屋は諦め、一階へ行こうと階段を降りようとした時、パーカーさんに呼ばれた。
「ティファニ、ちょっと来てくれないか!」
彼の元へ向かう。
「どうしたんですか?」
「これを見てくれ」
彼がカーペットを捲ると、そこには扉があった。
「君、これが何か分かるかい?」
彼は扉を開ける。
「いえ、こんな物があるなんて初めて知りました。地下室…ですかね?」
「おそらくね」
地下へと続く階段。何年も住んでいた家に、まだ知らない場所があるなんて思いもしなかった。きっと両親が隠していたのだろう。それか両親も知らなかったか。
「行ってみようか。あ、怖かったら来なくていいからね」
彼は私を気遣って来なくていいと言ったのか、それとも挑発、言葉通り来なくてもいいという意味なのかもしれない。
「…行きます」
私は挑発と捉え下へと降りた。
地下室に到着する。そこには壁一面の本棚と、本棚に隙間なく詰められた大量の本があった。
「これは…全部カルトの物かい?」
「わかりません、この部屋に来るの初めてなので…」
彼は興味津々の顔つきで本棚に近づき本を手に取る。
「…素晴らしいね、おそらく全てカルトの物だよ。生物や植物の研究書が山ほどある。僕の求めていた本もあるかもしれない」
全て父の研究書。私は信じられず、本の詰まった部屋を見渡す。
私の知らない父の事を知れるかもしれない、小さな希望を信じて一冊の本を手に取る。その本には植物について記録されていた。
黄色でラッパのような形をしたフリージア、赤い実のなるアオキ、アルゴちゃんの好きな青く燃える青火草など、様々な植物が父の筆跡で残されていた。
「お、あった…」
しばらく本を読んでいると、パーカーさんが独り言のように呟いた。私は彼の元へ行く。
「それが探していた研究書ですか?」
「あぁ、この本は主に蝶について記録されていてね、その中に記録された血吸蝶について僕は知りたかったんだ」
血吸蝶については私も興味があったので、彼の持つ本を覗き込もうと顔を近づけようとした時、彼は急に本を閉じた。
「…読まないんですか?」
「読むよ、帰ってからね 」
私は血吸蝶のページを読めなくて少し不満だったが、気にしないことにした。
「僕はもう欲しい物を見つけたし、そろそろ帰りたいんだけど…君は何かあったかい?」
「いえ、特に何も…強いて言うなら、この植物の本を持って帰ろうかなと思っています」
「そう、じゃあ帰ろうか。そろそろ陽が沈む」
地下室の階段を上り、私達は帰宅準備を始めた。