亮平 side
仕事帰りの夕暮れ時、右手に提げた紙袋からはガサガサと乾いた音が軽快に鳴り響いた。翔太の待つマンションへ足取り軽く大股で闊歩する。西日が眩しく思わず左手で遮ると、指に痛々しく貼られた絆創膏が勲章のように誇らしく夕日に照らされた。
亮平💚『それにしても…痛い』
昨夜は正直突拍子もない翔太の馬鹿げた提案に頭の整理が追いつけず、家に帰ってからも布団の中でなかなか寝付けなかった。どうせ眠れないのならと布団から飛び出し、今日の翔太の誕生日のお祝いに時間を費やした。
勿論、蓮の許可など取っていない。会うのは禁止されてないし、何だったらこのまま居着いてやるくらいの勢いだ。マンションに着く頃にはその勢いは大分萎んでしまっていたのかインターホンを押す指が小刻みに震えた。〝はぁ〜いどちら様〟普段テレビで見るシャキシャキと歯切れよく喋る翔太とは違ってオフモードのゆるゆる翔太くんが目から上だけ顔を出した。
亮平💚『20時間と38分ぶりの亮平くんだよ♡翔太お誕生日おめでとう』
〝ウザっ〟そう言いながらも嬉しさ全開で画面に何度も映ったり消えたりして、翔太がぴょんぴょん跳ねている様子が窺えた〝落ち着きなさいよ////〟可愛いんだからは直接会って言いたかった。何の躊躇いもなく開けられた扉に胸を撫で下ろすと翔太の待つ部屋までエレベーターで上がっていく。
翔太💙『ねぇ指どうしたの?大丈夫?痛そうだけど』
亮平💚『フフッ///まだ秘密』
部屋に入るなり痛々しげな両手の絆創膏を見て翔太は心配して俺の指に触れようと手を伸ばした。
亮平💚『こらこらダメでしょ//ねぇ油断しないで』
“今居ないよ?お留守番中なの〟 蓮は翔太のバースデーパーティーの買い出しへ出掛けたのだとか。自分で提案しておいて脇の甘い翔太に急に不安に襲われる。 まさか昨夜抱かれたりしてないでしょうね・・・寝室の時計が1時間ずれている事がやけに引っ掛かった。
鬼の居ぬ間とはいえ、男同士の約束事だ。 容赦なく叱責すると“真面目すぎる〟だとか”優等生め〟などと散々暴言を吐くと挙句の果てにはフリータイムだとか訳の分からない事を言い出した。
小声で〝じゃあちょっとだけね〟と言って玄関ホールで抱き合う俺も大概脇が甘い。抱擁だけで終わるはずもなく、 自然と玄関扉に伸びた手が施錠すると唇が触れ合い次第に激しくなるとホールにリップ音が響いた。 吐息が翔太の耳にかかると上気した肌に、潤んだ瞳が僅かに残る理性を吹き飛ばす。止まない抱擁に終止符を打ったのは翔太の方だった。
翔太💙『ねぇベット行こう///』
それはもっとアカンやつです・・・
亮平💚『翔太嬉しいけど今は我慢の時だよそうでしょ?これ以上は』
翔太💙『フリータイムだよ//きっと蓮も文句言えない』
やっぱり何かあったな…向こう側の景色だとかなんとか託けて、蓮の恋心を収めたいのだろうけど長年に渡る片思いの末の末路がそんな子供じみた作戦に絆される事なんてあるだろうか。曲がりなりにも片思いの経験があるはずの翔太が思い立った作戦に首を傾げざるを得ない。
何とか説得をしてリビングのソファーに座る。主人の居ない家に翔太と二人きりだなんて何だか落ち着かない。
亮平💚『少し離れてくれる?ムラムラしちゃう////蓮が帰ってきたら慌てちゃうでしょ?』
翔太は先程から口を尖らせたままテーブルの上に顎を乗せてつまらなそうに俺の作業を見つめている。
翔太💙『さっきから何やってるの?それに凄い荷物だね』
亮平💚『パーティーの準備だよ♡楽しみに待ってて…あっ翔太も協力してね////はいこれに着替えてね』
翔太💙『分かった…あっこれ目を通しておいて!亮平もサインしてね』
🗒️目黒家居候における規約
一、翔太くんに指一本触れてはならぬ (唇、足スリスリ、その他の四肢に関わらず接触行為を禁ずる)
一、タイムリミットの延長は認めない(狂った時計を戻す事、フリータイム制度の撤廃)
一、翔太くんからの要望があれば互いに接触OK(蓮に限り有効。ムラムラした時は触ってあげましょう♡)
⚠️阿部さんは引き続き接触禁止です。
上記規約違反が見られた場合は直ちに翔太くんへの片想い行為をやめる事、並びに彼の愛する者への嫌がらせ行為も行わないこととする。ミッションクリアとなった場合は阿部家より早期撤退をし目黒家へ嫁ぐ事
渡辺翔太 目黒蓮
有効期間11月27日
何だよこれ💢ツッコミどころ満載の規約に絶句する。翔太くんBOXを大放出した甲斐があるといいのだけれど。我ながらお粗末な作戦に些か不安はあるが、できる事は何でも挑戦しよう。早期奪還へ向けて身を削る所存だ。まっ俺の身を削るというよりは・・・
翔太💙『何だよこれ💢何かの違いだよね?』
亮平💚『やだ最高////』
二枚重ねのチュールがふわふわと空気を纏うと裏地のスカートにあしらわれた小さなパールがキラキラと揺れた。スカートの色はブラック♡上着には華奢見えするオフショルトップスを採用。すっきり開いたデコルテとボリューミーなフリルの相乗効果で、細見え度がググッと倍増♡シックなモノトーンカラーでクラシカルな甘さにきっと蓮もメロメロ間違いなしデコルテに伸びるいやらしい手が想像出来るほどだ。艶やかな白磁の肌にあの変態が我慢できるはずはない。そして極め付けは何と言っても翔太くんBOX一押しの…ウフッ覗かないと見えないのがまたいいのよね〜想像しただけで〝可愛い♡〟
翔太💙『一ついい?蓮がモノトーンコーデが好きなのは知ってるけどそれって女の子の話でしょ?俺がこんな格好する必要がある?』
うん俺が見たかっただけ…〝大丈夫これで堕ちない変態はいないから色仕掛け作戦だよ〟ふふ…可愛い
翔太💙『ところで亮平も規約にサインしてくれた?』
亮平💚『翔太これ最後までちゃんと読んだの?』
指で〝蓮に限り〟の文字をトントンと叩いた〝ん?〟
…サンシャインドリーマーのあのマヌケ面の再来だ。さてはちゃんと読んでないな…
翔太は空いた口が塞がらないご様子〝ムラムラって何だよ💢俺は亮平にしかムラムラしないぞ〟なんて言って可愛いし悪い気はしないのに、俺だけ触れないなんて最悪だ。
亮平💚『ちゃんと読みなさいよ馬鹿者////とにかく色仕掛け作戦決行よ!頑張って翔太!』
翔太💙『OK任せて!何としてもあの変態に触らせて今日のうちにこの家を出て行こう』
蓮 side
翔太くんムラムラ作戦に思考を巡らせながらの買い物は実に有意義な時間だった。彼の大好物を準備するのは言わずもがなだが、油断させたところにアルコールは必須だろう今日はちょっとお高めのシャンパンを購入した。
触れないとなると…ポラセボ効果ならいけるかもしれないな〜。そんな事を考えていたら店を出る頃にはすっかり外は暗くなり街灯が灯った東京の街並みは暖かい光に包まれて見えた。家で待つ人が居る…ただそれだけでこんなにも世界が違って見えるんだ。昨夜まで家路を急ぐ人の群れを妬ましく見ていた自分が、今日は足取りも軽く弾んで、軽快に足を前へ繰り出すと都会の喧騒さえも優しく耳に響いた。
公園に差し掛かると東から登った神々しいほどの巨大な満月が辺りを明るく照らしすれ違う人々が物珍しそうに東の空を見上げた。翔太が楽しみにしていたスーパームーンを目の前に更に足取りが速くなる。
蓮 🖤『只今!翔太、月がきれ…なっ////』
翔太💙『月と僕どっちが綺麗////』
蓮 🖤『可愛いけど////その作戦には大分無理がある下心バレバレだよ阿部💢何でお前がいるんだ!』
亮平💚『あら?もっと喜ぶと思ったのに早々に作戦失敗だなんてそれに先輩に向かってお前って言った?お帰り蓮。彼女の誕生日を祝わない彼氏はいないでしょ?』
蓮 🖤『触れない翔太にこんなモノを着せるなんて酷い仕打ちだ!言っとくけど自分の首も絞めているからね』
翔太に触れないようにふわふわと揺れるスカートの裾を捲ると男物の下着を履いている〝爪が甘いぞ阿部💢〟阿部ちゃんは慌てて確認すると何で苺のパンツ履いていないんだと翔太を咎めている。誕生日に女の子の格好をさせられ女性者の下着を履く事を強要している阿部は恐ろしい…そしてイヤイヤ言いながらも早速着替えて〝これでいい?似合ってる?〟なんて聞いて素直に受け入れている翔太も大概恐ろしい。そんな仲睦まじい様子にムラムラしている俺はもっと恐ろしい…
今こそ、これまでに築いてきた忍耐力が試される時だ。克己の精神を保ち自らを律する事ができた者がこの勝負の覇者となる。
腹の底に力を入れ気合を入れると料理に取り掛かる。何事もなかったようにキッチンに立った俺に立ちはだかるは、新しいアイテム苺柄のエプロンを装着した悶絶必須のしょっぴーだ。なんて卑劣な手口で攻めてくるんだ阿部め。
翔太💙『何かお手伝いするよっ♡』
更なる追加アイテム猫耳を装着した翔太はこれ見よがしで頰を俺の肩に擦り寄せてきた。
蓮 🖤『今日は俺の誕生日か何かかな?最高なんだけど』
亮平はキッチンカウンターに座り顎を手に乗せて左右に揺れうっとりと翔太を見つめている。これはこれで可愛らしい。翔太BOXをカタカタ鳴らして長期戦を見据えた亮平は、時折箱を除いては次の一手を思案している。その様子はさながらゲームの必殺技を繰り出すタイミングを計る子供のようだ。
翔太にはローストビーフの添え野菜をお願いした。流しで一生懸命レタスをもぎっている。極力翔太から距離を取り料理に集中する。亮平から何か言われているのだろう時々近付いてきては上目遣いをすると〝美味しそう////〟などと言って潤んだ瞳で俺を見つめた。〝君の方が美味しそうだよ〟と言って返すと〝ヤダァ////〟なんて言ってイヤらしく俺の肩に触れた。触れないなら向こうから触って貰おうじゃないか。亮平は自分で仕掛けておいて羨ましそうに口を尖らせて睨みつけている。
蓮 🖤『翔太残念だけど俺を誘惑するにはもうひと工夫必要だよ。裸にエプロンぐらいじゃないと俺の変態は引き出せないよ?』
翔太💙『なっ////』
かなりの衝撃波だったのだろう後ろに一歩足を仰け反るとジリジリと詰め寄る俺に更にもう一歩後ろに後退すると〝裸エプロン賛成♡〟と亮平からの援護射撃に壊滅的ダメージを喰らった翔太は青ざめている〝今日僕の誕生日だよね…〟それを言うのは反則だろう。
蓮 🖤『まっ構わないよ別にオレは』
困るのは俺じゃなくてこのバカップルだ。亮平は〝ちぇっざぁんねん〟と言ってガサゴソ翔太BOXに手をかけると苺のニップルアクセサリーを取り出して〝蓮こんなのもあるけどどう////?〟なんてホントにこの男でいいのか翔太…
翔太💙『ちっとも楽しくない…最悪の誕生日だ』
エプロンをかなぐり捨てて〝もう寝る〟と言った翔太は客室へ逃げるように籠ってしまった。亮平と顔を見合わせた互いに罰が悪そうに微笑むと〝休戦としましょどうかな蓮 〟俺も同じ思いだ。深く頷くと二人で部屋の扉を開けた。
蓮 🖤『入るよ翔太』
部屋の隅に足を抱えて分かりやすく落ち込んでいる翔太はスカートの隙間から苺柄のパンツが見えていて緩む顔を見られまいと手で覆い俺に続いて入ってきた亮平に視線を送るとパンツに釘付けになってだらしのない表情をしている。膝で脇腹に一発喝を入れるとウッという鈍い声と共に〝テメェ先輩に何しやがる💢〟と大分お冠のご様子だ。
翔太💙『来るなっううっ俺の誕生日なのにぃ////出てけ変態ども』
蓮 🖤『亮平より変態ではない』
亮平💚『はぁ💢ふざけないで誰のせいでこんな事になってると思ってるだよ!』
蓮 🖤『君の彼女のせいだよ間違いない』
亮平💚『はぁ…おいで翔太//今日は無礼講って事で蓮の許可も頂いたから抱っこしてあげる』
一気に目に輝きを灯すと亮平の元へ突進して再びウッと鈍い声を上げ目尻を下げうっとりと翔太の頭を撫でた。こんなバカップルに付き合わされて俺は一体何やってるんだか。まぁこれで今夜も翔太を触れる事になったんだ。結果オーライだろう。
斯くして漸く始まった誕生日パーティー。苺のエプロンは俺達たっての希望でそのまま装着したまま亮平の隣にちょこんと正座して〝本日の主役〟と書かれたタスキを肩から下げて座っている。テーブルにはワイングラスにローストビーフと蟹のクリームパスタが並び目をキラキラと輝かせた二人が同時に〝ん〜〟と言いながら匂いを嗅いでパスタから立ち上がる湯気を吸い込んでいる姿は餃子のCMを思い出させた。並々と注がれたグラスがカツンと鳴ると〝翔太お誕生日おめでとう〟と二人の声が重なると薄い唇の口角が上がり〝ありがとう////〟を告げると翔太はシャンパンを一気に煽った。
用意していたプレゼントを渡すとビシッと姿勢を整えた翔太は両手で受け取ると礼儀正しくお礼を言って〝開けてもいい?〟と尋ねてから丁寧に包み紙を開けた。箱に収まったシンプルなシルバーのフープピアスは月甲丸型の形をしており満月を楽しみにしていた翔太に毎日身につけて欲しくて選んだ。
翔太💙『ありがとう////ねぇ早速付けてよ』
チラッと亮平の方を見ると〝主役のご要望ですからどうぞ〟と言われ、初めての経験で少し緊張したが、綺麗な形の耳に触れピアスの穴に通した。阿部ちゃんが〝色も形も大きさもちょうどイイ似合ってる横から見たら三日月みたいだね〟翔太の頬に触れキス仕掛けた所を咳払いして阻止すると〝さぁ食べよう〟と食事を促す。二人の美味しそうに頬張る姿を見ているだけで幸せな気分になれた。
今宵は満月スーパームーン。巷では幸運のエネルギーで願いが叶うなんて言われているけど、俄然俺は 満月=狼=変態
美味しい食事に美味しいお酒。ほろ酔いの俺に泥酔の二人・・・ さぁ舞台は整った♡
コメント
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🍓大放出可愛すぎる😍😍😍😍 はぁー。最高

きゃーーーーー 舞台整ったぁ🖤💚💙😆😆😆 ナイナイミュージックとか見てたよ☺️☺️しょっぴー可愛い😍