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鈴木さんからと思しき
私宛の怪メッセージを純也に見せた
特に知らないと白を切る純也は
目も合わせず
伏し目がちに
鍋物をつつきながら
私の言葉を黙って聞いていた
これで
暗に私が
純也と鈴木さんの関係性を
認知しているというメッセージになった
それとなく
警察への相談や
開示請求を仄めかし
証拠保全も告げたことで
この先の怪メッセージの抑止力になり
開示請求で差出人が鈴木さんと確定すれば
純也たちの不倫を裏付ける証拠になる
そうなれば
僅かながら存在する
純也が私の浮気を訴えるケースの抑止力になり
離婚訴訟になった際には優位に働く
以前の私なら
ここまで考えが及ばなかった
リュカの支えがあってこそ至った境地
でも
私らしくない
計算高い嫌な自分に辟易する
それでも
避けては通れないいばらの道
目的まで確実に至ることが最優先
目的を見失わないことが大事
私には
乗り越え
辿り着かなければならない未来がある
これ以上
怪メッセージの話題に触れたくなさそうな純也
私にとってもそれが主ではない
「話が逸れちゃったけど……」
純也に合わせて自分も鍋を摘まみながら
何気ない素振りと
何気ない口振りで
主題の離婚話に言及した
「さっきも触れたけど……私たちのこと」
「純也はどう思ってるの?」
「ちゃんと向き合って話しなきゃって、ずっと思ってて」
「ずっとそれができなくて、ここまで来ちゃって……」
「だから……ちゃんと話そう」
弱い私なりに
意を決して切り出したつもりだった
「……」
言葉に詰まっているのか
言葉を選んでいるのか
直接言及しても尚
純也は鍋を摘み続け
何も語ろうとはしなかった
「純也を責めてないよ、私も悪かったと思ってる」
「でも……純也、何も話してくれないじゃん」
「怪メッセージにもあったけど……」
「私、純也のこと全然知らない——」
——と、
私が話し終わらぬうちに
突如純也が
言葉を被せてきた
「それ責めてるだろ」
「俺にだって言いたくないことくらいあるさ」
「それにさっきから聞いてれば……」
「その口ぶりからして知ってるんだろ?」
「先日瑠奈の会社にも行ったしな」
「で?俺が大変なときに助けようともしないのか?」
「自分が出世してそれで万々歳なのか?」
「随分と上から物言うようになったよな、偉そうに」
突如捲し立てる純也に呆気に取られ
私は
言葉なく茫然としてしまった
そして
やっと口を開いた純也の言葉は
主題の離婚話とは掛け離れた
自分話だった
「……そんなつもりで言ったんじゃ……」
「言ってるだろ!」
「……」
「離婚!離婚!て」
「俺が職を失うそばから言うことかよ!」
「お前には心は無いのか?」
純也から見た現状
純也がやっと話してくれたことで
純也の考えが
やっとわかった
離婚よりも自分
収入の無くなりそうな折に
離婚話を持ちだした私が憎いのだろう
その憤怒から
完全に私を悪者扱いしている
他責にもほどがある
「そんな……」
「そんなつもりじゃないし……」
「純也は私のことそんな風に思ってたの?」
「私のこと今まで一度でも考えてくれたことある?」
「純也だって分かってるでしょ?」
「お母さんに仕送りしながら家の経費も全部私が払ってるんだよ?」
「それを……そんな言い方ないよ……」
あまりに酷い言われように
目頭が熱くなり
意思に反して涙が溢れてくる
「営業は付き合い多いから金が掛かるんだよ」
「それは仕事でしょ?交際費として会社で処理するお金じゃん」
「今まで家にお金入れてないんだから私の何倍も余裕あるはずでしょ?」
「余裕なんてねえよ!貯金は家計を見てるお前の仕事だろ!」
「……」
「何言ってるの?」
「それ……本気で言ってる?」
「家のこと全部私に払わせて二人の貯蓄まで私にしろって言うの?」
「家庭を顧みずに純也は自分の交遊費に使ってただけでしょ」
「もしかして……貯金全然無いの?」
「……」
純也は
そのまま押し黙り
私の問いには答えなかった
その表情から
純也が
ここまで離婚話を拒む理由が
やっと分かった
そこに
私への情など微塵も無かった
純也の
心の内が
深層心理が
やっと見えた
純也にとって
私がどんな存在か
私をどんな目で見ていて
私をどう思っていたのか
全部
よく分かった
私は
良い嫁じゃなかったかもしれない
それでも
愛し合って結婚したつもりだった
良い夫婦関係じゃなかったかもしれない
それでも
長年連れ添い
病める日も
健やかなる日も
同じ空間で
同じ時間を過ごした
何があろうとも
私は
純也をそこまで酷い目で見たことはなかった
なのに……
熱く火照った目頭から
涙が溢れ
止まってくれない
涙で霞む目で純也を見ながら
零れ落ちても
零れ落ちても
とめどなく涙が溢れた
コメント
1件
うわあ……第86話、胸がぎゅっとなりました。純也がようやく口を開いたと思ったら、まさかの自分話で、完全に主人公を悪者扱いする姿勢……。読みながら「そんな言い方ないよ…」って一緒に泣きそうになりました。主人公が「良い嫁じゃなかったかも」って振り返るシーン、すごく切なくて、でも冷静に相手を見極めようとする強さも感じられて、そこが好きです。リュカさんの支えもあって計算高く動けるようになった主人公と、それでも涙が止まらない感情の揺れ、本当に繊細に描かれてました。次が気になります。
臣桜
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BrownSugar
2,386
#オフィスラブ
猫塚ルイ

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