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#オフィスラブ
猫塚ルイ

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「何言ってるの?」
「それ……本気で言ってる?」
「家のこと全部私に払わせて二人の貯蓄まで私にしろって言うの?」
「私たちの家庭を顧みずに純也は自分の交遊費に使ってただけでしょ」
「もしかして……貯金全然無いの?」
「……」
純也は
そのまま押し黙り
私の問いには答えなかった
その表情から
純也が
ここまで離婚話を拒む理由が
やっと分かった
そこに
私への情など微塵も無かった
純也にとって
私がどんな存在か
私をどんな目で見ていて
私をどう思っていたのか
よく理解できた
熱く火照った目頭から
涙が溢れ
涙で霞む目で純也を見ながら
とめどなく溢れる涙が止まらない
私は純也にとってただの都合の良い存在
相互関係などない
一方的に彼に尽くすだけの
言いなりのATM
「……」
「ねえ純也……私たち……」
「もう終わりにしよう」
私は
感情のままに
はっきりと言い切り
自身の思いを伝えてしまった
今後の
解雇された後の自身の生活費を苦慮し
離婚に乗り気でなかった純也は
何も言わず
俯き押し黙っていた
拭っても
拭っても
溢れ出して止まらない涙
体がその場に留まることを拒絶し
居ても立っても居られず
夕飯の片付けなどそっちのけで
私はその場を離れ
ベッドに倒れ込み
そのまま枕を濡らした
散々な惨状だった純也との結婚生活
それでも
恋した時分や
ときめいた思い出が
私の心を繋ぎ止めていた
その
僅かに繋ぎ止めていた
細くなった糸が
今日
完全に切れてしまった
過去の
綺麗なまま残留していた
思い出の全てが
木端微塵に砕け散り
忌まわしい何かへと
変貌を遂げてしまった
今はただ
悲しくて
悲しくて
打ちひしがれ
消えてしまいたかった
私は
そのまま
ベッドにうつ伏せになったまま
眠れないままに
一夜を過ごした
***
カーテンの外にうっすらと感じる
僅かな光量
「……」
外は未だ薄暗い日の出前
静かに起き上がると
浴室へと向かい
熱いシャワーを浴びる
昨日は取り乱してしまった……
涙は治まり
感情も落ち着いたものの
心の悲しみと
感情の不快感は未だ拭えない
鏡に映る浮腫んだ顔
一晩泣き腫らした酷い有様
浴室から上がると
保湿ケアもそこそこに
化粧を厚く塗りたくり
目立たぬよう誤魔化す
脱衣所を出ると
昨夜純也と過ごしたリビングが目に入る
「……」
食べ散らかしたまま
片付けられていないテーブル
それを見ても
何の感情も湧かなかった
無心で片付け
無心で食器を洗う
私の頭には
とにかく早くこの空間から抜け出したい
その思いしかなかった
私は
朝の支度もそこそこに
日の出と共に家を出た
***
人もまばらな空いた電車
ここまで早い時間に乗るのは
初めてかもしれない
ゆったりと空いた席に座り
不眠の気だるさと
妊娠から来る体調不良に苛まれる
しかし
不思議と頭は冴えていた
悲しいかな
図らずも
昨晩の苦痛と悲痛が
私にはっきりとした
明確な意思を持たせた
会社の最寄り駅に着くも
始業時間まではかなりある
この時間開いているのは結局ファミレス
リュカと出会ってから
よく利用するようになって久しい
私は
人もまばらで
空席の目立つファミレスに入店
モーニングセットを注文した
悲しくても
眠れていなくとも
体が不調でも
ところ構わずお腹は空く
妊娠とは罪なものだと思いつつも
出て来た注文の品を平らげる
食後に
デカフェのコーヒーを飲みながら
離婚届について調べる
離婚届は
ネットからダウンロードできるらしい
わざわざ日中に役所まで足を運ばずとも
入手できる気軽さに驚く
だが
ここでまた一つ難題に直面する
——離婚届には証人の署名が必要
離婚を考え始めて久しい
離婚を決意しておきながら
その手順や要件を把握していなかった
自分の浅はかさが嫌になる
しかも
必要となるのは証人二名分の署名
友人らしい友人もいない自分には
殊の外ハードルが高い
頭に浮かんだのは……
——リュカ
だがしかし
リュカに離婚届の署名までお願いするのも後ろめたい
それに
リュカが署名し
その氏名が前面に出ることに
少なからずリスクはないだろうか
リュカにお願いしたとしても
もう一人分の署名が必要
現段階で私の離婚話を認知している者は
リュカの他にいない
宙を見上げ
思考を巡らし
最適解を模索する
依頼するとしたらもう一人は——
コメント
2件
次からは第1話から全て熟読した上でコメントしてね、絶対だよ?
うわ……第87話、読み終わったよ……。もう胸がぎゅっとなった。ATM扱いされてたって気づいた瞬間の「もう終わりにしよう」って台詞、すごく重かった。泣き腫らした顔を誤魔化すために厚化粧するところとか、無心で食器洗うところとか、細かい描写がリアルで心に刺さった。 妊娠しててもお腹は空くっていうのも、すごく生々しくて……悲しみと日常が混ざり合う感じが切なかった。リュカに証人頼むかどうか迷うのも、すごくわかるな。続き、どうなるんだろう……気になるけど、でもちゃんと受け止めたいから、ゆっくり読ませてもらうね🤍