あなたに出会った夏。
愛し合った夏。
苦しみと、幸福が混ざり合う。
この夏には、もう戻れない。
あの子を思い出すのは、もう遅い。
今日の空は、雲ひとつ無い快晴で、僕なんかが居ていいのかと思うほど、澄み渡っていた。
風が髪を煽る。
プリントが目の前で舞い散っていたことを思い出した。
あいつら。
どんな些細な動きでも、むしゃくしゃする。
全て思い出してしまう。
どんなに綺麗な空でも、僕の心はぐちゃぐちゃなままだ。
あんな奴らも、ぐちゃぐちゃになってしまえば。
そう思うしか、救いはなかった。
陰鬱な気持ちには合わない天気だ。
まあどうせ、数分後にはこの世界にいない。
そう思いながら一つ一つ歩みを進める。
この田舎は、アニメのモチーフにされたこともあるらしい。
主人公とヒロインが、目の前の踏切で出会うシーンが有名で、多くの人が訪れたそうだ。
きっと僕も主人公だったら、いじめられずにキラキラとした青春を過ごすことが出来たんだろうか。
、、、考えてもただの妄想に過ぎない。
まあいいや。
どうでもいい。
踏切が降りる音。
遠くに電車の音も聞こえる。
踏切をくぐって、線路の上に立つ。
さようなら、現世。
「ーーーー!!」
ドンッ
こんなに電車って軽いものなのか?
いや、違う。
「誰」
「貴方こそ、何をしようとしてるのよ!!
死んでいたかもしれないのよ!?」
「いや、死のうとしていたからね」
彼女が黙ってしまった。
「そんなこと、産んでくれた親に失礼だと思わないの?」
「思ってたらここにいないよ」
再び沈黙。
本当に邪魔しやがって。
「だから、誰だって言ってるんですが 」
一呼吸おいて
「玲。白川玲。」
聞いたことがない名前だ。
「最近引っ越してきたの。よろしくね。」
成程。
「だけどなんでこんなことしようと思ったのよ」
五月蝿いな。
会ったばっかりなのにそういうことを言う権利は無いはずだ。
言ったとて、 お前がわかるわけが無いだろ。
この苦しみが。
「いじめられてるから」
「え」
「何回も言わせるな、いじめられてる」
「それって、○△中の話、、?」
「よくわかったね」
「なんでいじめなんか起きるの、、?」
「知ってたらもう仲良くなってるよ」
俯いても何も変わらない。
ジワジワと照らす太陽が、空気を重くした。
「私、そこに行くの」
「だろうね。この辺にはそこしか中学校がない」
「じゃあ、守ってあげる」
は?
「え?」
「だから、あんたを守ってあげるって言ってんの。可哀想でしょ。」
馬鹿だ。
そんな簡単なことじゃないんだよ。
命を投げ出そうとするくらいなんだ。
だけど、その自信満々な笑みを見て、少し心が満たされた気がする。
「じゃあ玲、君は友達だ。」
結局、今は君の居場所なんてないんだから。
少しくらい、主人公とヒロインになったって、いいだろ?
「あ、アンタの名前、聞いてなかったわ 」
「裕也だよ。」
そんな他愛ない話が、幸せだった。
・・・
幸せ、だった。
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うわっ、うま