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「お前に会いたい」
そんなことを思いながら死んだ俺。
キラキラとスポットライトを浴びて輝くシャꠀㅁンの心臓が、一瞬生前の彼と重なって、憐れむような、悲しむような。そんな目をしていた。
最後にグルッペンを刺して、もういない彼の一部に触りたかった。自分ではまったく気づかないうちに、彼に依存していた。ただ、彼がいないことを認められないまま、辛くて、寂しくて、痛い思いだけが降り積もっていた。
シャꠀㅁンの遺体を見ても、触れても、まだシャꠀㅁンが生きている気がした。生きていてほしかった。そんなことありえないとわかっているのに。
これが呪いだったのだろうか?俺に苦しんでほしかった…?
お前のことがどうしようもなく大好きで、大切な存在だった。
だから、だから、だから…。
もう、許して、一緒にいさせて。
そんなことを思いながら今世。数十年後、俺は再び生を受けたらしい。少子高齢化は未だ解消されていない。ただ、シャꠀㅁンの心臓が提示されたことでだいぶ研究は進展したらしい。あの研究所、まあ俺には関係ないが、総入れ替えがあったそうだ。表では、研究のさらなる進展を図るため、としてあるが。ባ゙ㄦッᨚ゚ン、ᡰンᡰンと重要人物が立て続けに死んでいるらしい。内部分裂か? 真実はわからない。
詳しいことは知らないけど、੭ੇᘄ・⊐⺭シꛒ・ᰌᯇミᯇㄦ・ゾㄙ・ቻᯇ𐩀・ショッ𑀱゚も死んだらしい。国または研究所の差し金だろう。これは俺が死んでから数年にも満たない間に起きた。知ってはいけないことまで知りすぎたのか。もしくは、用済みだったのか。
ゴールデンブラッドを殺してよかったのかは疑問だが、おそらく三人が自ら選んだこと。どうか、俺と同じように転生して元気にやっていてほしいと思う。
だが。俺はまだシャꠀㅁンに会えていない。
胸にぽっかりと穴が開いたままのような喪失感を抱いたまま、死んだように仕事に行って、帰って、寝る。起きて、また仕事に出かけて…。疲れた。でも、まだ死ねない。シャꠀㅁンに会うまでは。生きることの意味は間違いなく、シャꠀㅁンだった。
会いたい、触れたい、一緒にいたい…。
狂ったように祈り続ける俺は、前世のことをずっと後悔している。なんで気づかなかった?「人は失ってから大切なことに気づく」とはよくいったものだ。本当にその通りだった。
「どこにいるん…?」
ㅁꎛ゙ㅁに手の震え伝わってないかな…。なんて考えながら、俺は人生の幕を閉じた。
あの研究所で、血に関する研究を俺たちに繰り返し行っていた。俺の心臓をサンプルとして使うらしく、「病気を治すための手術」と装い、「心臓を取り出す手術」をして、俺は当然死んだ。もちろんわかっていた。俺の教育係・ㅁꎛ゙ㅁがはき続ける嘘。手術をすると聞いたときにピンときた。俺も、母さんのようになるんだな、って。
正直、ㅁꎛ゙ㅁのことはずっと恨んでいると思う。俺等を騙して、母さんを殺して、俺を絶望させて。本物の嘘つきだ。
でも、手術の日、不器用なクリスマスプレゼントをくれて、本当に嬉しかった。直前に、手を握ってくれたことが、最後の思い出だったよ。
「ありがとう」なんて面と向かって言えるはずもないけど、今まで本当にありがとう。俺の大好きな嘘つきへ。
ああ、でも。やっぱり、俺も、お前も不器用だったんだ。
「また、会えますように」
ザザーとドアの外で雨が降り止まない。
紺色の大きめの傘をさして外へ踏み出せば、雨粒がまたたく間に傘の表面をたたき、滑り落ちていく。
意味もなくほっつき歩いていると、路地の方で音が聞こえた。猫か…?
路地にはトタン屋根があり、あまり雨が降ってこない。傘を畳み、細い路地を進むと、白猫がいた。その猫は俺を待っていたかのように座っていて、俺に「にゃあ」と短く鳴くと、ついてこいといいたげに歩きだした。
細い路地をいくつも経由していくと、ひとつの大きな建物が見えた。錆びついた看板には孤児院の文字がかろうじて読み取れた。いつの間にか白猫はいない。
「あ」
中の庭で遊んでいた子どもがこちらに気付いた。警戒心の宿った目。ひとりの子どもが建物の方へ駆けて行った。
「澤井さーん、お客さん!」
「白猫ですか…」
中から出てきた澤井さんは、ことの発端を聞くと、不思議そうに何度も頷いた。
「ごめんなさい、こんな話、急に…」
「いえ、運命かな、と思って」
運命? 思わず、出された茶から上に視線を移すと、澤井さんは穏やかに微笑んだ。
「うちに、白猫と一緒に来た子がいるのよ」
ペールブルーの目が綺麗でね、と彼女は話し始めた。
今から十年くらい前の話かしら。
私が、事務室で書類処理やなんやらをやっていたときにね、白猫が窓の外に来たんですよ。このあたりの猫たちは警戒心が強くてあまり人の近くに寄りたがらないから、なにかあったのかな、なんて思いながら窓を開けてやったら、雨でびしょ濡れで…。その時、雨が降ってたんです。ちょうど今日みたいに。その猫ちゃん、薄い水色の目が綺麗だったなぁ…。まるで、神様の化身かななんて思っちゃうくらいには綺麗だった…。でね、その子、にゃあって鳴いて、出口のほうに駆けてったんです。まるで、「来て」って言ってるみたいで、私その猫ちゃんについていくことにしたの。そしたら、門のあたりで、にゃあって鳴いて立ち止まって。その子の隣に何がいると思います? 子どもですよ、子ども。まだ二歳くらいで、ベビーカーの中にいれたまま置き去り。よくあることだったから、引き取ることにしたんだけど、案内してくれた白猫はもういなくって…。
「この話、あなたの話と似てる気がしませんか?」
澤井さんは、少し興奮したように言い切った。それから続ける。
「白猫が連れてきた子に会ってみましょう。きっと、猫のお導きですよ」
「…はい」
なんだか少し、ドキドキしてきた。なんだろう、この予感は?
「目の色が、それまた綺麗な子なんですよ」
にっこりと笑って、子どもと会いに面接室を出ていく。
プレイルームと書かれた部屋を開けて名前を読んだ澤井さんは、俺を振り返って、駆け寄ってきた子どもを見せた。
「名前は、シャꠀㅁンくんといいます」
琥珀色の目、ほっそりとした体つき、整った中性的な顔だち、キャラメル色の髪。
「はじめまして…?」
死んだときのシャꠀㅁンそっくりだった。