テラーノベル
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夕暮れの帰り道、空にはまだ日が残っていて、
若井と一緒に歩く時間が、
今は誰よりも安心に包まれていることを
噛み締めていた。
いつもよりもゆっくり歩く
若井の歩幅に合わせて、
僕も小さく歩幅を揃える。
さっきまで感じていた不安も、
優しさや温もりの中で、
ゆっくりと溶けていくのを感じる。
少し人通りの少ない道に入ると、
僕の中で何かが解けた。
――もう少しだけ、傍にいたくて。
――もう少しだけ、甘えたくて。
気がついたら、
胸の奥からそっと声がこぼれていた。
元貴『若井…』
滉斗『ん?』
若井が横を向く。その顔は優しくて、
昨日や今朝の涙なんてなかったみたいに、
柔らかく僕を包む。
元貴『……んね、キス…して欲しい、』
言ったあと、恥ずかしくて自分でも
思わず目を伏せてしまい、
若井に顔を近づけた。
心臓が、緊張で、
くしゃくしゃになりそうなほど高鳴る。
だけど若井は、ちょっと悪戯な微笑みを
浮かべて、すぐには何もしてこない。
ただじっと、僕の顔を覗き込んだまま、
静かにその場に立ち止まる。
滉斗『元貴、今すごい可愛い顔してる、』
元貴『…や、恥ずかしぃ、』
じわっと顔が熱くなった。
でも、若井はそれ以上近づかず、
わざと少しだけ間を空けたまま、
僕のことを見つめ続ける。
元貴『ずるい……』
堪らなくて、ぎゅっと瞳を閉じた。
自分から近づきたいくせに勇気が出なくて、
仕方なく……
僕は思い切って、若井のワイシャツの裾を
両手でぎゅっと握って、そっと引いた。
元貴『っ、ねぇ……して、よ、//』
声は小さく震えていた。
自分でもこんな甘え方、したことなかった。
若井は驚いたように息を呑んだ気配がする。
滉斗『……もう、可愛すぎる、』
その言葉に、心がふわりと浮かぶ。
ついに我慢できなくなったように、
優しく、ゆっくりとした動作で、
若井が僕に顔を近づけてきた。
唇が触れた瞬間、
世界がとろけるように柔らかくなった。
目をぎゅっと瞑ったまま、
頬がどんどん熱くなっていく。
一度だけじゃない。
若井は唇をそっと離したかと思うと、
もう一度、今度はさらに深く、
優しく僕を包むようにキスしてくれる。
そのキスは、何度も重なった。
浅いキスと、少しだけ長いキス。
押し当てられるような親しみと、包まれる安心。
唇が重なるたび、不安も寂しさも全部、
溶けていくようだった。
途中で、僕は力が抜けて、とろんとしてしまう。
指先はまだ若井のワイシャツを掴んだまま、
だけどもう、体ごと預けてしまいそう。
元貴『若井……好き…///』
自然に、そんな声が出てしまう。
滉斗『俺も、大好き、//』
また深く、強く唇を重ねられて、
僕の身体はとろけていった。
ほんの少し背伸びをして、
僕からもそっとキスを返すと、
若井は満ち足りたように僕を抱きしめてくれた。
何度も触れ合ううち、
もう涙なんてどこかに消えてしまった。
僕は、もうこの温もりの中でしか
生きていけないかもしれない、
そんなことまで思うほど、幸福で、
胸がいっぱいだった。
放課後の道に、甘い秘密の香りが
ふわりと広がる。
離れたくない。
何度も、そう思いながら、
僕は何度も何度も、若井のくれるキスに応えた。
幸せと甘さで世界がとろんと溶けていった、
そんな僕の帰り道だった。
コメント
4件
言葉選び天才すぎる😭✨️ このまま幸せになりやがれください😭