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エリオスはアルノスの背中を見つめながら、ふと胸に重たい不安がよぎった。

ダリオスという名を聞いてから、彼の心に何か見えない影が潜り込んでくる感覚があった。

彼の知る世界の範囲を超えた何か――それはすでに自分の運命に絡みつつあった。


「アルノスさん、あのダリオスって、いったい誰なんですか?」


静かな森の中、エリオスの声がぽつりと響いた。

彼はずっとその質問を投げかけるタイミングを見失っていたが、今は聞かずにはいられなかった。

アルノスはしばらく無言で歩き続けた。彼の足音だけが葉の上にカサカサと響く。

やがて、アルノスは足を止め、深いため息をついた。


「ダリオスは、かつて…私の弟子だった。」


その言葉にエリオスは驚き、足を止めた。弟子――アルノスに弟子がいた?

だが、それがなぜ今、エリオスたちを脅かす存在となっているのだろうか。


「彼はかつて、境界の守護者として私と共に学び、二つの世界を守る力を得ようとしていた。だが…彼はその力に溺れ、世界を支配しようとしたんだ。星の力を、独占するために」


アルノスの声には、悲しみと怒りが入り混じっていた。その声は、彼の胸に秘めた過去の重さを物語っていた。

エリオスは、何か言おうと口を開きかけたが、言葉が出なかった。


「ダリオスは私の期待を裏切った。そして、私が彼を止めるしかなかった…彼は力を手に入れようとしたが、その代償に、彼自身が人間らしさを失った」

「…失った?」


アルノスはエリオスを見据え、静かに頷いた。


「彼は、今や人ではない。星の力を歪め、強大な存在となったが、それと引き換えに自分の心と体を壊してしまった。ダリオスが今、追い求めているのは、完全なる支配の力だ。もし彼が境界石を手に入れれば、世界は…」


アルノスは言葉を途中で切り、遠くの空を見つめた。どこかで不吉な気配が感じられる。

星々が沈黙するかのように、夜空に漂う緊張感があった。


「でも、どうして僕がその…ダリオスと関係があるんですか?」


エリオスの声には、混乱と不安が滲んでいた。自分がこの大きな争いに巻き込まれた理由が理解できない。

なぜ、自分なのか。どうして自分がその運命を背負わなければならないのか。


「お前が境界を越える者だからだ。二つの世界の力を同時に扱える者は非常に稀だ。お前はその特別な存在なんだ。だからこそ、ダリオスはお前を狙っている。お前の力を奪い、世界を支配するために」


エリオスは拳を握りしめた。彼の胸の中で、不安が渦巻きながらも、わずかな決意が芽生えていた。

自分はただの村の少年ではない。星と魔法、二つの力を持つ特別な存在なのだと、少しずつ理解し始めていた。


「…僕は、彼を止められるんでしょうか?」


アルノスは少しだけ微笑んだ。

しかし、その微笑みには、かつての失敗を抱えた苦渋が見え隠れしていた。


「それはお前次第だ。だが、私はお前を導く。かつてダリオスを救えなかったが、今度はお前を信じている」


アルノスの声には深い決意が込められていた。

エリオスはその言葉に少しの安心を覚えながらも、自分の役割の大きさに圧倒されていた。

だが、逃げるわけにはいかない。


「わかりました。僕、やってみます」


その言葉は、エリオス自身にとっても新たな覚悟だった。

まだ力を完全に理解していないが、彼はもう逃げることはしないと決めた。

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