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私は……そのお言葉をお聞きして、ふっと肩の力が抜けたようにホッとする。
(よかったのですっ。私だけでは……ありませんでした!)
***
修太郎さんがおっしゃった通り、そこのショッピングモールには宝石を扱うお店が五つも入っていて、どのお店もキラキラしていて素敵でした。
特にそのうちの一店舗が、私好みの可愛らしいデザイン――小ぶりでガーリーな……例えばハートやリボンやお花などのモチーフ――が多くて、今、修太郎さんと二人でくだんのお店に立ち止まっています。
修太郎さんから「好きなのを選んでください」と言われたものの、彼が求めていらっしゃるのがどのようなタイプのリングか分からず、私は先ほどからファッションリングばかりを眺めて目を輝かせています。
そんな私に、修太郎さんが「気に入ったのがありましたか?」と聞いていらした。
「あ、いえ、その」
どれもこれも素敵に見えて、これと言ったものを決められていなかった私は、その言葉ににわかにソワソワしてしまう。
「日織さんはどんなデザインがお好きなんですか?」
今後の参考のために教えてください、と低音ボイスで耳元に囁かれた私は、思わずそちら側の耳を押さえてあわあわする。
一瞬にして耳がぶわりと熱くなったのを感じた。
「あ、あのっ、私、そそっかしいので……。その……あまり大振りなデザインだと引っ掛けてしまいそうで……それで」
ピンクゴールドの四葉のクローバーと、オープンハートが、ホワイトゴールドの台座にあしらわれた華奢なリングを指差したら、「あー、これは確かに日織さんらしいデザインですね」と微笑まれた。
でもこれ、形は可愛いんですけどお値段が可愛くないのです……。
値札に四万円を越える金額が入っているのを見て尻込みする私を見て、修太郎さんがクスクス笑う。
「日織さん、金額を気にしてはダメです。貴女が気に入ってくださらないと意味がありません」
言われて、「でも……」と口ごもる。
「あの、修太郎さん。私、やっぱり指輪は……。それよりも……イヤリングじゃ、ダメですか?」
あえて上目遣いで修太郎さんを見上げると、私は彼の眼鏡越しの瞳をじっと見つめた。
ちょっぴりズルいけれど、こうすると修太郎さんが大抵のことは折れてくださるのを、私は彼と過ごすうちに覚えました。
「どうしても?」
イヤリングなら、さっきオープンハートに桜があしらわれた可愛いのを、あちらのコーナーで見つけています。お値段も五千円しませんでしたし、絶対あれがいいと思うのです。
修太郎さんの問いかけに、もう一押しだと思った私は、声には出さずにコクンと首肯して、彼の服をちょん、と引っ張った。
「……実はさっき、あちらで凄く気に入ったのを見つけてあるのです。私、どうしてもそれが欲しいのです」
私の左手薬指に指輪を嵌めるのが今日の目的だと修太郎さんはおっしゃいました。
なのに、リングではなくイヤリングがいいですとごねる私を、彼は許してくださるでしょうか。
これは、ある種の賭けなのです。
不安に思いながら修太郎さんを再度見上げたら、溜め息交じりではあるものの、「分かりました」と折れてくださった。
そのことに、私は心底ホッとする。
私が選んだイヤリングを見た修太郎さんが、「日織さん、僕への遠慮でこれを選んだわけではないんですよね?」と念押ししていらっしゃるから「もちろんですっ!」と元気よくお応えする。
修太郎さんが店員さんを呼んでそれを包んで頂いている間、私は何でもない日にプレゼントなんて買っていただいていいのでしょうか?と思ってしまう。
ソワソワしながら彼の横に立っていたら、「日織さんは指輪、もう少し悩んでみてくださいね」とショーケースのほうへ連れ戻されてしまった。
(うーーー。修太郎さん、手強いですっ)
私は仕方なくショーケースの中をぼんやりと眺めながら、修太郎さんが店員さんとやり取りなさっておられるのを時折ちらちらと盗み見る。
イヤリングだけを包んでくださっているにしては時間が掛かり過ぎな気もするけれど、いつも自分用にしかアクセサリーを買ったことがないからそう思うだけかも知れません。
プレゼント用にすると、時間がかかるものなのかも?
いくらケースの中を眺めていても、イヤリングに加える形でおねだり出来る様なお手頃価格の指輪なんてないのです。
コメント
2件
修太郎さんのことだからなんか別の企みがありそうな気がする!(笑)
うわ、めっちゃいいシーン……!日織さんがイヤリングをねだるところ、あの上目遣いで「どうしても?」の駆け引き、めっちゃ可愛いですね。修太郎さんも折れつつ「指輪はまた今度ね」って手放さない感じがもう、二人の間合いが絶妙だなあと。ラストの「イヤリングだけにしては時間が掛かり過ぎ」って伏線じゃないですか?これ、絶対指輪の方も何か企んでますよね…(にやり)。続きが楽しみすぎる。