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「え?」
「透子はずっとオレの先にいる」
あなたのその背中に追いつきたくて、その隣に立ちたくて、オレはここまで頑張って来た。
だけどきっと、あなたはまだオレの手の届かない場所にいる。
こうやってようやく今は隣で二人で一緒にいることが出来たけど。
まだ仕事としての先輩としても、オレに対しての心の距離も、まだあなたはずっと先にいる。
あなたを追い越す時は、きっと。
あなたがオレのモノになって、オレが守ることが出来た時だと思うから。
「何、それ。変なの」
当然あなたにはまだ何も響かないこともわかってる。
「それにオレは遠くになんて行かない」
だけど、あなたがいる以上、オレは遠くに行ったりなんてしないから。
「オレはずっと近くにいる」
仕事仲間では言わない言葉だと、なんとなく気付いてくれたらいい。
「大袈裟だな~」
だけど、やっぱりあなたはその言葉の意味には気付いてはくれなくて。
「だって透子がそうやって言ってくるから」
あなたの言葉に乗っかって軽く流す。
「っていうかさ~ここ職場だから、その名前で呼ぶのやめない?」
その上、ようやく近づいて距離を縮めようとしているオレに、彼女はまた距離を遠ざけるようなことを言って来る。
「え~なんで~? 二人だけの時はよくない?」
ようやくここまで来たのに。
名前だけでも呼ばせてよ。
そこからまずあなたをドキドキさせたいんだけど。
「二人だけでもよくないでしょ。会社だし」
「え~二人以外誰かいたらもちろん呼ばないよ? 不本意だけどちゃんと望月さんって呼ぶからそこは安心して」
だけど、あなたには迷惑かけない。
ちゃんと他の人がいれば、オレとあなたはただの先輩と後輩、そして仕事仲間に戻るから。
「いや、そういうことじゃなくて・・・いや、それも心配なんだけど・・」
「え? 他に何があるの?」
「いや・・・私がさ、ちょっと名前が恥ずかしくて仕事モードにならないっていうか・・・気になる・・から」
すると、嫌がってる理由がまさかの恥ずかしいから・・だなんて、彼女から思ってもいない言葉が飛び出した。
いやいや、それって完全にオレ意識してるってことだよね?
オレがそう呼ぶことであなたはオレを意識して仕事モードにならない・・と。
それ・・最高じゃん。
「そっか。名前で呼ばれるとオレのこと意識しちゃうんだ?」
オレは嬉しくなって思わずニヤケながら彼女に改めて確認する。
「いや!そう、じゃなくて!」
すると彼女は必死に否定する。
「え~そういうことでしょ~。それにオレに呼ばれて恥ずかしいとか可愛すぎるんですけど~」
だけど、彼女の言う言葉も、行動もすべてがオレを意識してのことかと思うと嬉しすぎて、可愛すぎて。
「はっ!?」
よく見ると完全に照れてる顔。
「ちょっ、調子に乗らないでよ!」
そんな風に抵抗してもオレには逆効果。
あなたを意識させてオレに照れてくれるだなんて。
そんなあなたをもっと見たい。
「仕事モードにならないなら、やめる必要ないよね」
「はっ?意味わかんない」
「だってオレと二人の時は別に仕事モードにならなくても、全然意識してもらって構わないし」
オレはいつでもあなたにオレを意識していてほしい。
それが仕事仲間だとしても本当は構わない。
だけど、本音はいつでもオレを男として意識していてほしいから。
「そんなのこっちが困るし」
「オレは困んない♪」
あなたをオレが困らせること出来るなんてたまんない。
オレでもっと困ってよ。
またオレは嬉しくなってニヤケたまま彼女の言葉を却下する。
「それよりも。オレは透子をその気にさせる方が大事」
だから、オレはそう言ってじっと見つめながら、テーブルに置いている彼女の手を向かい側から手を重ねる。
オレはあなたをその気にさせる為なら手を抜かない。
「ちょっ!」
すると案の定、手を振り払おうとする彼女。
「最初っから言ってんじゃ~ん。オレは仕事全然影響なくて大丈夫だって」
言葉は軽く余裕ぶったことを言いながら、彼女を意識させたくて逃したくなくて、彼女の手を固く握ったまま、笑顔で反応する。
オレはあなたがそばにいてくれれば、逆に仕事頑張れるんだよね。
もっとあなたに近づこうと、力が湧いてくる。
「透子にはオレに本気になってもらわないと。どんな時でもオレは手を抜かない」
だから、今のオレのこの気持ちだけはちゃんと伝えておく。
あなたがオレを受け入れてくれた以上、オレはあなたと一緒にいる時も、いない時も、どんな時も手を抜かないから。
「だとしても、それは仕事じゃない時でさ~」
だけど、照れているのか、なかなか受け入れてくれない。
「オレには仕事もプライベートも関係ない。いつでもどこでも透子と真剣に向き合ってる」
「それは、そうなんだけど・・・」
あなたはそうやって誤魔化そうとするけど、オレはいつでもあなたに振り向いてほしくて、いつでも真剣なんだよ?
「プライベートだけとか時間足りなすぎる。オレは透子と一緒の時間はどんな時でもドキドキさせたい」
ようやくここまで近づけたけど、同じプロジェクトとはいえ、部署も違うし、ミーティングだってそんなにしょっちゅうあるわけじゃない。
オレには時間が足りない。
あなたを少しでも早くオレのモノにしたい。
オレはどんな時もあなたにずっとドキドキしてる。
あなたをずっと意識してる。