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その日、二人は練習の最中に初めて大きな言い合いになった。『何回も言ってるのに、なんで同じとこで間違うんや!』
良規の声が、いつになく鋭かった。
「……ごめん。でも、私だって一生懸命やってる!」
思わず声を張り上げた自分に驚く。
良規も同じように、言い過ぎたと気づいた顔をした。
けれど、互いに引くことができず、結局そのまま別れてしまった。
夕方から、雨が降り出した。
窓の外を打つ雨音を聞きながら、佳奈は胸の奥がずっと重く苦しいままだった。
“このまま離れてしまうんじゃないか”そんな不安が頭をよぎる。
(でも……本当は、良規のギターが好き。あの音がなきゃ、私の歌も……)
耐えられなくなり、傘も持たずに外へ飛び出した。
雨に濡れながら歩き出すと、不意に名前を呼ぶ声がした。
『佳奈……!』
振り返ると、そこには同じようにびしょ濡れの良規が立っていた。
息を切らしながら、必死にこちらを探していたのがわかる。
「なんで……」
『俺の方こそ、ごめん。言いすぎた。佳奈の声があってこそ、俺のギターは生きるんや。お前がおらんかったら……なんも意味ない。』
その言葉に、胸の奥に溜まっていたものが一気に崩れ落ちる。
気づけば涙と雨が頬を伝っていた。
「私も……私も、良規の音がなきゃ、歌えない」
二人はずぶ濡れのまま、雨の中で見つめ合った。
良規はそっとギターを抱え直すと、片手を差し伸べる。
『もう一回、一緒にやろうや』
その手を取った瞬間、雨の冷たささえも心地よく感じた。
二人は再び、音で繋がったのだった。