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#コスプレ
#ドS
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車内の密閉された空間には、湿り気を帯びた吐息と、衣擦れの音だけが異常なほど鮮明に響いていた。
真壁くんの唇は、外見のクールさからは想像もつかないほど熱い。
獲物を仕留めるような強引なキスに、私の思考回路はショートし、真っ白に焼き切れていく。
「……んっ、あ……」
何度も角度を変え、隙間を埋めるように深く重ねられる吸唇。
仕事中の彼からは決して見ることのできない
独占欲と執着に満ちた舌先が口内を蹂躙するたび、心臓の奥が痺れるような甘い疼きを上げた。
窮地を救われた安堵感、脳を麻痺させるアルコールの酩酊。
そして何より、鉄壁だったはずの「正体」を彼に暴かれてしまった絶望。
それらすべてが混ざり合い
いつしか「彼になら、もう全てを壊されてもいい」という、崖っぷちに立つような危うい解放感へと変質していった。
「……怜さんさ、自分が今…どんな顔してるか、分かってんの?」
不意に唇が離れた。至近距離で見つめ合う彼の声は、喉の奥を震わせるように低く掠れている。
その瞳は、まさに獲物を追い詰めた肉食獣そのもの。
怜悧な光の中に、ドロリとした欲望が渦巻いている。
いつもの私なら、こんなことしない。
だが、今の私には自分を守る鎧も、彼を撥ね退ける言葉も残っていない。
「……いいの。…どうでも、いい……」
自暴自棄に近い呟きとともに、私は彼のシャツの襟を震える手で掴んだ。
自分から、誘うように、もう一度唇を重ねる。
その瞬間、彼の中で張り詰めていた理性の糸が、音を立てて千切れるのが分かった。
「……後で泣いても、絶対に離さないから」
彼は私を抱き寄せたまま、乱暴にアクセルを踏み込んだ。
急発進した車は、夜の街を裂くようにして私のマンションへと向かう。
エントランスを抜け、鍵を開けて玄関に足を踏み入れた瞬間のことだった。
扉が閉まる音と同時に、私は冷たい壁に押し付けられていた。
「ま、真壁……っ」
「……怜さんが誘ったんだ。もう手遅れですから」
リビングへ移動する時間さえ惜しむように、彼は私のスーツのジャケットを力任せに剥ぎ取る。
ブラウスのボタンが弾け飛ぶ音すら、今の二人には心地よい狂騒の一部だった。
首筋に落とされる、焼きごてのような熱いキス。
周囲を黙らせるために必死に築き上げてきた境界線。
それが、彼の手によってあっけなく、砂の城のように崩されていく。
寝室のベッドに倒れ込んだとき
カーテンの隙間から差し込む月明かりが、彼の顔を青白く照らし出した。
冷徹な上司と、生意気な部下。
そんな形ばかりの肩書きは
床に無残に転がっている脱ぎ捨てられた服と一緒に、遠い世界の出来事のように思えた。
「……怜さん、やっぱ…すげぇ可愛い」
初めて呼び捨てにされたその名前。
鼓膜を震わせる彼の低い声に、私は抗う術を失い、震える指先で彼の背中に深く爪を立てた。
レンズ越しに不特定多数の視線を浴びるコスプレとは、決定的に違う。
薄皮を剥ぐように、私の魂の奥底まで暴いていくような、射抜くような視線。
私は、彼がもたらす抗いがたい熱狂の波の中に、ただただ溺れていくしかなかった。
——明日が来れば、この夢は終わる。
朝日が昇れば、またいつもの日常が戻ってくると、私は自分に言い聞かせていた。