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「今日、お父さん帰って来るから」

お母さんが玄関でそう告げて来た。

「うん、分かった。行ってきます」

ドアを開けて外に出た。

うちのお父さんは、仕事で家を開けがち。でも大概週末には帰って来る。今日は金曜だ、よって本日は帰宅との事。

お父さんは良く会社の後輩やら、取引先の営業さんやらを家に連れて来る。そういう時はそれなりの恰好でお迎えしなければならないので少し面倒。

やれやれ、誰も来ないといいな。

そう思っていると、後ろから声を掛けられた。雅彦だ。

「透子、おはよう・・・って、何で普通に歩いてるの?」

振り向くと、自転車に跨った雅彦が、私の足を指差して変な顔をしている。

「おはよう雅彦。何か治ったんだよね・・・」

「いや、意味分かんない。相当酷かったよね?だからチャリ出したんだよ。乗っけて行こうかと思って」

そう言えば、いつも徒歩なのに自転車に乗っている。

「あ、りがとう。せっかくだから乗っていい?」

私は、自転車を指差してそう言った。

「・・・おう」


「雅彦の自転車に乗せてもらうの久し振りだね、何年振りだろ。デカいから前見えないや」

雅彦の背中は本当に広い。ウエストもがっしりしてて片方の腕を回したとしても届かなそうな気がする。恥ずかしいから回さないけど。

「で、どうやって治したの?足」

自転車の前から大きな声で聞いてくる。

「あのね、熱の時の話覚えてる?」

私は昨日の事を説明した。やっぱり手にチューの所は省いて。

「透子・・・もう少し警戒心を持たないとさ。俺は心配だよ」

「だってさ、何でだか分からないけど、どうしても飲みたくなって・・・。それにまた空瓶消えてたし、やっぱり夢かもって」

「はぁ・・・、治って良かったけどさ」

溜息吐かれちゃった。

自転車が急に止まった。顔面が背中に激突する。

「ぶっ」

「ああ、ゴメン。信号赤で」

前が全く見えないから、一声掛けて欲しかった。

ぶつけた鼻を摩っていると、雅彦が振り返る。

「透子さ、自分で気が付いてる?」

真剣な顔でそう言う。

「?」

「最近・・・綺麗になったよ・・・」

「・・・え?」

ハンドルから片手を離して、私の髪を一房掴み、自分の口元に運ぶ。

「髪も・・・」

呟いて髪を離し、今度は私の頬を包む様にする。

「肌も・・・」

大きな手で、私の顔は隠される。半顔が熱くなる。雅彦の顔が近くなった。

「目も・・・」

雅彦の手は、そのまま耳をなぞって、髪を掬いながら後ろに流れて行った。

そのまま、少し迷う様にして空を切り、私の頭の上に乗る。

すぐ目の前の、雅彦の目が優しく光る。哀しい様な、嬉しい様な、複雑な表情。

信号が青に変わる。

雅彦は前を向いて、自転車を漕ぎ始めた。そっからは無言。

雅彦は涼しい顔で。私は耳まで赤くなって学校へと向かう。

何・・・?何なの・・・?これは一体何?

キス・・・されるかと思った・・・。


「あれー?透子ちゃんの回復力って、どうなってんの?」

昼休み、環とお弁当を広げていると、宮本先輩が何処かからやって来て言った。

「宮本先輩、今私達お昼食べているので邪魔しないで下さい」

場所は教室。一年の教室に三年生が入って来たので、若干空気がピリピリする。

「でもさー、一晩でこんなに綺麗になるなんてさー、ちょっと信じ難いよね」

「ヒャァ!」

宮本先輩は、そう言いながら、私の太ももを撫で上げた。思わず変な声が出てしまう。

すかさず環が叩き落とした。

「とんでもないハラスメントだ!出て行け!」

環、先輩だから・・・。

横から、雅彦が出て来て宮本先輩の腕を掴んだ。

「昨日の今日で・・・懲りない人ですね、あなたも」

そのまま廊下へと引っ張って行く。

「は!?俺先輩だよ!」

宮本先輩の遠吠え。

雅彦の顔を見て、私はちょっと頬が熱を持つのを感じた。嫌でも朝の登校時を思い出してしまう。

そんな私の頬に、環は複雑な表情をしながらパックのジュースを当てて来た。

「冷たい」

びっくりして私は言った。

「冷やしてるの。アイツ見て赤くならないで・・・」

「環・・・?」

「・・・何でもない。食べよ?」

環はジュースを口に運んで食事に戻った。

「うん・・・」

私も食べるのに戻った。

「ブロッコリーあげる」

「うん。じゃあトマトあげる」

お互い嫌いな物を交換。いつも通りにお弁当を食べた。お互いの好きな物、嫌いな物、何でも知ってる。仲良しだもん。でも・・・。

どうして私の頬を冷やして来たのか、ハッキリと理解出来ない事が悔しかった。環が何かを我慢している様にしか見えない。

「環・・・」

口から環の名前が漏れた。

その、半開きの私の口に、環がスプーンを突っ込んで来る。

「難しい顔してないで、甘い物食べて笑って」

口の中にプリンの味が広がる。私の好きな甘い味。

環は、いつでも私の事を分かっていてくれる。そして私が喜ぶ事をしてくれる。

「うん」

私は答えて笑った。環の優しさと、プリンの甘さが偽りなく嬉しい。

「良い笑顔」

環も笑う。

私はいつも、甘えてばかりだな・・・。

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コメント

2

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環いい人だあっ! その友達の為の容赦のなさ...好きです! 優しさとプリンの甘さを組み合わせるなんて素敵です

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