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#ファンタジー
「無事か久保田!」
ギロチンのある部屋の扉を開け安否を確かめた。久保田は変わらず、ギロチンのそばで眠っていた。あれから他人に触れられた痕跡もない。仲間が無事である事に|蛎灰谷《かきばや》は安心して気が抜ける。
「大丈夫そうだ。身体を見ても、何もされてないな。俺の早とちりだったか」
「とりあえず連れてく?」
「そうしよう」
目の届く場所であれば心配する必要もない。黒野達の所へ連れていくため、背負おうとした瞬間だった。寝ぼけていた久保田の口が開く。
「……ぼく、たちの仕組んだゲーム…………れないのが、ざん…………」
僕達の仕組んだ、ゲーム。蛎灰谷の手が止まる。久保田がゲームを用意した中の一人。僕達。他にも誰かが協力している。仲間に裏切られていた。蛎灰谷の頭の中が熱いもので埋まった。
『ここからは離れた方が良い。平さん、新田さん。貴女たちも早く』
最初のゲームが終わった直後の久保田の発言。
「ど、どしたの……? 目が怖いって」
とぼけた様子の平。小さな声で蛎灰谷は問う。
「なあ平。お前と新田は、名乗る前から久保田に名前で呼ばれていた。どういう関係だ」
「そ、そんなの知らないよ」
「とぼけるな」
詰め寄った蛎灰谷の瞳は本気だ。短い時間とはいえ、共に生き残ろう、死に立ち向かおうと誓った仲間。それも複数に裏切られている可能性が浮上した。冷静ではなくなってしまう。
「お前達がこのゲームを仕組んだのか!?」
「そ、そんなわけないじゃん! 久保田は右手だって捨てたんだよ!?」
「こんなゲームを作るなんて異常者に決まってる! 右手だって失うのも惜しくない、そう思うのだって不思議じゃない!」
「馬鹿じゃないの! 寝言で判断するなんて……ももかは紫音ちゃんのところに帰るから!」
背を向けた平は早歩きで部屋から出ていこうとした。蛎灰谷に追うつもりはなかった。またしても久保田から寝言を聞くまでは。
「たいら、さん……」
蛎灰谷の身体が動いた。考えるよりも先に。
ガラス片を漁っていた黒野と新田。手がかりは何ひとつとして見つかっていない。諦めかけた新田が不満そうに立ち上がったその時、意識を向けていなかった箇所に目線がいく。ガラス片が飛び出してきた発射口だ。そこにスマートフォンが置かれていた。
「黒野さん、これ」
電源を入れると5つの数字を入力する画面が映し出された。数字を入れる5つの箇所の背景は各参加者を表す色となっている。黒幕が用意していたものだと見受けられるが、明らかな進展に黒野は強く頷いた。
「よくやった。あとはどうにかして数字を──」
その時だった。女性の甲高い悲鳴が二人の耳に入る。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
「ももかちゃんの声!」
「行くぞ」
蛎灰谷と行動しているはずの平の悲鳴。黒幕が現れたのだと黒野は予想していたが、向かった先での光景は想定外のもの。ピンク色のプレートがある部屋から平の声が聞こえた。扉が開け放しにされていた。
「何をしている、蛎灰谷……!」
部屋に入った黒野と新田の見つめる先には、電動のピザカッターを右手に持ち、左腕で平を床に押さえつける蛎灰谷だった。そして足元には久保田のカメラが転がっている。
「紫音ちゃん、助けて……」
「動くな! こいつと久保田、それに新田……お前達がこのゲームを仕組んだんだろ!?」
激昂する蛎灰谷はピザカッターを平の首元にまで持っていった。いつでも殺せるという意思表示。
「久保田の持っているカメラの中身も確認した! お前達3人と、政治家の南 橙子も一緒に写っている写真があった! 組織ぐるみの犯行だっていうのかよ!?」
落ちているカメラの画面には久保田、新田、平、そして別のゲームで頭を撃ち抜かれ死亡した南 橙子の姿が。紛争地域で撮られた1枚で、負傷した兵士に手当てを行っている最中のもの。
「なあ黒野、俺達は被害者なんだよ。こんなふざけたゲームに巻き込まれて。久保田が寝言で言っていたんだ。僕達の仕組んだゲーム、だと。きっと黒幕とも繋がってる。さあ、新田も取り押さえてくれ。洗いざらい吐かせるんだ!」
悲鳴にも近い叫び声。誰から見ても蛎灰谷は錯乱状態に陥っていると分かる。新田は怯えながら黒野の顔色を伺った。黒野は冷静を崩さずに衝撃の事実を口にする。
「蛎灰谷……お前は何か勘違いをしているようだ」
「なんだと」
「この中で仲間はずれなのは、お前だけなんだ」
「は……?」
「“ゲームを仕組んだのは”俺達だ」
蛎灰谷の手からピザカッターが落ちた。裏切りに重なる裏切り。その隙を黒野は見逃さない。目にも止まらぬスピードで駆け出した彼は蛎灰谷にタックルを仕掛け、転がり込んでから組み伏せた。
「黒野、お前もなのか……!?」
「説明は後だ。今は眠ってくれ」
蛎灰谷の頭部に強い衝撃が加えられた。意識が朧げになっていき、久保田と同じように深い眠りについた。息が荒くなっている平へと駆け寄ったのは新田。楽になるように背中を撫でている。
「ももかちゃんは大丈夫そうです。それより、黒野さん……」
「あぁ。数字の入力をどうするかだ。久保田から情報が漏れたのは予想外だったが、今のうちに蛎灰谷の足を破壊しておくか」
「相変わらず、慈悲を持ち合わせてないんですね」
黒野と新田もまた、以前から交流がある事を匂わせていた。黒幕への挑戦状を黒野は叩きつける。
「俺の信じる正義のためだ。誰が俺達をここに連れてきたのかは、まだ確信は持てないが。正義の元に跪かせてやる。覚悟は良いな? 新田、平」
気を失った蛎灰谷を引きずって移動を始めた。黒野は仲間にも、自分にも慈悲がなかった。新田と平は覚悟が決まりきっていない。自分の体を傷つける覚悟が。
「数字の入力の順番は背景の色の通りにやれば良いんだろうが、山岡の数字はわからない。0から9までの数字を総当りで試すのは時間がかかり過ぎて無謀だ。今わかっているのは久保田の『6』だけだ。少なくともお前達二人のどちらかの数字は知りたい」
そう言って部屋を去っていった。蛎灰谷の足を、灰色のプレートがある部屋のアサルトライフルで破壊しようと向かっていく。残された新田と平は見つめ合う。
「紫音ちゃんは首だから、傷つけたらきっと死んじゃうよ。だからももかでいいよ」
「大丈夫なの? ももかちゃん……」
「うん。紫音ちゃんになら、良いんだ。ももかの体に傷を増やしていいのは紫音ちゃんだけだよ」
「ももか……ちゃん」
新田の方から抱きついた。涙も流し、今から自分がする行為に懺悔を始める。
「私は地味なマジシャンだった。それでも小さい頃からももかちゃんだけは応援してくれて……小規模なショーに参加するってなった時も、ももかちゃんはすごく喜んでくれて。私も嬉しかった」
頭を撫でながら今までの感謝を伝える。平も昔の事を思い出し感傷に浸っていた。
「でも、ももかちゃんがYouTuberになって人気が出てからは、実は嫉妬してたんだよ? 私が憧れてた大物マジシャンと一緒に動画に出たりして手の届かない存在にまで思えたっていうか……それでも、ももかちゃんは私を見捨てずに頻繁に会ってくれて。うん、大好きだよ」
「紫音ちゃん……私も好き」
「それじゃあ、始めるね」
蛎灰谷が手放した電動ピザカッターを、震えた手指で取った。愛している人を自分の手で傷つけてしまうその行為。少しの興奮も生まれてはいたが、罪悪感の方がやはり大きい。新田は試しに自分の左腕の薄皮に刃を当てた。皮膚が切り裂かれ少しの出血。人肉も切れるように改造されたものだった。
「絶対生きて帰ろうね、ももかちゃん」
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