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*
『ママ、あのこ、いたいいたいされてる』
『え? どの子?』
『いたいいたいってないてる』
お母さんの表情がくしゃっと歪んだ。何かに感づいたらしい。
『本当にあの子? あの子、見た目もふっくらしているしブランド物の服を着ているし、清潔そうよ。本当?』
母は何度が私に聞いたので、私も頷いた。
『あのね、わたし、みたの。うごかないイシみたいだった。うごいたらだめって。あのこ、うちのこにしたらダメなの?』
『……ちょっとだけまってて』
『だってこどもがたくさんいたら、ゆうふくなんでしょ。かねもちになれるんでしょ。だったらうちであのこもくらそうよ』
だってあのこ、くるしそうにいきてるよ。
私は言われるがまま、母と仕事から帰ってきた父を連れて、どこかを歩いていた。
そして私が指さした小さな穴の先を見て、母は泣き崩れた。
私は意味が分からず、首を傾げると父が私の目を押さえた。
『忘れなさい。見てなかった。いいね。るかはなにもみていない。いいね』
何度も洗脳するように父が言うので、頷いて帰ろうって言った。
でも油断した父からすり抜けて、私は再び穴を覗いた。
『きゃあああああああっ』
真っ赤。真っ赤。赤い部屋。
赤い部屋、泣く母、電話をする父、発狂した私。
真っ赤な部屋の真ん中で腕を押さえて泣いている男の子がいた。
その男の子の顔は――。
ヴー――……。
けたたましい携帯のアラームの音に飛び起きた。
急いで枕元の携帯を手に取るが、画面は昨日のハムスターの飼い方のページ。
サイレンのような大きな音は私の腕に装着したブレスレットからだった。
「え、うわ、なんで? どうやって止めるの?」
真っ赤なブレスレットには、ボタンもなければ溶接あともない。綺麗な表面にも関わらず、全身が痺れそうなほど大きな音だ。
「どうした、流伽!」
ドアが突然浮き上がり次の瞬間、リビングに飛んで行った。
テーブルの上においてあった花瓶をなぎ倒したドアを放り投げたのは、小さなハムスターだった。
「一慶さん」
「どうした? 敵か? 何があった!?」
心配そうに私のベットの周りを跳ねまわる一慶さんに、呆然としながら答えた。
「赤い部屋に男の子が閉じ込められていました」
「……赤い部屋?」
「ママが泣いてて、パパが怒ってて、私は叫んでて、男の子は腕を押さえてうずくまってて」
夢……?
それにしても母の泣き声や、母の手を引いて歩いていく記憶のリアルさに、額に浮かんだ汗が頬を伝った。
「あの男の子……一慶さん?」
記憶にない。でも記憶にない中に存在するとならば、私を選んだ一慶さんしか浮かばない。
「流伽」
「はい」
「お赤飯だ」
「はい?」
「辛い記憶を、思い出そうとしてくれたんだな。今日は赤飯だ。朝は俺が赤飯を焚こう。今から炊けば八時にはできる!」
「八時十分からホームルームだから遅刻です」
慌ててベットから飛び上がるのに、一慶さんは小さな体、全身を使ってふるふると首を振る。
「今日の奇跡に、遅刻なんてかまわない!」
「ちょ、一慶さんっ」
「何をしている!」
私たちがベットで押し問答していたら、ブレスレットの音を聞きつけ駆け付けた仲人さんが悲鳴を上げた。
昨日、私を迎えに来てくれた人ではなく、ボディガードのようながっしりとした体つきの熊みたいな男の人だ。
「あの、すいません、私」
夢に驚いてしまって――と言おうとしたら、仲人さんは私ではなく一慶さんを羽交い絞めにした。
「な、死んじゃう! 熊が乗っかたらハムスター、死んじゃいます!」
「ハムスターに見えるかもしれんが、こいつは今、君を襲った大男だ。現行犯だ」
「襲われていません!」
「じゃあどうして、この男は全裸なんだ!?」
え?
全裸?
羽交い絞めにされたあと、床に押さえつけられた一慶さんは確かにいつも通りハムスターに見えるから服は着ていない。
いつも全裸ですよ、と言うべきか。
「誤解だ。彼女の悲鳴を聞き、風呂場から飛び出したんだ」
「え、一慶さん、本当に今、全裸なの?」
「まあ、俺の引き締まった尻は流伽だけのものだ」
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