彼女──永瀬さんとは、どう付き合えばいいのかがわからなくなっていたところへ、もう一人の受付係の笹井さんの方から誘いをかけられた。
今まで関わってきた女性たちと何ら変わらない彼女のアプローチに、永瀬さんとの付き合いに混乱を来たしていたこともあり、
気持ちが他に奪われればじきに永瀬さんのことも忘れていけるのではないかと感じて、誘いを受け入れた。
永瀬 智香という女性に、これ以上心を掻き乱されたくもなかった……。
永瀬さんとのことは何も進まないまま、笹井さんとの付き合いがいたずらに進んで行く中──
午後の診療が始まる前に、カルテを挟むためのバインダーボードがないことに気づいた。
内線で受付に連絡をすると、出たのは笹井さんだった。
「はーい、今持って行きますね〜」
彼女特有の間延びした返事とともに電話が切られ、しばらくすると診療ルームのドアが引き開けられた。
バインダーボードを持って来たのかと顔を上げると、
「政宗先生、」
と、笹井さんに呼びかけられた。
手元を見るが、何も持ってはいないようで、
「持って来てはいないんですか?」
不信に思い尋ねかけた。
「バインダーボードなら、後で持って来てくれるよう頼んでおいたので。それより先生、まだ診療まで少し時間がありますよね?」
すると不意に、座っていた椅子から腕がぐいと引かれ、彼女と向かい合わせに立たされた。
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