コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「……何を、」
今にも唇が触れそうな至近距離にまで彼女の顔が迫り寄った矢先、
「失礼します」声がして、ドアが開いた──そこには、永瀬さんの姿があって、
「あっ……」と思わず声を上げ、笹井さんを突き放した。
同時に、「ごめんなさい!」という声とともにドアが閉められるのを、呆然と見つめた。
「……先生?」
笹井さんに訝しげに顔を見られて、
「すいません…」と、突き放したことを謝った。
「またの機会にでも。午後の診療の準備もありますので」
「ええ〜そうなんですかー……」
さもつまらなさそうに口にするのに、
「あなたも早めに開院の準備をしておいてください。また、週末にでもお誘いはしますので」
そう伝えると、彼女は渋々ながら踵を返しルームを出て行った──。
外からは、喋る声が途切れ途切れに聴こえていた──。
「今ね…先生と、キスしそうだったの……見てた? なのにあんたが急に来るから、キスできなかったじゃない……」
「そう…ごめんね…」
「けど智香が来たぐらいで、先生もキスするのやめなくてもいいのにねぇー。
先生ってば、なんであんたのことなんか気にしてるんだか…ねぇ、ちょっと聞いてる?」
彼女は、どんな表情で会話をしているんだろうかと思うと、自分の胸までがなぜか痛んでくるようにも感じられた……。
私は、また彼女を追い詰めたんだろうか……いや、追い詰められたのは、本当は自分の方なんだろうか……?
その日、寝つくまで思い悩んで、
なんの答えも得られないまま、翌日、そうせずにはいられない思いで彼女を誘った──。