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コメント
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うわ…第11話、すごくよかった…。出発前のあの温かいけど切ない空気、胸に刺さりました。廃材で作られた万華鏡に「綺麗」って漏らす天音の声が聞こえてきそうだったよ。隊員たちとの別れのシーン、ユウも腕組んで見送ってたんだね。それなのに監視官の「時間だ」の一言で現実に引き戻される感じがたまらなかった…。最後の「帰りたいな」が車内の闇に溶けて誰にも届かないのが、もう切なすぎる。この先どうなるんだろう…続きが気になりすぎる🔥
出発の時刻が近づいていた。輸送車のエンジンが低く唸る。
基地の照明が夜の闇を押し返し、その周囲に隊員たちの姿を浮かび上がらせていた。
天音は車両の脇に立っていた。
視察は終わった。
本来ならもう乗り込んでいてもおかしくない時間だった。
だが、なかなか解散にならない。
隊員たちが周囲に集まったままだからだ。
「本当に帰るんですね」
通信兵が言った。
「帰りますよ」
天音は苦笑する。
「ずっと居座るわけにもいかないでしょう」
「それもそうですけど」
周囲から小さな笑いが漏れる。
数日前まで張り詰めていた空気はない。
今いるのは視察官と兵士ではなく、同じ時間を過ごした仲間たちだった。
「少尉」
声がした。
整備班の若い隊員が一歩前に出る。
何かを差し出していた。
小さな筒だった。
不格好な作りだ。
塗装もされていない。
継ぎ目も見える。
明らかに手作りだった。
「これは?」
天音が受け取る。
軽い。
金属と樹脂の感触。
整備兵は少し照れ臭そうに頭を掻いた。
「万華鏡です」
「万華鏡?」
「廃材で作りました」
横から別の隊員が吹き出した。
「廃材って言うなよ」
「事実だろ」
「三日も工房に籠もってたくせに」
「うるさい」
笑いが起きる。
整備兵の顔が少し赤くなった。
天音は万華鏡を見つめる。
確かに新品には見えない。
だが丁寧に作られている。
指先で触れれば分かる。
雑に組まれたものではない。
「覗いてみてください」
天音はそっと片目を閉じた。
万華鏡を覗く。
光が広がった。
砕けたレンズ。
反射板の欠片。
不要になった機械部品。
本来なら捨てられるものばかりだ。
だが。
その欠片たちは幾重にも重なり合い、夜空の星のような模様を描いていた。
少し回す。
景色が変わる。
また回す。
別の星空になる。
同じものは二度と現れない。
「……綺麗」
自然と声が漏れた。
整備兵は視線を逸らした。
「そうでしょう」
少しだけ誇らしげだった。
天音は万華鏡を胸元で抱く。
「ありがとうございます」
心からの言葉だった。
整備兵は照れ臭そうに笑う。
周囲からも拍手が起きる。
冗談が飛び交う。
誰かが肩を叩く。
穏やかな時間だった。
だが――
その輪の少し外。
基地の照明が届く境界に、一人の男が立っていた。
黒い外套。
監視官。
誰も気にしていない。
視察団の責任者がそこにいる。
ただそれだけのことだった。
だが男だけは隊員たちを見ていなかった。
見ているのは天音だった。
感情の読めない目。
急かしもしない。
促しもしない。
ただ静かに立っている。
まるで時刻を待つ時計の針のように。
天音は一瞬だけその視線に気付く。
ほんの一瞬。
二人の目が合った。
監視官は何も言わない。
頷きもしない。
表情も変わらない。
だが、それだけで十分だった。
天音は静かに視線を戻す。
そして再び笑顔を作った。
隊員たちへ向けて。
「たまには隊のこと思い出してくださいよ」
誰かが言う。
天音は笑った。
「忘れませんよ」
その言葉に嘘はない。
忘れられるはずがない。
隊員たちの顔を見る。
笑っている者。
腕を組む者。
無言で立つ者。
兵士らしくない兵士たち。
問題児の集まり。
だが。
だからこそ好きだった。
だからこそ。
胸の奥が少しだけ痛んだ。
「少尉?」
通信兵が首を傾げる。
天音はすぐに首を振った。
「何でもありません」
笑顔は崩れない。
誰も気付かない。
その奥にあるものには。
やがて運転手が車両の脇で待機姿勢を取る。
出発の時刻だった。
天音は万華鏡を握りしめる。
その時だった。
輪の外にいた監視官が口を開く。
「時間だ」
短い言葉だった。
感情はない。
命令でもない。
ただの事実。
それだけだった。
だが天音は小さく頷く。
「はい」
隊員たちは特に気にしない。
予定通りの出発だと思っている。
だが天音だけは知っていた。
その言葉の意味を。
その先に待つものを。
天音は車両へ向かう。
ドアの前で一度振り返った。
隊員たちはまだそこにいた。
誰も帰ろうとしない。
見えなくなるまで見送るつもりらしい。
「それでは」
敬礼する。
隊員たちも敬礼を返した。
天音は微笑む。
そして車両へ乗り込んだ。
ドアが閉まる。
膝の上には万華鏡。
指先が無意識にそれを握る。
車両がゆっくり動き始めた。
窓の向こうで隊員たちが小さくなっていく。
誰かが手を振っている。
誰かが敬礼を続けている。
ユウもそこにいた。
腕を組み、黙ったまま。
天音は目を離せなかった。
見えなくなる直前まで。
ずっと。
やがて基地の灯りが遠ざかる。
窓に映る自分の顔が見えた。
その腕の中には、小さな万華鏡。
壊れた部品の欠片で作られた、小さな星空。
天音は静かに目を閉じる。
そして誰にも聞こえない声で呟いた。
「……帰りたいな」
その言葉は車内の闇に溶けた。
誰にも届かないまま。
車両の赤い尾灯が、闇の向こうへ消えていった。