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第67話「大阪でプロポーズ」
午後一時。
新大阪駅。
二人はホームに降りた。
森野。
大きなキャリーケース。
相沢。
同じく。
「着きましたね」
「着いたね」
「今日から大阪です」
「そうだね」
森野。
周囲を見る。
出張で来たときとは。
全然違う。
今日は帰らない。
ここで暮らす。
「相沢さん」
「何?」
「少し緊張します」
「俺も」
「相沢さんも?」
「そりゃそうでしょ」
森野。
「意外です」
「俺を何だと思ってる?」
「どこでも普通に暮らせる人」
「褒めてる?」
「かなり」
駅を出る。
タクシー。
新居へ。
大阪市内。
マンション。
十二階。
二LDK。
会社まで電車で二十五分。
スーパー徒歩四分。
コンビニ徒歩二分。
森野が選んだ。
条件。
ほぼ全部。
満たしている。
玄関。
相沢。
鍵。
開ける。
「どうぞ」
森野。
「なぜ相沢さんが先に鍵を?」
「たまたま」
「私にもください」
「はい」
鍵。
渡す。
森野。
手のひら。
見る。
新しい鍵。
「今日から」
「うん」
「ここが家ですね」
「そう」
部屋。
まだ。
何もない。
引っ越し荷物は。
午後三時到着。
森野。
リビング。
中央。
立つ。
「広いですね」
「東京より少し」
「家賃は安い」
「そこ大事?」
「大事です」
ベランダ。
出る。
街。
見える。
森野。
「知らない景色」
相沢。
隣。
「そのうち慣れる」
「そうですね」
森野。
「二人なら」
「うん」
「たぶん」
午後三時。
引っ越し業者。
到着。
段ボール。
大量。
ベッド。
机。
椅子。
食器。
服。
本。
生活用品。
午後六時。
まだ。
半分。
相沢。
床。
座る。
「もう無理」
森野。
「まだキッチン終わってません」
「明日でよくない?」
「明日から仕事ですよ」
「全部使わないでしょ」
「でも」
相沢。
「森野さん」
「はい」
「腹減った」
森野。
止まる。
「私もです」
「外行こう」
「片付けは?」
「逃げよう」
森野。
少し。
考える。
「賛成です」
近所。
小さな定食屋。
二人。
向かい。
森野。
焼き魚。
相沢。
生姜焼き。
「大阪最初の食事」
「普通ですね」
「森野さん好きでしょ」
「何が?」
「普通」
森野。
笑う。
「好きです」
食事。
終わる。
帰り。
スーパー。
寄る。
牛乳。
卵。
パン。
コーヒー。
洗剤。
ティッシュ。
森野。
かご。
見る。
「東京と同じですね」
「生活用品だからね」
「大阪らしいもの」
「必要?」
森野。
少し考える。
「たこ焼き?」
「明日にしよう」
夜。
九時。
新居。
最低限。
片付く。
ベッド。
組み立て済み。
カーテン。
ついた。
冷蔵庫。
動いている。
森野。
ソファ。
座る。
「疲れました」
相沢。
隣。
「俺も」
森野。
「でも」
部屋。
見回す。
「いい家です」
「気に入った?」
「はい」
「よかった」
少し。
沈黙。
森野。
横を見る。
相沢。
妙に。
静か。
「相沢さん」
「何?」
「忘れてませんよね」
「何を?」
森野。
じっと。
見る。
「東京で」
「はい」
「大阪に行ったら」
「はい」
「話したいことがあるって」
相沢。
「ああ」
森野。
「忘れてたんですか?」
「忘れてない」
「今の『ああ』は怪しいです」
「タイミング考えてた」
「今でいいです」
「今?」
「はい」
「段ボールだらけだけど」
森野。
周囲。
見る。
確かに。
段ボール。
十二箱。
「構いません」
「雰囲気ないよ」
「必要ですか?」
「一応」
「私は」
森野。
「気になります」
相沢。
「せっかち」
「東京から待ちました」
「二日だけ」
「長かったです」
相沢。
少し。
笑う。
そして。
立つ。
森野。
見る。
相沢。
段ボール。
一つ。
開ける。
「何してるんです?」
「ちょっと」
中。
探す。
森野。
「それ衣類ですよ」
「隠したんだよ」
「何を?」
相沢。
小さな箱。
出す。
森野。
止まる。
「……」
相沢。
戻る。
森野の前。
立つ。
「森野さん」
「はい」
「東京で」
「うん」
「言おうと思ったこと」
森野。
小さな箱。
見る。
「それ」
「まだ開けない」
「はい」
相沢。
少し。
緊張。
「俺」
「はい」
「こういうの」
「ちゃんと言える自信なかった」
森野。
「今さらです」
「そう?」
「かなり分かりやすかったです」
「やっぱり?」
「賃貸じゃなくてもいいって言った時点で」
「ほぼ答えでした」
「失敗した」
森野。
笑う。
でも。
すぐ。
真面目な顔。
相沢。
「森野さん」
「はい」
「最初」
「ただの同僚だった」
「そうですね」
「仕事できて」
「ちょっと話しかけにくくて」
「それ前も聞きました」
「最後まで聞いて」
「はい」
「一緒に仕事して」
「秘密知って」
「いろいろあって」
「付き合って」
「一緒に暮らして」
森野。
黙って。
聞く。
「それで」
相沢。
「大阪まで」
「一緒に来た」
「はい」
「俺」
少し。
息。
吸う。
「これからも」
「朝起きたら森野さんがいて」
「会社行って」
「帰ったら森野さんがいて」
「一緒に飯食って」
「たまにけんかして」
「休みの日に買い物して」
「そういう生活を」
「ずっと」
「続けたい」
森野。
目。
伏せる。
相沢。
「森野リリカさん」
「はい」
箱。
開く。
指輪。
「結婚してください」
静か。
新しい部屋。
外。
車の音。
冷蔵庫の。
小さな音。
森野。
指輪を見る。
相沢を見る。
また。
指輪を見る。
「……」
相沢。
「森野さん?」
「ちょっと待ってください」
「え」
「考えてるわけじゃありません」
「じゃあ何?」
森野。
両手。
顔。
覆う。
「恥ずかしいんです」
相沢。
笑う。
「返事は?」
「分かってるでしょう」
「聞きたい」
森野。
顔。
上げる。
「相沢さん」
「はい」
「私」
少し。
声。
震える。
「結婚したいです」
相沢。
「じゃあ」
森野。
「はい」
「お願いします」
相沢。
指輪。
森野の指へ。
入れる。
森野。
見る。
何度も。
見る。
「サイズ」
「大丈夫?」
「ぴったりです」
「よかった」
「いつ測ったんです?」
「秘密」
「怖いです」
「寝てるとき」
「もっと怖いです」
二人。
笑う。
森野。
指輪。
見ながら。
「相沢さん」
「何?」
「一つ問題があります」
相沢。
「もう?」
「会社です」
「会社?」
「同じ部署ですよね」
「うん」
「結婚したら」
「社内恋愛じゃなくなります」
相沢。
「社内結婚?」
「そうなります」
「別にいいじゃん」
森野。
少し。
考える。
「田中さん」
「絶対騒ぐ」
「ですよね」
「電話する?」
森野。
即答。
「今日はしません」
「明日?」
「会社で言います」
「大阪から?」
「社内チャットがあります」
「それ絶対騒ぐよ」
「分かっています」
翌朝。
大阪支社。
初出勤。
午前八時五十分。
新しい営業企画部。
大阪支社長。
「東京から来てもらった」
「相沢君と森野さんです」
二人。
挨拶。
「相沢直人です。よろしくお願いします」
「森野リリカです。よろしくお願いいたします」
拍手。
新しい席。
偶然。
二人。
三席。
離れている。
森野。
小声。
「よかったです」
相沢。
「何が?」
「隣じゃなくて」
「何で?」
「仕事に集中できます」
「ひどい」
午前十時。
森野。
社内チャット。
東京営業企画部。
開く。
入力。
『皆さん、お疲れさまです。大阪支社への異動が無事完了しました。』
田中。
すぐ。
『大阪どうですか?』
森野。
『まだ分かりません』
田中。
『相沢さんとけんかしてません?』
『してません』
相沢。
横から。
自分のパソコン。
入力。
『昨日少しだけ重要な話をしました』
森野。
見る。
「相沢さん」
相沢。
知らない顔。
チャット。
田中。
『重要な話?』
相沢。
『プロポーズしました』
三秒。
田中。
『!!!!!!!!!!!!!!!!』
森野。
額。
押さえる。
チャット。
田中。
『森野さん!!!!』
『はい』
『返事!!!!』
森野。
入力。
『しました』
田中。
『どっち!!!!』
森野。
『はい、です』
十秒後。
東京営業企画部。
部長。
『おめでとう』
藤堂。
『おめでとうございます』
同僚。
次々。
『おめでとうございます!』
『おめでとう!』
『大阪初日からすごい』
田中。
『写真ください』
森野。
『嫌です』
田中。
『指輪だけでも』
『仕事してください』
部長。
『森野』
『はい』
『大阪でもそれ言ってるのか』
森野。
画面。
見ながら。
笑う。
『はい』
『大阪でも仕事します』
昼。
大阪支社。
社員食堂。
森野。
一人。
座る。
相沢。
トレー。
持ってくる。
「ここいい?」
森野。
「空いてます」
「冷たい」
「会社です」
相沢。
座る。
森野。
左手。
指輪。
まだ。
慣れない。
相沢。
「森野さん」
「何です?」
「昨日の返事」
「はい」
「もう一回聞いていい?」
「嫌です」
「何で?」
「会社です」
「じゃあ帰ってから」
森野。
少し。
笑う。
「帰ってからなら」
「うん」
「何回でも」
午後六時。
仕事。
終了。
二人。
会社。
出る。
知らない街。
知らない駅。
知らない道。
でも。
帰る場所は。
同じ。
森野。
歩きながら。
「相沢さん」
「何?」
「今日」
「うん」
「帰ったら」
「うん」
「昨日の続き」
「何の?」
森野。
指輪。
見る。
「これからのこと」
「話しましょう」
「結婚式?」
「それも」
「名字?」
「それも」
「家?」
「それもです」
相沢。
「いっぱいあるな」
「あります」
森野。
少し。
笑う。
「二人で決めればいいです」
相沢。
「そうだね」
森野。
「時間は」
少し。
間。
「たくさんありますから」
相沢。
「じゃあ急がなくていい?」
森野。
「いいえ」
「そこは普通に急ぎます」
「どっちだよ」
二人。
笑う。
大阪での。
新しい生活。
新しい仕事。
そして。
結婚。
会社で始まった二人の恋は。
あと少しで。
恋人という名前を。
卒業しようとしていた。
コメント
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いやー、第67話読み終わった!ついに来たね…プロポーズ!段ボールだらけの部屋で「雰囲気ないよ」って言いながら指輪出す相沢さんにグッときたし、恥ずかしそうに顔覆う森野さんが可愛すぎる。「寝てるとき測った」って言う相沢さん怖いけど最高だった(笑)。社内チャットの「!!!!!!!!!!!!!!!!」田中さんのノリが完全に読者の代弁者で笑ったわ。大阪の新生活、すごく温かい空気で終わって、こっちまでふわっとした気持ちになったー!