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ダイヤの瞳

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ダイヤの瞳

4 - 第4話

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2022年04月17日

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久しぶりに見た樹は、以前よりやつれていた。

車いすの上の身体は、ほっそりとしている。顔色も悪く、元気がないようだった。こちらを見ると、驚いたような、怯えたような表情を見せた。そして、ギリギリ聞こえるか聞こえないかぐらいの声でつぶやいた。「みんな、なんで」

その瞳は、冷酷な光を放っていた。


中々会おうとしてくれなかった樹を外に連れ出そうと、5人は病院スタッフに掛け合って、中庭に連れてきてもらった。無理のある強行な手口だとは思ったが、しょうがない、と判断した。

慎太郎が言っていた。

『多分、連絡しても返せない自分に腹が立ってて、自己嫌悪に陥ってるんじゃないかな。みんなに迷惑かけてるって思って、合わせる顔がないんだと思う。で、会えないうちにどんどん自分だけ傷ついて、さらに外に出たくない気持ちを芽生えさせてるのかも』

その言葉に従い、強行突破に踏み切ったわけだ。


薬剤師がそっとその場を後にすると、慎太郎が静かに切り出した。

「ごめんよ、樹」

うつむいたまま、動かない。

「わざと連れてきてもらった。嫌だって言ってたのに、ほんとごめん。…でも、こうでもしないとさ、樹、話してくれないと思ったから…」

樹は、何も言葉を発さない。

大我「俺らも、会いたくて会いたくてたまらなかったんだよ。樹のこと、大好きだから」

ジェシー「そろそろ会いたいころだと思ったよ? 何でもお見通しなんだから」

ジェシーが微笑みかけても、樹は無表情のままだった。

高地「もちろん、話したくなかったら話さなくてもいい。一応プライベートだから…ね。でも、話して楽になることもきっとあるよ。俺らなら、全部受け止められるから」

ほんの少し、口を開いた。でも、そこからこぼれてきたのは、胸が締め付けられるような3文字だった。

「ごめん」

その瞬間、メンバーは時が止まったように感じた。周りの音が何も聞こえなくなった。約2週間の間に、彼に何があったのだろう。どうして、こんな言葉を先に口走ってしまったのだろう。衝撃が重すぎた。

北斗「樹……」

ジェシー「どうした、謝る必要なんてないんだよ」

慎太郎「なんでごめんなの…わけを教えて」

樹「……俺のせいで…、みんなにすごい迷惑掛けてる。ライブ終わりで疲れてるはずなのに、俺が倒れて、病院運ばれたことで心配掛けて。自分のこともコントロールできないなんて、仕事人としてダメだ。俺、もう無理」

吐き出すような勢いで話したあと、顔色をうかがうように視線を上げ、メンバーの顔を見た。

大我「大丈夫。意外と人間って、自分のことコントロールするなんて出来ないことだよ。俺だってそうだし、みんなもきっとそう。思い通りになんて出来ないから、ね」

高地「大我の言う通りだよ。樹だけの責任じゃないんだから、安心しな。辛いこと、苦しいこと、全部言ってよ」

そう高地が言ったのを皮切りに、ゆっくりと話し始めた。

「ありがとう。……前も言ったけど…脊髄損傷で、一生車いすだって言われた。今も助けがないと全然動けない。なんで自分が、こんなライブ後のタイミングで、って思った。仕事も出来ないし、今後の活動も難しいし。俺、テレビとか出て、音楽番組やりたい。ライブもやりたいんだもん。やりたいこと、まだまだいっぱいある」

そこで言葉を切った。息を吸ってから、続ける。

「…それで、滝沢くんに相談したんだけど。これからのこと。辞めるのも続けるのも、樹の自由だよ、って言ってもらった。ゆっくりでいいよって。だから、もうちょっと考えてみようとは思う」

ジェシー「うん」

樹「……みんなは、俺に続けてほしいと思ってる? それとも、辞めたらいいって思ってる?」

大我「そんなことない! 絶対ないよ」

北斗「でも、それの決定権は樹にあるんだから、俺らがあんまり言い過ぎて影響を与えることはダメだと思うから、あんまり干渉しないほうがいいのかな。でも、そりゃ続けてほしい」

慎太郎「もちろん。いつになってもいいから、ずっと待つつもりだよ」

ジェシー「一緒にやっていきたい。ずっと」

高地「俺も。樹がいないグループなんて考えられないよ」

樹「…そう、ありがとう」

とは言ったものの、ニコリともしない樹に、みんなは背筋が凍る思いだった。

樹「でも、できないかもしれないだろ…。ライブとかやるんなら、忙しく動き回らないといけないし、踊りもやらないといけない。車いすでそんな動けないって」

北斗「どうだろう、前例がないからわかんないけど、樹ならできるよ、きっと」

ジェシー「じゃあ、前例を樹が作っちゃえばいいじゃん! 誰も行ったことない道を、樹が踏みしめればいい。その道を、俺らも一緒に歩むから」

大我「おっ、たまにはいいこと言うじゃん。そうだね。初の車いすジャニーズだよ」

慎太郎「いーなー、俺もパイオニアになりてー」

高地「ふふ。出来ないことはないのかもね」

そしてようやく、冷たかった樹の目元に温かみが戻った。

が、その口から出た言葉は冷めきったものだった。

「だけどさ…」

樹は続ける。

「俺、人生っていうか…生きる価値がわかんなくなってきたんだよね。生きてる意味が。なんで、あのとき死ねなかったんだろうって。なんで歩けなくなったんだろうってずっと考えてる。踊れもしない人材、事務所にいらないし。仕事する前に、一人で日常生活送るのもままならないし。本当に、辞めてもいいんじゃないかって思ってた。いっそ、この世からいなくなって、楽になりたい…って思ってた」

その場に沈黙が訪れた。

「でも、みんなが元気づけてくれたから、ちょっと思いとどまった。よく考えてみる」

その言葉に5人も安心し、頬が緩む。

ただ、北斗は樹の、ほとんど変わらない表情を心配していた。

北斗「大丈夫か? またなんか思い詰めたら、ちゃんと話すんだぞ」

樹「…うん」


樹を病室まで送り届け、別れた。

ジェシー「まあちょっと気になるとこはあるけど…ちゃんと話してくれてよかった」

北斗「でも…全然笑ってなかったのが心配だった。いつもなら、俺らと話すときはホント楽しそうで、ニコニコしてたのに、今日はニコリともしてないし…目が冷たくて、正直怖かった。樹が樹じゃないみたいで」

大我「確かに。目が何も映してないっていうか。無表情だったね。なんか…全部諦めちゃった感じ。最後は、まあちょっと穏やかになったけど」

慎太郎「樹らしくなかったよね。これから、大丈夫かな…」

最後は、弱々しい声しか出なかった。


みんなが帰ったあと、樹は音楽プレーヤーとイヤホンを取り出した。もちろん、音楽を聴くためだった。スマホではなく、愛用しているSONYのプレーヤーで聴くのが、いつものことだ。

樹は、帰り際に、メンバーに訊かれた。

ジェシー「樹、最近自分たちの曲聴いた?」

ううん、と首を振ると、ある言葉を言われた。

大我「改めて聴いてみなよ。俺らにも会いたくなかったってことは、SixTONESから遠ざかってたってことだろ? そんなときこそ、俺らの音楽だよ。音楽が、一番の特効薬。好きな曲でもいいし、俺は『ST』をおすすめするかな。強い歌詞で、力強く背中を押してくれる。ほら、楽曲解説に『くすぶっている人たちに贈る、エモーショナルラウドロック』とかって書いてあるじゃん。今の樹にぴったり」

イヤホンを付けて、アルバムからSTを選んだ。静かなイントロから、大音量のロックチューンが始まる。

この曲を歌っていた頃を思い出した。ライブでも歌っていた。歌っていると気持ちよくて、ラップも楽しかった。なのに今は歌えない…。

つい、涙が流れそうになるのを必死にこらえる。今はそんなことは考えない。歌詞の内容だけに集中した。


『完璧だなんて間違ったって思うな 弱さのない世界は 強さとは無縁だ 泣き笑っても憂いても未来は 強い光のほうだ そこに向かって行くんだ』

――そう。まだ完璧なんかじゃない。僕らの未来は、強い光のほうにある。そこにただ向かうんだ――。


次は、「フィギュア」を再生した。これは、ジェシーにおすすめされた一曲だった。STとは違い、明るくポップな曲風で、優しく背中を押してくれる。


『裏切らないものを 僕らずっと探して生きている だらしない自分に 終点を見ている』

――裏切らないもの。それって何だろう。音楽? それとも、メンバーとの絆だろうか――。


自分の運命に、ただショックを受ける。こんな情けないことを考えていた自分が、馬鹿らしく思えてきた。

メンバーのほうが、よっぽど冷静だった。

やっぱり、SixTONESの音楽って最強だ。今まではずっと歌ってきて、聴いている人を元気づけよう、思いを届けようと頑張ってきた。でも、いざ自分が聴いてみると、きっと僕らの曲を聴いてくれた人はこんな気持ちになったのかな、と思った。ファンの思いがわかった気がした。

音楽アプリを閉じ、代わりにラインを開いた。グループラインに、一通のメッセージを送った。

「ありがとう

やっぱりSixTONESって最強だよね」


続く

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