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「……私が……?」

テイテス王国の次代の女王。

言われてみれば自然な話だ。テイテス王家の血筋で、最後の生き残りであるミラルが次の女王になるのは当然の理屈だ。側近とは言え、いつまでもアグライがこの国を治めているわけにはいかない。

理屈ではすぐに理解出来ていたが、ミラルはそれに対してすぐに頷くことは出来なかった。

テイテス王国を治めるということはこの地に留まるということだ。それはつまり、この旅の終わりを意味する。

(……本来私の使命は、この国を守ることなのかも知れない……)

聖杯は元々、この国で代々守られてきたものだ。強力な魔法遺産(オーパーツ)である聖杯と共に、この国を守るのがテイテス王家の使命なのだ。

チリー達と旅を続けたいという思いは、ミラルのわがままなのかも知れない。

ミラルは王族の末裔としてなすべきことをなし、賢者の石のことはチリー達に任せるべきなのだろうか。

「……待てよ」

ミラルが黙って考え込んでいると、不意にチリーが口を挟む。

「ミラルは確かにこの国を守るべきなのかも知れねえがな。逆に、この国はミラルを守れンのか?」

チリーの言葉に、アグライはピクリと反応を示す。

「ミラルの中に聖杯があることはもうとっくに知られてンだ。賢者の石を制御する魔法遺産があるとなりゃ、ゲルビア帝国の連中はどんな手段を使ってもそれを手に入れようとするハズだ」

賢者の石は、今のところ単体では制御出来ない危険な代物だ。そのことは、チリーが既に三十年前に証明している。

あの膨大な魔力の塊を制御するためには、その器である聖杯が必要不可欠になる。

「いや……、先に結論を言うか」

バツが悪そうに後頭部をかいてから、チリーは深く息を吸ってからもう一度口を開く。


「俺が守り抜く。だから、この旅が終わるまで俺に預けてくれ」


チリーがそう宣言した瞬間、ミラルはじわっと胸の奥が暖かくなるのを感じた。それも急速に。

「ゲルビアは必ずエリクシアンを送り込んでくる。それもイモータル・セブンかそれと同等の戦力をな……。エリクシアンである俺と旅を続ける方が、かえって安全なハズだ」

チリーの理屈には筋が通っていた。

一つの場所に留まるよりも、移動した方が足がつきにくいのは当然だ。それに、今までもチリー達はエリクシアンからの襲撃を受けてきたのだ。今後、それは苛烈になるだろう。

エリクシアンは、チリーや青蘭のような例外を除けば大抵はゲルビア帝国に所属している。送り込まれてくるエリクシアンを撃退出来る戦力はかなり限られる。

聖杯の力を利用してミラルが自衛することも出来なくはないだろうが、それはかなり危険な方法だ。ゲルビア帝国のエリクシアンをミラルに接近させてしまうこと自体、ほとんど最悪に近い状況なのだから。

「……確かにその通りかもな。正直あまり旅をさせたいとは思わんが……合理的に判断するなら俺はチリーに賛成だ」

しばらく考え込んだあと、そう言ってアルドは頷く。

「しかしお前……アレだな。だいぶ大事にしてくれるんだな、うちの娘」

「……当たり前だろ」

ミラルとの出会いが、今のチリーを形作っている。

何もかも捨ててしまい、清算のためだけに生きようとしたチリーに未来をくれた。

チリーにとっては、”希望”そのものだった。

「今こいつのそばを離れて、こいつに何かあれば俺はもう一生自分を許せねえ。俺のエゴで悪いが、こいつを……最後まで守らせてくれ」

それは決意であり、祈りでもあったのかも知れない。

もう二度と、三十年前のような悲劇を繰り返したくなかった。

「……そうか」

もう一度静かに頷いて、アルドはまっすぐにチリーを見据える。

「……お義父さんって呼んでいいぞ」

「誰が呼ぶか!」

「ちょっとお父様!」

チリーとミラルに同時に睨まれながらも、アルドはどこか満足げに微笑んでいた。

アルドにとって、ミラルは実の娘同然で、何よりも大切なものだった。そんな彼女が背負う運命を、アルドはいつだって気にかけていたし、その重みを減らしてやれないことを悔やんでいた。

だがいつの間にか、ミラルは共に歩いてくれる人を見つけていた。

彼女の背負う使命を、共に背負ってくれる誰かを。

「……確かに、あなたの言う通りですな。私としたことが、ミラル様がお戻りになられたことに浮かれてしまい、この地に留まり続けてほしいという気持ちが先立っていたようです」

アグライはチリーの言葉に納得したようで、反論するどころか深々と頭を下げる。

「……あとはお前が決めろ」

何と言われようと、ミラルの答えは既に決まっている。

理屈でどれだけ否定しても、胸の奥に答えはずっとあって、変わらない。

「……私、チリー達と旅を続けたい。賢者の石を壊すことは、もう私の使命でもあるの」

共に背負うと決めた。共に歩くと決めた。

きっと、答えは最初からこうだった。

「だけど、きっとこの地に戻ります。ここが私の、祖国だから」

チリーと一緒に。

その言葉は今は胸の奥にしまっておかなければならない。今はまだ、そういう時じゃない。とにかく今は、賢者の石にまつわる全ての因縁を断ち切らなければならない。

「よし! 愛娘を任せたぞ!」

そう言って、アルドはチリーのそばまで近づくと、その肩を豪快に叩く。

「……おう」

少し気恥ずかしそうに目をそらすチリーだったが、短いながらもはっきりと応えた。


そしてそんな様子を眺めながら、シアとシュエットは顔を見合わせていた。

「普通に言ったわね!!!!」

「もうなんの心配もいらんなぁ!?」

妙な盛り上がり方をするシアとシュエットを見て、ミラルは訝しげに首をかしげる。

「……?」

「……ほっとけ、あのアホ二人は」

呆れて嘆息するチリーを気にもとめず、シアとシュエットはそのまま勝手に”チリミラ”で盛り上がるのであった。



***



一通り話が終わった後、客間にはシュエットとシア、そしてアルドの三人だけが残っていた。

アグライは本来の仕事に戻り、チリーとミラルは一度息抜きがしたいということで城の中を見て回っている。

待っている間は特にすることもなかったので、二人は適当にアルドと雑談を続けていた。

「俺は……めちゃくちゃ気になっていたことがある。聞いてくれるかアルド」

そんな中、アダマンタイトソードを握りしめながらシュエットが恐る恐る口を開く。

「なんだよ改まって。俺にわかることならなんでも答えるぞ」

アルドが快諾したのを確認してから、シュエットは真剣な表情で問う。

「アダマンタイトがエリクサーで出来てるって本当なのか!?」

ちょっと泣きそうなくらいに必死な顔を見せるシュエットに、アルドもシアとポカンと口を開ける。

「このアダマンタイトソードは、団長からもらった大切なものなんだ……! でもこいつがエリクサーで出来てるかと思うと……なんか……嫌だ……!」

エリクサーの材料は人間だ。アダマンタイトの製法にエリクサーが関わっているという噂は昔からあり、シュエットもなんとなく気になってはいた。

今回アルドの話で、エリクサーが人間を材料に作られていることが明確になってしまい、シュエットにとってアダマンタイトソードは団長から譲り受けた騎士団の魂であると同時に、ゲルビア帝国の忌まわしい実験で生まれた副産物となってしまっていたのだ。

「あ~……」

アルド自身、そういった噂があるのは知っていた。

エリクサーの製法は当然公にされてはいない。魔力に対して耐性がある特殊合金アダマイトも、ゲルビア帝国の外では製法不明の金属だ。そういった噂が出回るのも無理はない。

「……アダマンタイトがエリクサーで出来ているという噂は……ガセです!」

「本当か!?」

「ああ、アダマンタイトにエリクサーは含まれていない」

「やったー!!!」

跳ねるように喜ぶシュエットに、シアはどうでも良さそうな視線を向ける。

「別にどっちでも良くない?」

「良くない! これは団長から譲り受けた、ヴァレンタイン騎士団の魂だ! それがお前……素材が人間とか、最悪だろ!」

「……まあ、それは確かに……」

シア的には便利に使えるならなんでも良いという感覚なのだが、形や文脈を大事にするシュエットにとってはそうではないのだろう。

「アダマンタイトは、帝国内にある鉱山で僅かに取れるアダマンタイト鉱石と鉄で出来た合金だ。エリクサーとの関連性は本当に根も葉もないぞ」

ゲルビア帝国には、かつて原初の魔法使い(ウィザーズ・オリジン)が魔法実験に使っていたとされるアダマス鉱山と呼ばれる場所がある。アダマンタイト鉱石は、原初の魔法使いの魔法の残滓が滞留したままになっている特殊な状態の鉱物のことを指すのだ。

アルドがアダマス鉱山のことを話すと、シアはすぐにウヌムの里にある洞窟のことを思い出す。

「……じゃあ、あそこの洞窟にある結晶もアダマンタイトみたいなモンなのかしら」

「結晶?」

「ウヌム・エル・タヴィトの遺体が安置してある洞窟があんのよ。あそこに遺体から漏れた魔力が結晶化したものが大量にあんのよね」

「…………その結晶、アダマンタイト鉱石より遥かに希少価値が高いぞ」

「へ……?」

「考えてもみろ。アダマンタイト鉱石は、魔力が滞留しているだけの鉱物だ。だがその結晶は魔力が直接結晶化したものなんだろ? ならどう考えてもそっちの結晶の方がヤバいだろ」

単純に、含まれている魔力の濃度が違う。一欠片で、元素十字(エレメントクロス)の魔力が補充出来てしまう程だ。

「……売れるのね?」

「……売れる!」

早速良からぬ方向に頭を働かせるシアと、普通に乗っかるアルドであった。


そんな会話をしていると、不意に部屋の中に警備兵の一人が入ってくる。

「テイテス内部で不審な人影を見たとの報告が入りました」

「……なに?」

テイテスの城壁に関しては、三十年前よりも高く頑強に作られている。衛兵を通さずに中に入ることは難しいだろう。

それが、普通の人間であれば、の話だが。

「警戒を強めます」

「わかった。それと、ミラルを見たら俺が呼んでいると伝えてくれ。護衛はチリー一人で十分過ぎるだろうが……何があるかわからんからな」

胸の内にわきあがる嫌な予感に、アルドは顔をしかめた。



***



アルド達が客間で話している頃、チリーとミラルは二人で城内を見て回っていた。

テイテス城はあまり大きくなく、アギエナ国の城に比べるとあまりにも簡素だった。城としての体裁こそ保ってはいるが、国境の貴族であるヴァレンタイン公爵の屋敷の内装と比べてもかなり貧相な部類である。

しかしシュエットの言った通り、これはテイテス王国が民を第一に考えた結果なのだ。ミラルはそれを、誇らしく思う。

城の中心部には小さな薔薇庭園があり、日差しを受けながら美しく咲き誇っている薔薇の花を見ることが出来た。薔薇の数は少ないが、念入りに手入れされているのはすぐにわかる。

「わぁ……!」

美しい光景に感嘆の声を上げるミラルを見て、チリーは安堵する。

こういう光景に心打たれるような余裕を、出来ればいつまでも持っていてほしい。

何を見ても何も感じず、世界を灰色に見てしまうのは悲しいことだ。

世界は綺麗な色をしていないかも知れないが、決してそれだけではない。

美しい場所も、どこかに必ずある。

綺麗な色も、汚い色も、全て内包した歪な虹色こそが、世界の姿なのかも知れない。

薔薇を眺めていると、ミラルはふと庭園の中に人影を見た。

黒いローブを着込んだ、華奢な体格の人物だ。パッと見だと女性か子供だろう。テイテス城内の人間にしては、不可解な格好だ。もっとも、それは今のチリーとミラルもあまり変わらないのだが。

「――――っ!?」

そして瞬間的に、違和感を感じ取ってミラルは表情を変える。

「……どうした?」

チリーは気づいていないようだったが、どうしてかミラルにははっきりと感じ取れてしまった。

あのローブの人物は、絶対にこの城内の人間ではない。


あんな強大な魔力を持った人間が、テイテス城内にいるハズがないのだから。


「ミラル……?」

ミラルの視線の先に気づいて、チリーは同じ方向に目を向ける。すると、ローブの人物はこちらに振り返ってゆっくりと歩み寄ってきた。

「へぇ、こんなことってあるんだね」

その声を聞いた瞬間、チリーは脳を直接揺さぶられたかのような錯覚に陥った。

ローブの人物が、ゆっくりとローブを外す。

長い黒髪が風に揺れて、片目を隠すように伸ばされた前髪から素顔が覗く。

あってはならない光景に、チリーは愕然とした。



***



テイテス国内を、二人の男が歩いていた。

その足取りは、まっすぐにテイテス城へと向かっている。

一人は長身で長髪の男で、鋭い目つきをした黒髪の男だ。

もう一人は小柄で、まるで少年のような体格だ。赤い短髪で、大きなブラウンの瞳は険しく歪められていた。

どちらも軍服を着込んでいる。そしてそれは、ゲルビア帝国の軍人であることを示していた。

「……ここにいるんだね、チリー」

赤髪の男は呟くようにそう言って、そびえ立つテイテス城を見上げた。

The Legend Of Re:d Stone~賢者の石と聖杯の少女~

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