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第七十一話 銀色のチャーム
『チャームを持っているなら、駅の裏へ』
知らない番号から届いたメッセージを、
二人は何度も見返していた。
「駅の裏って……」
彼女が呟く。
「前に見つけた写真の場所じゃない?」
「たぶん」
あの古い駅。
これまで何度も手がかりを追ってきた場所だった。
けれど、駅の裏側にはまだ足を踏み入れていない。
二人は顔を見合わせた。
「行ってみよう」
「うん」
駅の表側を抜け、二人は細い道を歩いていく。
人通りは少なくなり、
駅の喧騒も少しずつ遠ざかっていった。
やがて、古びたフェンスの向こうに
小さなスペースが見えた。
「……ここ?」
彼女が足を止める。
そこには、古いベンチが一つだけ置かれていた。
写真に写っていたものと、ほとんど同じだった。
彼は写真を取り出す。
写真の中のベンチと、目の前のベンチを見比べた。
「間違いない」
二人はベンチの近くまで歩いていった。
彼は周囲を見回した。
何かを探すように、ベンチの下や足元を確認する。
「何もないね」
「……待って」
彼女がしゃがみ込んだ。
ベンチの脚の近く。
土に半分埋もれるようにして、
小さな金属の板が見えていた。
そこには、見覚えのあるマークが刻まれている。
円の中に、一本の線。
「これ……」
彼が銀色のチャームを取り出す。
同じマークだった。
チャームを近づけると、
金属板の奥から小さな音がした。
カチッ。
「今、音したよね?」
「うん」
二人はその周辺を探した。
そして――
ベンチの裏側。
木の隙間に、
小さな金属ケースが固定されているのを見つけた。
「これだ……」
彼がケースを取り外す。
表面には、やはり同じマーク。
そして、小さな鍵穴があった。
彼は銀色のチャームを握った。
「もしかして……」
チャームを鍵穴に差し込む。
カチッ。
小さな音が響いた。
「……開いた」
ゆっくりと蓋を開ける。
中に入っていたのは、一枚の古い写真だった。
駅の裏側。
今より少し古いベンチの前に、
二人の姿が写っている。
一人は青いリボンのついた
キーホルダーを持っていた。
もう一人の手元にも、小さな何かが写っている。
「……これ」
彼女が写真を覗き込む。
二人とも、しばらく何も言えなかった。
顔ははっきりとは写っていない。
それでも、なぜか分かる。
この写真に写っている二人が、自分たちなのだと。
「ここで……会ってたんだ」
彼女が呟く。
「うん」
彼は写真を裏返した。
そこには、短い言葉が残されていた。
『渡す相手が変わっても、約束は変わらない』
「渡す相手が……変わる?」
彼女が首を傾げる。
彼は、その言葉から目を離せなかった。
今までずっと、
あの箱は自分が誰かに渡すものだと思っていた。
けれど。
病院で見つけた記録。
店に残っていた記録。
そして、これまでに蘇った記憶。
もしかすると、
最初から何かを勘違いしていたのかもしれない。
「……ちょっと待って」
彼は目を閉じた。
すると、頭の奥に映像が浮かんだ。
雨。
駅の裏。
目の前に立つ誰か。
その人の手には、小さな箱があった。
『もし、私が渡せなかったら……』
声が聞こえる。
「……だったら?」
自分の声が重なる。
『あなたが見つけて』
「何を?」
そこで、記憶が途切れた。
「……っ」
彼は目を開けた。
「大丈夫?」
彼女が心配そうに尋ねる。
「うん……」
けれど、今回の記憶は
これまでよりもはっきりしていた。
誰かが、自分に何かを託そうとしていた。
そして、自分はその続きを聞いた。
なのに。
最後の言葉だけが、どうしても思い出せない。
「何て言ってたの?」
「分からない」
彼は首を振った。
「最後だけ……どうしても出てこない」
彼女は写真をもう一度見た。
そのとき、写真の端に
小さな違和感があることに気づいた。
「ねえ、ここ」
彼女が写真を指差す。
二人の姿から少し離れた場所。
ベンチの近くに、
もう一人いるような影が写っていた。
「……誰かいる?」
彼が写真を覗き込む。
「たぶん」
その人物の足元には、
小さな四角いものが置かれている。
「これ……箱?」
「分からない。でも、形は似てる」
二人は顔を見合わせた。
事故の前。
駅の裏。
二人。
そして、箱。
すべてが少しずつつながっていく。
彼女が写真を裏返す。
文章の下には、薄く擦れた跡が残っていた。
「ここ……何か書いてあったみたい」
「名前?」
「分からない」
文字はほとんど消えている。
けれど、確かに何かが書かれていた。
そのとき。
彼女のスマホが震えた。
あの知らない番号からだった。
『そこまで見つけたんだね』
二人は画面を見つめる。
続けて、もう一通。
『でも、まだ思い出してない』
彼の表情が変わった。
「……誰が、何を?」
返事はない。
代わりに、最後のメッセージが届いた。
『箱を探して』
それだけだった。
彼は銀色のチャームを握りしめた。
あの日の記憶。
病院。
店。
そして、この駅。
「……まだ終わってないんだ」
彼女が言った。
「うん」
二人は写真を大切にしまった。
駅の裏に残された手がかりは、また一つ増えた。
けれど同時に、分からないことも増えていく。
あの箱は誰のものだったのか。
なぜ、渡す相手が変わったのか。
そして――
事故の日、最後に二人の前にいたのは誰だったのか。
答えはまだ、記憶の奥に隠れている。
二人はもう一度、駅の裏を振り返った。
そこには、古いベンチだけが静かに残っていた。
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まくら
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みおん
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コメント
2件
今更すぎる初コメ失礼! パズルのピースみたいに記憶がはまっていく感じがめちゃくちゃ好き!(∩´∀`∩)💕2人は記憶なくす前に会ってるのかぁ…それに多分忘れちゃったもう1人の大切な人の存在も思い出すのかな?続き待ってます( *´꒳`* )
うわあああもうこの展開たまらん!!😭💕 駅の裏のベンチ、金属板にカチッて音、そしてまさかの鍵穴にチャームが合うって…! しかも開けたら自分たちの写真とか胸熱すぎる…「渡す相手が変わっても、約束は変わらない」って言葉がすごく刺さったよ… あと最後の「箱を探して」で終わるのズルすぎる!続きが気になって仕方ないよ〜!!✨