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恋の方程式は解けません
💚🩷
春の風が窓から吹き込む昼休み。
阿部亮平は窓際の席で参考書を開きながら、ちらりと教室の入り口を見る。
そこにはいつも人だかりができていた。
その中心にいるのは佐久間大介。
明るくて、誰とでも仲良くなれて、いつも楽しそうで。
しかも彼女持ち。
阿部は小さくため息をついた。
もちろん誰にも言っていない。
言えるわけがない。
だって相手は佐久間大介なのだから。
🩷「阿部くーん!」
突然名前を呼ばれ、顔を上げる。
佐久間が笑顔で手を振っていた。
🩷「数学教えてー!」
💚「また?」
🩷「また!」
そう言いながら隣の席に座る。
阿部は心臓がうるさいのを隠しながら問題集を受け取った。
それが二人の最初だった。
それから数週間。
なぜか佐久間は毎日のように阿部のところへ来るようになった。
勉強を聞きに来たり。
昼ご飯を食べに来たり。
意味もなく話しかけに来たり。
🩷「阿部くんってさ」
💚「なに?」
🩷「見た目より面白いよね」
💚「それ褒めてる?」
🩷「褒めてる褒めてる!」
佐久間は楽しそうに笑う。
阿部はその笑顔を見るたび、少しだけ苦しくなった。
そんなある日。
体育祭実行委員に二人そろって選ばれてしまう。
放課後の準備。
グラウンド。
倉庫。
とにかく一緒にいる時間が増えた。
🩷「阿部くん!」
💚「どうしたの?」
🩷「脚立押さえてて!」
💚「はいはい」
ところが。
佐久間が高いところでバランスを崩した。
🩷「うわっ!」
💚「佐久間!」
とっさに手を伸ばす。
二人まとめて地面に転がった。
幸い大きな怪我はなかったが、周りの生徒たちは騒ぎ始める。
🩷「助かったー!」
💚「無茶しないでよ」
🩷「ごめんごめん!」
そう言いながら笑う佐久間。
その顔が近くて、阿部は慌てて目を逸らした。
その日の帰り道。
🩷「ありがとな」
💚「別に」
🩷「ほんと優しいよなー」
💚「普通だよ」
🩷「普通じゃないって」
夕焼けの中。
そんな何気ない会話が嬉しくて仕方なかった。
体育祭が終わった頃には、二人はすっかり仲良くなっていた。
そしてある日の昼休み。
🩷「なぁ阿部くん」
💚「ん?」
🩷「俺たち結構仲良くなったよな?」
💚「そうだね」
🩷「なのにずっと阿部くんってなんか固くない?」
💚「じゃあなんて呼ぶの」
🩷「阿部ちゃん!」
💚「なんで急にふざけるの」
🩷「だって面白いじゃん!」
佐久間はけらけら笑う。
💚「じゃあ好きに呼べば」
🩷「やった!今日から阿部ちゃん!」
その日の帰り道。
💚「そういえば」
🩷「ん?」
💚「僕ばっかり呼び方変わるの不公平じゃない?」
🩷「え?」
💚「ずっと佐久間くんって呼んでるけど」
🩷「あー」
💚「なんか距離感じるし」
🩷「距離感じてたの!?」
💚「少しね」
🩷「もっと早く言えよー!」
佐久間は楽しそうに肩を揺らした。
🩷「じゃあ今日から佐久間な!」
💚「うん」
🩷「よし決まり!」
なんてことのない会話だった。
だけど二人にとっては少しだけ特別な日になった。
ある日の昼休み。
阿部は廊下で女子たちの話を聞いてしまう。
「佐久間くん彼女と別れたらしいよ」
その言葉に思わず足が止まる。
別れた。
頭の中でその言葉だけが響いた。
嬉しいと思った。
最低だとも思った。
複雑な気持ちのまま教室へ戻る。
すると佐久間が机に突っ伏していた。
🩷「あー……」
💚「大丈夫?」
🩷「まぁ」
💚「無理してない?」
🩷「してるかも」
珍しく元気がない。
阿部は少しだけ勇気を出した。
💚「今日、一緒に帰る?」
佐久間は顔を上げた。
🩷「いいの?」
💚「うん」
🩷「行く」
帰り道。
佐久間はぽつぽつ話した。
彼女とは喧嘩別れじゃないこと。
お互い忙しくなったこと。
嫌いになったわけじゃないこと。
阿部は黙って聞いていた。
話し終えたあと。
🩷「なんかスッキリした」
💚「ならよかった」
🩷「阿部ちゃんって聞き上手だよな」
💚「そう?」
🩷「うん」
少し照れくさそうな顔。
それを見て阿部も笑った。
それから二人はさらに一緒にいるようになった。
昼休みも。
放課後も。
休日でさえ連絡を取り合うようになっていた。
ある日の放課後。
佐久間が女子たちに囲まれていた。
楽しそうに話している。
いつもの光景。
なのに胸が痛かった。
その時。
🩷「阿部ちゃん!」
遠くから佐久間が手を振る。
女子たちの輪を抜けてこちらへ走ってくる。
💚「どうしたの?」
🩷「帰ろうぜ!」
💚「友達は?」
🩷「あとでなーって言っといた!」
💚「適当すぎるでしょ」
🩷「阿部ちゃん優先!」
何気ない一言だった。
だけど阿部の胸は大きく高鳴った。
そして少しずつ。
佐久間にも変化が現れ始める。
阿部が他の人と話していると気になる。
阿部が女子に呼び止められているとなんとなく落ち着かない。
阿部が休む日はつまらない。
理由は分からなかった。
文化祭前日。
二人は教室に残って準備をしていた。
外では雨が降っている。
気づけば校舎には二人だけだった。
🩷「やっと終わったー!」
💚「疲れたね」
🩷「なぁ阿部ちゃん」
💚「なに?」
🩷「最近変なんだよな」
💚「何が?」
佐久間は少し考える。
🩷「阿部ちゃんが他のやつといると嫌なんだよ」
阿部の手が止まる。
🩷「別に取られるわけじゃないのにな」
🩷「なんでだろ」
沈黙。
雨の音だけが聞こえる。
阿部はゆっくり息を吐いた。
💚「佐久間」
🩷「ん?」
💚「それ、多分」
もう隠せなかった。
💚「好きだからだよ」
佐久間が固まる。
💚「僕が佐久間を好きだから」
言ってしまった。
終わった。
そう思った。
だけど。
🩷「いや待って」
💚「ごめん」
🩷「違う違う違う!」
佐久間は慌てて立ち上がる。
🩷「俺が混乱してる!」
💚「え?」
🩷「だってさ!」
顔が真っ赤だった。
🩷「俺もそれ聞いて嬉しかったんだけど!」
今度は阿部が固まる。
💚「……嬉しかった?」
🩷「うん」
💚「なんで?」
🩷「分かんない!」
頭を抱える佐久間。
🩷「でも阿部ちゃんが誰かと付き合ったら嫌だし!」
🩷「一緒に帰れなくなるのも嫌だし!」
🩷「休まれると寂しいし!」
🩷「毎日会いたいし!」
言い終わったあと。
🩷「……あ」
💚「気づいた?」
🩷「気づいた」
二人同時に吹き出した。
💚「佐久間らしいな」
🩷「うるさい!」
少し笑ったあと。
佐久間は真っ直ぐ阿部を見た。
🩷「阿部ちゃん」
💚「なに?」
🩷「俺、多分じゃないわ」
照れくさそうに笑う。
🩷「ちゃんと好き」
阿部は人生で一番幸せそうに笑った。
💚「じゃあ」
💚「付き合う?」
佐久間は即答した。
🩷「付き合う!」
窓を叩いていた雨が、少しだけ優しくなった気がした。
翌日。
文化祭当日。
🩷「阿部ちゃーん!」
💚「どうしたの」
🩷「彼氏!」
💚「学校で言うな」
🩷「なんでー!」
そう言いながら腕に絡みついてくる。
💚「佐久間」
🩷「ん?」
阿部は小さく笑った。
💚「好きだよ」
一瞬固まった佐久間の顔が真っ赤になる。
🩷「急に言うなよ!」
💚「昨日言われた仕返し」
🩷「ずるい!」
教室の真ん中で騒ぐ二人を見て、クラスメイトたちは思った。
「あれ絶対付き合ってるな」
そんな周囲の視線なんて気にならないくらい。
二人はずっと笑っていた。
阿部にとって難しかった恋の方程式。
その答えは案外単純だった。
佐久間大介を好きになること。
そして。
佐久間大介に好きになってもらうこと。
それが阿部亮平の、一番幸せな正解だった。
コメント
3件
私を○す気か……( ´ ཫ ` )
もしかしてだけどこれってゆかがリクエストしたやつ? こんな早くやってくれてありがと!
第1話、めっちゃ良かった……! 王道だけど、阿部の「好きって自覚してるけど伝えられない」もどかしさと、佐久間の「気づいてないけど実は阿部ちゃん優先」な仕草が刺さりまくったわ。特に文化祭前夜の告白シーン、佐久間が自分で喋りながら気づいて「……あ」ってなるところ、解像度高いし尊すぎる。青春の甘酸っぱさが凝縮されてて、続きが気になる!