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眼の前に広がる空間は正に豪華絢爛とゆう言葉がピッタリだ。漆喰で重厚に塗り固められた純白な壁と、整然と並び出迎える若草色な畳たち。座敷の中央には存在感も半端ない正方形な卓が居座り、見たこともなく美麗に映える様々な料理を乗せていた…。
「八門様?どうぞあちらの上席へお座り下さい。我が主人がお越しになるまでは私が貴方様へのオモテナシを仰せつかっております。食事の前に先ずはお酒ですね?すぐに用意させましょう。」
「いいえ、酒はいりません。国の法律上禁止されていますし飲んだことが無いんですよ俺。そのお気持ちだけ頂いておきます…『現役の高校生相手にどうゆう饗しをするつもりなんだよ?この人は。まぁ豪華な食事にありつけたのは不幸中の幸いだけど』」
ミヤビに向けて愛想笑いをしながら俺は席につく。腰を下ろした座椅子はしなやかに腰や背中をフワリと優しく支えてくれる。その座り心地たるや過去に経験がない程に安心感を与えてくれた。なるほど高級な代物には納得できる理由や機能があるのだ。
眼だけを動かして室内を眺めてみた。掛け軸や小棚に古い茶壺。目前の巨大な食卓など。素人目に見てもどれもが特別な品物なのだと犇々と伝わって来る。もし傷でも付けようものなら数年はタダ働きさせられそうだ。極力触れないように心がけておこう。
「あら?そうなのですね。お側でお酌などをさせていただいているうちに、酔われた八門様がわたくしに淫らな行為を強要して下さらないかと淡い期待をしていましたのに。残念ですわ」
「淫らな行為を強要って……。ミヤビさんは俺をいったい何だと思っているんですか?普通の高校生はそんなことしませんから」
「そうですね、普通の高校生ならば致しませんよね?ですが貴方様は『天姫さまが命がけで大切になされていた身も心も満たしてくれる唯一無二な存在』なのでしょう?。わたくしはそう聞かされてていますし、そう解釈していますわ?どこか違いますか?」
その彼女の言葉に俺の身体は過剰に反応してしまう。もしも世間に知られれば八門響は間違いなく犯罪者扱いになるだろう。大衆の歪んだ好奇心に晒される上に苛烈な批判と口撃の的になること請け合いだ。かれこれ5年近く二人の爛れた関係は続いていた。
「……全部知っているってことですか?俺と響さんが…その……」
「当然知っていますとも。恋仲以上のとても深い関係だったのでしょう?。うふふ♡天姫さまが色々と夢中だったコトもよく存じておりますよ?私の様な下女にはなんとも羨ましいお話ですわ」
「紫雅さん、あんたの目的はなんです?俺を攫ってどうしたい」
「そんな怖い顔をなさらないで下さい。主人がみえるまで全身全霊を持ってオモテナシするだけです。先ずは脱ぎますね?人族種の男達はこうゆう接待を好むと聞いています。如何ですか? 」
長い卓の向こう側に立ったミヤビが、色気を放つ瞳で見下ろす。切っかけなど見えないままに、濃紺色の上着をスルリと脱ぎ落とされ、同時にスカートがストンと足元に拡がった。あれよと言う間に胸元を大きく開いた白いシャツ一枚だけの姿になっている。
「うふふふ♡お嫌いでは無いのでしょう?、下女の乳房や肌ごときではご不満でしょうが手触りは良いですよ?八門さまのお気に召すまま何なりとお応えいたしますわ?お揉みになりますか?」
誘惑するミヤビが俺のすぐ左側まで瞬間移動した。そのまま左手を取ると握っている箸を優しく取り上げる。ねっとりと絡み付くような卑猥な眼差しで見詰めながら、俺の耳元に唇を近づけた。
「人族種のオスにとって性欲は食欲に勝るらしいですね?。先ずはそちらの方を満たしてみてはどうでしょうか?。若い男性は射精すると心身共にリフレッシュするのでしょう?。うふふふっ♡ぜひとも私の腟をお使い下さい。きっと満足して頂けますよ?」
俺の胡座を大胆に跨いだミヤビが艶をまとった明茶色の瞳で見下ろしている。俺の膝に両掌を乗せて軽くのけぞる彼女の姿は、既に臨戦態勢に入っているようだった。下着さえも着けていない。
「あの…俺をヤりたいだけの快楽主義者と一緒にしないでくれますか?少なくとも相手くらいは選びます。それにアンタからは穢れの匂いがしない。目的は解らないけど俺の反応を試しているよね?。処女さんは貴重なんだから無理しなくていいと思うよ?」
ミヤビが触れたと同時に俺の頭の中で小さな何かが弾けた。それは閃きとも呼ばれる現象だろうか?紫雅の真の目的までは解らずとも酷く無理をしたハニートラップであることを俺は見透かす。卑猥に笑み誘惑しながらも余裕の無さはまったく隠せていない。
「しょ!処女であることは認めます。そして…女としてのわたくしを感じて欲しい気持ちはあっても断じて貴方様を試そうなどとは考えていません。…あの様な立ち振る舞いのあとで無理は承知していますが、わたくしが女として男を体感できるこんな好機は生涯訪れないのです。後生です八門さま…抱かせてください!」
俺は思わず眼が点になってしまった。目前で胡座の上に収まっている半裸な美女は、属に言う痴女なんて枠を遥かに飛び越えた妄想を投げつける。要は自分の性衝動を埋める刺激を得たいが為に特別な人の葬儀中に誘拐させた上、殺し合う直前にまで睨み合った初対面な俺を全力で誘惑しているのだ。己が美人であればどんな下衆な要求をしても許されるとでも考えているのだろうか?。
「……要はアレをヤりたいだけなんだ?。だったらさっきの黒服達を呼び戻すなり何なりしてヤラせて貰えばいいんじゃないですかぁ?。あ〜ゆ〜人達って特に性欲が強そうだから丁度いいかも知れませんよ?俺なんかよりもずっとマッチョなんだろうし〜」
俺は無表情なままで無感情な台詞で返した。俺は世間の言う『ヤリチン』では断じてない。恋愛感情がどうとかなんて説くつもりはないし語れるほどの経験もないが、過度な人見知りであることは確かだ。もしもこれから、全く未知の紫雅と性的接触をしなければならないなんて…考えただけでも呼吸が苦しくなってくる。
「それは嫌ですっ!それに貴方様でなければ意味がないのです。もしも守護者の情けを身に受けたとなれば使徒としての汎ゆる縛りから開放されます。どうか助けると思って亀頭の先っぽだけでも私の腟に入れさせてくれませんか?たくさん頑張りますから」
彼女はそう言って自分の白いシャツの前襟を両手で掴んで全開に開けた。淡く桜色に上気した形の良いおっぱいが、その勢いのままに俺のすぐ目の前で上下に弾む。引き締まった薄い腹とクビレの切れ込みが凄い。しかし紫雅の顔を仰ぐ様に見ていた俺の目線から、小さめなヘソの下部はギリギリ視界に入っていなかった。
「こっこれで勃起してはもらえませんか?。もしもダメならわたくしの性器もお見せいたします。または手や唇を使っての直接的な刺激の方が良いのでしょうか?それとも乳房で挟みますか?」
俺の胡座の上に生尻でペタリと座り込んでいるほぼ全裸な美女がモジモジとしながら聞いてくる。普通の若い男なら体や感情が何かしらの反応をしても無理はない状況なのだが、ある女に十年以上片思いしている俺には、その強烈な誘惑の効果も薄いらしい。因みに俺の片思いの相手は……八門響と全く関係しない人物だ。
「あのねぇ?ムラサキミヤビさん…。貴女が女性として凄く魅力的なのは認めます。ですが表現があまりにも露骨で生々しすぎてメチャクチャ引いてしまいました。それに大切な葬儀中に俺を誘拐させたアンタを何で助けなきゃいけないんですか?そんなに嫌ならエンテンのシトを辞めればいいでしょ。ほら降りて下さい」
俺は冷徹に言うと雅のシャツの前を閉じて襟を整える。釦を二つほど掛け直して膝から下ろした。普通の健康な十八歳の青年なら彼女の曲線美や美乳にむしゃぶりついていただろうが俺には絶対に無理だ。雅は睫毛の長い眼を大きくして俺を見つめている。
「……わたくしでは響さまの代わりにならない事くらい理解しています。到底身分も血の尊さも違いすぎますし……。ですが下僕ではあっても……私も焔に産まれた女です。極天八門の末裔、守護者の血を持つ貴方様に尽くしたいのです。牝としてのわたくしの奥底に刻み付けて頂けませんか?……煉獄の獅子の聖痕を」
もし目前の美女が亡くなったあの女性なら素直に抱かれもしただろう。代理母との爛れた関係はもはや日常になっていた。身寄りのない同士で肩を寄せ合って暮らしていたのだ。響の日々の温もりとして、心の支えとして、溺愛され庇護される者として、求められれば応えるしかなかった。他の女性への想いを殺してでも。
「レンゴクノシシ?きょくてんヤツカド?。また中二病の話しの続きですか?興味ないと言いましたよね?。今はとにかく服を着て下さい。で、なければ俺は帰ります。そろそろ日も落ちた頃でしょうし、正直これ以上は付き合いきれませんよ?。でも折角なのでこの豪華な料理はいただきます。捨てるのも勿体ないので」
俺はシャツの釦を止める彼女を半開きにした目で睨みながら箸を持ち直す。素直に服を身に着けてゆく様子に少し安堵していた。
『やれやれ、諦めてくれたみたいで助かった。初対面な女性とあんな事やこんな事をする度胸なんて俺には無いって。響さんとの初めては確か……風呂の中でいっぱいキスされて…そのまま押し倒されて…。今でも後悔はしてないけど…勝手に死ぬなよ響さん』
すっかり冷めてしまった料理を箸で抓みながら、俺は今更な思い出を引っ張り出している。それほど落ち込むこともなくただ彼女を偲んでいた。人の記憶は美化されがちだと言うけれど、それも引っ括めての思い出だろう。正確か否か、などどうでもいい。つい頬が緩んでしまうような記憶のほうが沢山あるのは自慢になるだろうか?。代理母との十二年は……楽しく嬉しい日々だった。
「あの…八門さま。そのままで聞いて下さい。……先程は大変に不躾な行いでした。申し訳ありませんでした。ですが……殿方を前に素肌どころか乳房まで晒したのは産まれて初めてなのです。身分不相応な願い事なのは十分に承知しています。ですがどうか、わたくしを側女見習いとして扱っては頂けないでしょうか?」
「もぐもぐ……そばめ?つまり愛人にしろって言っているんですか?。見ず知らずなアンタと、あんな事やこんなコトをするんですか?。…あのさ?響さんのことで色々と勘違いしているみたいだから言っておくけど、俺から手を伸ばすことはしないしした事もない。好きな女性に男として求められたから男として応えた、それだけだ。俺はアンタが期待している様な絶倫男じゃないぞ」
俺は素っ気なく答える。響との関係が一線を超えた時に一度は諦めた初恋を未だに引き摺り続けている男だ。たまたま言い寄ってきた綺麗なお姉さんに乗り換えられるほどの器用さも精神的なタフさも当然持ち合わせていない。古いタイプの若者なのだろう。
「そ!その……わたくしの期待は、別の所にありまして……。願わくば貴方様に…時によっては必要とされたいだけなのです。愛玩具としてはこれからですが、他にもお役に立てる事柄が有るものと確信しています。お試し期間だけでも頂けないでしょうか?」
「パク……もぐもぐ。ふぅん、お試し期間ねぇ?。でもこの後にアンタのボスが来るんだろう?何を決めるにしてもその人と話してみてからだよ。『またかよアイガング。意味を聞いたらマズイのかな?やっぱり』ズズズ……おお!?お吸い物が美味いっ?」
俺はまたも至極全うな理由を返した。面倒事に自分から首を突っ込むほど愚かではないつもりだ。その関係性はどうあれ他人の身柄を何らかの理由をつけて預かるとなれば慎重に越したことはない。もっとも社会人でもない未成熟な俺が、大人チックな彼女を利用したり何かお世話をするなんてことは現実的に無理がある。だが彼女の一生懸命さに無下に断るのも可哀想に思えてきた。
「……やはりそうなりますよね。所詮わたくしは焔天とゆう組織の所有物ですから。……主人の判断次第では……貴方様と会うことも許されなくなるでしょう。ううう…やつかど様ぁ…ぐしゅっ」
「…所有物?。エンテンって人の名前じゃなかったのか?。……わかったよ、だから泣きそうな顔をするのはやめてくれ。ミヤビさんは響さんにも仕えてたんだろう?俺は今日まであの人がどんな仕事をしていたのかまるで知らなかったんだ。詳しく教えてくれるなら側女見習いじゃなくても側に居ていいよ。でもさっきみたいな行き過ぎた誘惑とかは無しだ。いいか?……もぐもぐもぐ」
捨てられた猫のように見上げるムラサキミヤビの涙目に、俺はつい口を滑らせてしまった。得意なことも少ないが何より女性の泣き顔ほど苦手なものが無かったりするのだ。まだ幼かった頃に心にも無い暴言で泣かせてしまった幼馴染みを思い出してしまう。そのたびに胸の奥がチクリと痛むのは気のせいではない様だ。
「本当ですかっ!?ありがとうございますっ!!ヤツカドさまぁ♡大好きですぅ♡何でもおっしゃって下さいね?私なんでも致しますからぁ♡バナナで沢山練習したのですよぉ?咥えろと言われれば咥えますしぃ♡舐めろと言われれば喜んで舐めますぅ♡」
やや切れ長な睫毛の濃い綺麗な形の眼から、今にも涙の雫が落ちる瞬間に紫雅は破顔した。満面の笑顔で飛び付くように抱き着いて来る。その刹那、俺は仰け反ってその突進をいなしてみせた。
「うわっ!?。もう。急に抱きつくなよミヤビさん、茶碗蒸しが溢れちゃうだろう?。……ん?。ほらほら、電話鳴ってるよ?」
危うく手つかずな料理をぶちまけるところだ。露骨だが無邪気にも見える言動は初恋の人に似ているかも知れない。両手を上げている俺の首元に頬を擦り付けながら抱きついている彼女の、強く圧し当てられた双丘の弾力と存在感たるや凄まじい物があった。その圧力と共に伝わる覚えのある振動で電話に気が付いたのだ。
「……紫だ。……もう着くのだな?分かった。……尾行の確認は大丈夫か?クリアしたのだな?。……ああ…そう最奥の座敷だ……くれぐれも粗相の無い様にお連れしろよ?。……ああ、そうしろ…」
さり気なく…例の場所からスマホを取り出した雅は、俺の膝を跨いだままでペタリと座り込み話している。驚くほどに重苦しく低い声で…。端で聞いているとまるで別人の声色だ。何となく理解できるのは、エンテンとか言う組織での立場上、彼女なりな苦労が色々とあるとゆう事くらいか。大人って大変だなぁとは思う。
「うん?……ああ。例の青年の身柄はここに確保してある。現在食事を摂って頂いている。なんだと?……それを真に見極めるのはあの方だ、私の見解など今は必要ない。……間もなくだな?」
それはともかく…太ももに感じるミヤビの重さと体温と、ならではな柔らかさが心地よいのは何故だろうか?。誘拐されてからを思い返せば、彼女とは碌な自己紹介もしていない。見た目は二十代前半から中半か?。栗色で艶々な長い髪がよく似合っている眼力強めな中東系の顔立ち、全体的には七頭身くらいだろう。ビキニが似合いそうなオトコ好きする抜群なプロポーションを誇る。
そんな女性にこれほど密着されているのに、緊張感や警戒心の欠片も感じていないことは、俺にとって過去に例を見ない異常事態なのだが……まぁ良しとしておこう。『エンテンの守護者キョクテンヤツカド』とか呼んでいた別の俺への尊敬や好意を体現しているのだと考えれば……無理矢理に納得しておいてやる事にした。