テラーノベル
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女中の方にも手伝って貰って、慣れない手付きながらも、なんとかお茶の準備は出来た。机の上に黒い急須と二脚の蓋付きの青い湯呑み。しっかりと茶器を温めたから、お茶の温度はすぐに下がることがないだろう。
こんな時間でも快く対応してくださった、女中の方に感謝の念が絶えない。
しかも蒼波様は濃い日本茶がお好きで、深蒸しの煎茶が良いと教えて貰った。
深蒸しのお茶は疲労回復に良いとされている。きっと喜んで下さるだろう。
そうだ、蒼波様の好みを忘れないうちに書き留めて置こうと、机の上に追いやった万年筆や紙に手を伸ばしたとき。コンコンとゆっくりと部屋の扉を叩く音がした。
まさか訪れたのは蒼波様?
思わず時計を見ると、蒼波様が部屋を出て行かれてから本当に十五分ほどしか経ってない。
本当に蒼波様だろうかと思うと、ゆっくりと扉が開き、そこには小粋な黒い浴衣姿の蒼波様がいた。
長身の体にゆったりと着こなした浴衣姿は、艶やかと言う言葉に尽きる。
そんな方が夜に私を訪ねて来るなんてと、身を固くしてしまうと蒼波様はふっと笑った。
「なんだ。幽霊にでも出会ったような顔をして。あぁ、浴衣姿が以外だったか? 俺も年中軍服を着ているわけじゃない。家で寝るときは浴衣ぐらい着るさ」
どうやら私の驚きは違う方向に取られてしまったようで、真意を伝えたいけど『艶やかで見惚れていたのです。早いお戻りでびっくりしています』なんて、言える勇気は持ち合わせてない。
首を横にふるのが精一杯。
いや、私の気持ちなどはどうでもいい良くて、お茶を用意したのだから「お茶を召し上がってください」と言いたいのに、声が出なくて机の横で不審な動きをしてしまった。
くすっと蒼波様は笑いながら、部屋の中へと入ってきた。
「真那、元気そうでなによりだな。でも、声はまだ出ないと家の者達から聞いている。無理しなくていい。このお茶は俺が飲んでもいいお茶かな?」
こくこくと頷く。
「じゃあ、真那も一緒に呑もう」
自然な蒼波様の態度に救われる。
蒼波様が着席して、湯呑みを蒼波様の前に置いてから私も席に座った。
こうして対面して誰かとお茶を飲むなんて、本当に久しぶりだ。それだけで気持ちが和む。
「では、お茶を頂くとしよう。ん、これは深蒸しのお茶だな。真那。ありがとう。俺が好きな茶だ」
良かったと微笑む。
お茶をお気に召してくださったようだ。女中の方に改めて御礼を言わないといけないと、思いながら私も湯呑み蓋をぱかりと開ける。
ふわりと暖かな蒸気が頬を撫でる。
湯呑みの中に揺らめく、緑色が美しい。
立ち上る緑茶の澄んだ香り。一口、口にゆっくりと含めばじわりと、甘さと緑茶の程よい渋みが上品に絡み合う。とても良い茶葉で喉にも良さそうだと思った。
ふうっと暖かい湯呑みを机の上におくと、蒼波様が「ご馳走様」と、お茶を飲み干したところだった。
あまりにも早く飲まれたので、奇術か何かと目を丸くさせると蒼波様が苦笑した。
「あぁ、どうも飲食は素早く完食してしまう。軍人の悪いクセみたいなもんだ。真那は気にせず、ゆっくりと飲めばいい」
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空になった湯呑みにお代わりはいるのだろうかと、急須に目を向けると蒼波様が「真那のお茶請けとして、俺の話をしていいか?」と尋ねたので首を縦に振った。
なにを言われるか気になる。蒼波様をじっと見つめると蒼波様も私をじっと見つめてから、静かに口を開いた。
「俺は真那が──稀人だと分かった上で、妻として受け入れている」
「!」
いきなりの核心に迫られて、ドキッとした。
湯呑みを落としそうになったので、素早く湯呑みを机に戻す。
「真那は、人魚の稀人で違いないな?」
──間違いないと、慎重に首を縦に振る。
蒼波様は私の動きを見て、ゆっくりと口を開いた。
「俺が真那を稀人だと思ったのは、俺の瀕死の傷を回復させたとことや、東堂家のここ数年による医療の貢献は生体回復、治癒、人体に関するもの。昔から東堂家は人魚の稀人が、その血筋にいたと噂されていたからだ」
蒼波様に私が稀人だと指摘され、流石に黙っていることは出来ない。
稀人だと知った上で私を妻と言い、お優しい態度を崩さない蒼波様は──信じれる。
私は意を決して、机の端に置いていた万年筆を手に取った。
そして紙に言葉を綴る。
『そうです。私は人魚の稀人です。母と父が人魚の稀人だと聞いていました』
「両親がどちらも稀人? 真那は──純血種の稀人だったのか」
純血種。
それは初めて聞いた言葉だった。
父は暖かな海がある南から、気ままに薬を調合したりして旅をしていた。そんなときに海辺に住むお母様に出会って恋に落ちたそうだ。
そしてまさか互いに人魚の稀人だとわかり意気投合。さらに絆は深まったと聞いた。
本当に仲睦まじい両親だった。そのことも紙に書いてゆく。
「真那の知識とその美筆を見れば、ご両親の聡明さが伺いしれるというもの。実にご立派な両親だ。挨拶出来ないのが悔やまれる」
そんな風に言ってくれて嬉しい。万年筆を持つ手が軽やかに動く。
『お褒めの言葉、ありがとうございます。きっと両親も蒼波様にお会いしたいと思っているはずです』
『母の遠縁の血縁に東堂家は連なっていると、母から生前聞いたことがありました』
私と東堂家の祖先は姉妹で、姉は人に交わることをよしとせず、海辺に住むことなり。
妹は都会へ出て人と迎合することを選んだそうな。
その妹の血が東堂家らしい。
だから何かあったら、私が一人になって生活が立ちいかなくなったら東堂家を頼れと言われていたのだ。
その事を安心して言える。
自分のことをちゃんと聞いてくれる人が嬉しくて、私は夢中でその事を紙に綴った。
コメント
1件
うわあ、このエピソードめっちゃエモすぎる…!😭💕 蒼波様が「稀人だと分かった上で妻として受け入れている」ってストレートに言っちゃうところ、心臓がバクバクしたよ!真那が万年筆で想いを綴る姿も健気で切なくて…お茶の描写も美しくて、二人の距離がゆっくり縮まっていくのがたまらない🥺✨ 真那が自分のルーツも含めて心開いていく流れ、本当に尊いです…!次の展開が気になりすぎる〜っ!