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制服のままの美紅がすさまじい速さで俺たちの方に駆け寄って来る。そして悟の体に触れるとそのまま、悟を川の水の中に放り込んだ。もちろん例の力を使って、軽々と十メートルは先の川の中に、だ。そうか! 俺はなんてアホだ。すぐそこに水が腐るほどあったんじゃないか。
それから美紅は俺とその人影の間に立ちふさがった。それはあの神がかり状態の美紅だった。別人のように凛とした顔つきでオーラのような物を全身から発している。
その人影は美紅を見てひるんだようだった。だが、グルルと獣のような唸り声を上げ美紅に向かって右手を横に払う。美紅は両腕を交差させて何か目に見えない物を受け止めるような動作をした。そして何か、衝撃波のような物が俺の体にまで伝わってきた。
間違いない。こいつは間違いなく美紅と同じ種類の、超自然的な力を持っている。美紅が両掌を合わせて叫ぶ。
「マジャバニ!」
頭の上から振り下ろした美紅の両手の先から、細い光、鳥の羽根のように見える光の塊が十数本、その人影に向かって飛んで行った。それをまともにくらった相手は「ギャッ」と叫んで、そのままくるりと背中を向け走り去ろうとした。だが、美紅が宙高くジャンプして、そうまるで空を飛ぶかのように俺の頭上よりはるかに高く飛んで、その人影の前に回り込み立ちふさがる。と、その人影の手元から鈍い光を放つ何かが美紅に向かって飛び出した。
美紅もそれは予想できていなかったようで、両手を大きく振って払いのけるだけで精いっぱいだった。その美紅の一瞬の隙をついて人影はそのまま闇の向こうに走り去った。まるで闇に溶け込むように姿が見えなくなる。
俺はしばらく呆然として美紅の後ろ姿を見つめ、そしてはっと我に帰った。そうだ、悟! 俺は川岸に向かって走りながら思った。水に飛び込んだんだからもう大丈夫だろうが、相当な火傷をしているはずだ。早く病院に連れて行かないと。
だが、川岸にたどり着いた俺は、信じられない物を見た。悟は水の中でまだのたうち回っていた。そしてその背中の炎は……消えていなかった!
そんな馬鹿な! 水の中でも消えずに燃え続ける火……そんな物がこの世にあってたまるか! 何なんだ、あれは!
それから数十秒、悟は川の水の中で背中を炎に包まれたまま、もがき苦しみ、のたうち回り、それから岸に倒れて、そのまま動かなくなった。悟がぐったりと動かなくなった時、その異様な炎はすっと消えた。その間、俺はなす術もなくボケっとそれを見つめている事しか出来なかった。
俺の背後で、ピッポッパという携帯電話の音がした。それで俺はやっと改めて我に帰った。振り向くと美紅がピンク色の携帯電話で小声で誰かと話している。電話の向こうの声はどうやら母ちゃんのようだ。
美紅はひとしきり何かを話して、それから俺の腕をつかんで言う。
「行こう、ニーニ。警察にはお母さんが連絡してくれる」
「いや待てよ! だって、悟が……」
美紅は沈痛な顔つきで首を横に振り言った。
「可哀想だけど……死んだ人に出来ることはない。今は、この場を離れるの。そうしないとニーニがややこしい事になる」
俺は一瞬呼吸が止まった。おい、美紅、な、な、何を言ってるんだ?
「早く!」
美紅は俺の腕を引っ張ってその場から力ずくで連れ去った。有無を言わせない力だった。美紅に引っ張って行かれながら、俺の頭の中では数々の疑問が嵐のように渦まいていた。
確かにあの人影は人間じゃない。だけど、あれが深見純の幽霊だとして、何故、どうして上田悟が殺されなきゃならないんだ? それに悟が言ってた、五人目だの七人目だのって、一体何の事だ?