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#ワンナイトラブ
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「ハイソなメンバーだったんで、お金に騙される心配は無かったんですけど」
「どんな男だったんですか?」
橘さんに言われた通りに簡単に説明すると、常葉くんは何故か呆れた様に鼻で笑う。
また何か見透かしたのだろうか、おずおずと伺うようにその瞳を覗いた。
「……何か、分かったんですか?」
「まぁ、何となく」
「と、常葉さま……!」
彼の前ではプライドと言う薄っぺらいものを持ち合わせない私は平伏すみたいにこうべを垂れる。
足を組みなおした彼は「一概には言えませんけど」と1つ前置きを告げた。
「そんな条件の揃った男ならすげー遊び慣れてるでしょうね。それに会員制ってのも引っ掛かります」
「な、何故ですか……?」
「憶測ですけど、妻帯者でも居たんじゃないですか」
薄くて形のいい唇が開けばなんだってこう、裏をかく説明をくれるのだろう。だけど彼の言葉は毎回腑に落ちてしまう。
そ、そういうことか……!
確かに、お金持ってて顔も良くて、何も問題ないってこと絶対無いだろう。危ない、釣られかけてたよ私。
この年だと年上過ぎるのも考えものって事か。毎度のことながら彼の言葉は勉強になる。
「橘さんは大丈夫でしょうか……」
いつも顔を合わせる彼女を案じると、「人の心配するんですね」と、常葉くんはため息混じりだ。
「同僚だし、当たり前でしょう」
「あの人合コン慣れしてそうだし、大丈夫じゃないっすか」
確かに私の恋愛偏差値と橘さんのそれとじゃあ比べ物にならないのかもしれない。
変に納得していると、遂に完全に興味が逸れたのだろう。彼は食器を手に取ると立ち上がった。
やっぱり、出会いには婚活パーティが良いのかな。
しかし、それがきっかけで付き合った人は急にだらしなくなったり、私名義で怪しいことを始めたりとあまりいい思い出がない。
「どこかにいい男転がってないかなぁ……」
木目のテーブルに片頬を付けて項垂れ、欲まみれの言葉を吐き出した。
「焦ってんですか」
「焦りますよ、私30までには結婚したいんですよ。逆算したらそろそろお付き合いしないとまずいんですよ」
「ふーん」
「興味を持って下さいよ!」
「あ、電話」
常葉くんは私の切実な願いよりも、電話の方が大事なのだろう。……当たり前か。
なんなら私が少し焦るのも、常葉くんのせいだったりもする。
反対側の頬をテーブルで潰すと、ソファーに座りスマホを耳に寄せる後ろ姿だけをぼんやりと見つめた。
多分、私は30パーセントくらい常葉くんの事を好きだと思う。
興味もない会話が耳を通り抜けるけれど、常葉くんが零す「あぁ、」とか「ははっ」とか、簡単な声にすら胸がきゅっと甘く疼く。
相手は誰なのかな、と、考えるだけで厚かましい心臓は甘い色を変えるのだから困ったものだ。
パーセンテージが半分を越えたらまずい。こんなに勘が鋭い人に気持ちを隠し通せる自信が無い。
だから私は考えた。他に好きな人作ってしまえば良いのだと。
浅はかで考え無しの作戦だけど、何もしなければ追い出されてしまう未来しか見えない。
頼れる人が彼の他に誰もいないから、それだけは阻止しなければ。
◆
次の日、出勤直後の橘さんは私に散々愚痴を聞かせた。
「聞いてください、3人中2人が結婚してるんですよ?しかも指輪も外さずに来たんです。ありえないでしょ?」
インスタに記事をあげていない事から、もしかして常葉くんの読みは外れていたのかな、と、安心したのも宵越しの思惑だった。
「……それで、橘さんたちは大丈夫だったんですか?」
「はい!すぐ帰りましたよ。だって、奥さんの事も私達のこともバカにしてるじゃないですか。割り切って飲むほど安い女じゃないです」
自信を持って言い切る姿に、どこか胸がすく思いさえもした。
合コンばかりして、チャラチャラしていると思っていたのに意外と芯がしっかりしている女性だったみたいだ。
「……なのに彼氏居ないんですね」
「そうなんですよ、友達ばかり増えるんです〜」
確かにインスタのフォロワー数も私の10倍は違うのであながち間違いでは無さそう。
「それでも、友達が多い人は羨ましいですよ」
言うつもりがなかった言葉が自然と口から溢れると、「穂波さんとは友達じゃないですか〜」と、彼女は私の腕に柔らかい肌を寄せる。
「いえ、どちらかと言うと同僚です」
「そんなぁ、じゃあ、お近付きの印に今度恋バナしましょうね」
「嫌ですよ」
ピシャリと言い放つと、「はぁい」と間延びした声をきかせて、彼女は一つ飛ばした先の机に戻った。
っ……はぁ、緊張した……!!
恋バナなんてワードを聞くなんて思ってもいなかったから、耳が熱い。
だけどやっぱり表情は崩すことなく、画面と向き合った。