あれから2時間は経っただろうか。涼太は眠ったままで残されたメンツはそれぞれ時間を潰していた。きぃっとドアが開く音が聞こえた。
「ただいま。」
「おかえり。ふっか、照、佐久間。」
「どうなった。」
「自主退職。最初はあいつも否定し続けてたけど問い詰めてカマかけたら白状したよ。…なんならさっき舘さんが言ってなかったことまでべらべらと話して下さったし。」
皮肉っぽく話す照から怒りがミシミシと伝わってくる。
「裏で舘さんの衣装を切り刻むとか、トイレに閉じ込めて性的暴行をしていたりとか。…挙げていけばきりがない。」
「は…?」
奥で康二とラウールが泣いている。阿部と目黒が表情を無くし必死に怒りを抑えている。ふっかと照と佐久間は悔しそうに俯いている。俺は眠っている涼太の横で泣くことしかできなかった。
「ごめん、ごめんな、涼太…っ」
「…ぅ…しょ、た…?」
「涼太…」
「何で、泣いてるの…?大丈夫…?」
こんなときにも自分より他の人のことを心配する涼太が自分よりも辛い目にあっていたことが悲しくて思わず横になったままの涼太を抱きしめた。
「ごめん、な…気づけなくて、助けて、あげられなくてっ…」
「…っ」
涼太は俺の背中に腕を回すと、きゅっと服の裾を掴んだ。
「…怖かった…苦しかっ、た…」
「…」
「嫌だった…っ」
そう言った瞬間何かが切れたかのように涼太は大声で泣き始めた。レッスン場だから音漏れの心配はないが、それでも喉が壊れるんじゃないかと思ってしまうくらい泣き叫んだ。
そんなことがあってからみんなの警戒心が強くなった。例えば、
「あ、舘さんどこ行くの?」
「ん?ラウ?飲み物買いに行くだけだよ。」
「僕も行くー」
「え?1人で行けるよ?」
「ほら、行こ行こ!」
「え、ちょっと…」
このように涼太がどこか行こうとするだけで誰かが付いてくる。過保護というかなんというか…
「舘さん大人気っすねぇ…」
「目黒もたまにあんなことするじゃん。」
「だってほっといたらまた何かされそうでしょ。お人好しだし。」
「言えてる。」
「うわびっくりした、佐久間か。」
「まぁ舘さんも嫌そうじゃないしいいでしょ。」
「そうだな。」
そんな話をしているうちに気付いたらラウールと涼太は帰ってきていた。
「翔太。」
「何?」
「これ。」
「…グミ?」
「あげる。間違えて買っちゃって。俺食べないし。」
そう言って涼太は康二と阿部のところに混ざりにいった。
「全く、素直じゃないねぇ舘さんも。」
いつの間にか後ろにいたラウールが呆れたように言った。
「素直じゃないって何が?」
「そのお菓子舘さんが翔太が好きそうだなって言ってわざわざ買ったやつだよ。」
「…そうなの。」
「平然としているようで翔太顔真っ赤ですけど。」
うるさいと悪態をつくと佐久間はケラケラと笑った。
(俺が好きそう、ねぇ…)
心がぽかぽかするのを感じながら一粒グミを口に放り込んだ。
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