テラーノベル
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翌朝。
目が覚めて、ぼんやりと天井を見つめる。
昨日の出来事が、少しずつ頭の中に戻ってきた。
韓国へ聖地巡りに来たこと。
突然の雨。
カフェ。
そして――
ヨル。
「……夢じゃなかったんだ」
ベッドの上でスマートフォンを手に取る。
画面を見る。
そこには昨日交換したばかりの連絡先。
ヨル
その名前を見るだけで、昨日の出来事が蘇ってくる。
『僕がヨルです』
あの瞬間。
思い出しただけで、胸がドキドキする。
「……無理。まだ信じられない」
私は枕に顔を埋めた。
12年間好きだった人と、昨日会った。
しかも――
連絡先まで交換してしまった。
スマートフォンをもう一度見る。
「……どうしよう」
昨日は普通に話せた気がするのに、朝になった途端、急に恥ずかしくなってきた。
メッセージを送ろうか。
でも、何を書けばいいんだろう。
『おはようございます』
……普通すぎる?
『昨日はありがとうございました』
……なんか距離がある。
『昨日は夢みたいでした』
……これは恥ずかしすぎる。
打っては消す。
また打っては消す。
結局、何も送れない。
「私、何してるんだろ……」
自分で自分に呆れていると――
スマートフォンが震えた。
「……!」
びくっと肩が跳ねる。
画面を見る。
新しいメッセージ。
送り主は――
ヨル。
「えっ……」
心臓が一気に速くなる。
恐る恐るメッセージを開く。
『おはよう』
たった三文字。
なのに、顔が熱くなった。
「……おはよう、って……」
12年間好きだった人からの「おはよう」。
それだけで嬉しくなる自分が、なんだか恥ずかしい。
私はしばらく画面を見つめたあと、返信画面を開いた。
『おはようございます』
送信。
「……送っちゃった」
スマートフォンを伏せる。
でも、気になってすぐまた見る。
まだ既読になっていない。
「いやいや、何を気にしてるの……」
自分に言い聞かせる。
でも数分後。
通知が届く。
『昨日、ちゃんと帰れた?』
「……!」
また胸が跳ねた。
『はい。無事にホテルに戻りました』
そこまで打って、少し迷う。
「……これだけでいいよね」
送信。
するとすぐに、
『よかった』
と返ってきた。
その文字を見て、思わず笑ってしまう。
「……なんか、優しい」
そして、しばらく考えてからヨルに聞いてみる。
『今日は何をするんですか?』
送信した瞬間、
「……私から聞いちゃった」
急に恥ずかしくなって、顔を手で覆った。
でも、返事が来るのを待っている自分がいる。
⸻
『今日は仕事があるよ』
『忙しいんですね』
『うん。でも、今は少し休憩』
そこまで読んで、私は小さく笑った。
『ちゃんと休んでくださいね』
送ったあと、
「……何それ。彼女みたいじゃん」
自分で書いた文章なのに、恥ずかしくなる。
消そうかと思った。
でも、もう送ってしまった。
しばらくして、
『ありがとう』
そして、
『優しいね』
と届いた。
「……っ」
私はスマートフォンを胸に押し当てた。
「やめて……そういうこと言わないで……」
誰も見ていないのに、顔が熱くなる。
12年間好きだった人に、
「優しいね」
なんて言われる日が来るなんて思ってもいなかった。
⸻
その日の午後。
私は予定通り聖地巡りへ向かった。
街を歩きながら、昨日までとは少し違う気持ちになっていた。
今までは、
「ここにEXOがいたんだ」
という気持ちだった。
でも今日は、
「昨日、ヨルと会った街」
になっている。
写真を撮っていると、スマートフォンが震えた。
『楽しんでる?』
ヨルからだった。
「……また来た」
思わず頬が緩む。
『はい。今、ここに来ています』
写真を一枚送る。
送ったあと、急に不安になる。
「変じゃないかな……」
数秒後。
『きれいだね』
と返ってきた。
「……よかった」
胸を撫で下ろす。
『ヨルさんは今日は何してるんですか?』
送信。
そして、また少し照れる。
昨日まで「ヨル」と呼ぶだけでも特別だったのに、
今はメッセージの中で名前を呼んでいる。
少しして、
『今日は仕事があるよ』
『忙しいんですね』
『うん。でも、今は少し休憩』
『そっちは楽しんでね』
「……はい」
思わず声に出してしまう。
画面の向こうなのに、まるで直接話しているような気持ちになった。
⸻
夜。
ホテルに戻る。
一日歩き回って疲れていたけれど、スマートフォンを置く気にはなれなかった。
今日一日の写真を見返す。
聖地巡りの写真。
街の景色。
そして、ヨルとのメッセージ。
私はふと気づいた。
「……もっとヨルのこと、知りたい」
12年間好きだった。
でも、それは画面の中のヨルだった。
好きな曲。
好きなステージ。
好きな表情。
知っているのは、そういうことばかり。
目の前にいる一人の男性としてのヨルのことは、まだ何も知らない。
好きな食べ物も。
休日の過ごし方も。
好きな場所も。
どんなことで笑うのかも。
何を考えているのかも。
まだ知らない。
だからこそ――
知りたいと思った。
そのとき、また通知が届いた。
『今日は楽しかった?』
私はすぐに返信する。
『はい。すごく楽しかったです』
そこまで打って、指が止まる。
もう一行、書くかどうか迷った。
「……どうしよう」
しばらく悩んでから、勇気を出して打つ。
『昨日、ヨルさんに会えたことも……すごく嬉しかったです』
送信。
「……送っちゃった!」
私は慌ててスマートフォンを伏せる。
顔が熱い。
「恥ずかしい……」
でも、数秒後。
気になって、そっと画面を見る。
返信が届いていた。
『僕も』
そして、
『会えてよかった』
「……」
言葉が出なかった。
ただ、嬉しくて。
自然と笑顔になった。
そして最後に、
『また韓国にいる間に、時間が合ったら会おう』
と届いた。
「……また?」
思わず画面を見つめる。
また会える。
それだけで胸がいっぱいになる。
『はい……!』
送信したあと、
「……! 嬉しいって思ってるの、バレバレじゃん」
また恥ずかしくなった。
でも、消したくはなかった。
まだ恋人じゃない。
まだ「好き」と伝えたわけでもない。
ただ、昨日より少しだけ近くなった。
そんな二人だった。
12年間、遠くから見つめていた人と、
初めて交わしたメッセージ。
たった数文字のやり取りなのに、
私は何度も笑って、
何度も照れて、
何度もスマートフォンを見返した。
それは恋の始まりと呼ぶには、まだ小さすぎる。
でも――
二人の物語にとっては、
確かな一歩だった。
第3話 終
コメント
5件
読んだ…!めっちゃわかるわ、この「推しからメッセージ来ただけで世界が変わる感じ」。 打っては消して、送ったあとスマホ伏せて、数秒後にこっそり画面見るの、完全に恋する乙女の動きじゃん。 「優しいね」で胸押さえるシーン、顔が熱くなるのがこっちにも伝わってきた。 画面越しのやり取りなのに、距離が確実に縮まってく感覚が丁寧に描かれてて、ニヤニヤが止まらなかった。まだ「好き」とは言ってないけど、確かに動き出した恋の一歩。 続き、どうなるんだこれ…!