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「レナトス様、こんにちは。」
「おう。オーター、今いる?」
「はい。執務室にいらっしゃいます。」
「そっか。ありがとな。」
オーターの部下に軽く挨拶をしてレナトスは執務室へと向かった。
コンコン。
「オーター。俺、レナトスだ。」
執務室へと着いたレナトスがドアをノックしながら、中にいるであろうオーターに呼びかける。
が、
しーん。
中から返事はなく静まりかえっていた。
(あれ、居ないのか?・・・ん?でも鍵は開いてるな。)
「オーター・・・入るぞ。」
ガチャ。
一応ひと声かけながらレナトスは執務室へと足を踏み入れた。レナトスが中に入ると、オーターはソファに横になって眠っていた。
「スー、スー。」
「何だ寝てたのか。ん?」
眠っているオーターに近づいて彼の顔を覗き込んだレナトスは、彼の閉じられた目の下に隈がある事に気づき、眉を寄せた。
(目の下に隈がある。ろくに寝れてねえのかな。)
「あんまり無理すんなよな。」
レナトスがそう呟きながらオーターの寝顔を眺めていると、
「んん。」
眠っているオーターが、小さく身じろぎしながら声をあげた。レナトスはオーターが起きるのかと思いそのまま見守る。
「う・・・ん。・・・うう。」
オーターは眉間に深いしわを寄せ目を固く閉じたまま、うめき声をあげうなされていた。
(悪夢でも見てるのか?)
レナトスはオーターの腹に乗せてある手に自身の手をそっと重ねた。
「オーター、起きろ。」
「う。」
「オーター。オーター、起きろ。」
レナトスは優しくオーターの名を呼びながら重ねたままの手をギュッと握り、肩もゆすって起きるように促す。
するとオーターの睫毛が震え、固く閉じられていた目がゆっくりと開いた。
「・・・・・レナトス?」
「おう。うなされてたけど大丈夫か?」
「それよりも、何故貴方がここに?」
「休憩がてらお前の様子を見にな。」
「そう、でしたか。・・・・あの。」
「ん?」
「うなされていた時、私は何か言っていましたか?」
「いや?何も言ってねえけど。」
「ならいいです。」
オーターはハアと大きく息を吐き出し、レナトスに自身の手を握られている事に気づいた。
「レナトス。」
「どうした?」
「手を放してほしいのですが。」
「あ、ああ。悪い。」
オーターに指摘され、レナトスは握ったままの手をパッと離した。オーターがむくりと起き上がり握られていた手をキュッと握った。
そんなオーターを見つめながら、レナトスが口を開き問いかける。
「なあオーター、もしかしなくてもお前あまり寝れてねえだろ?」
レナトスの問いかけにオーターの肩がピクッと跳ねた。・・・どうやら図星らしかった。
レナトスはハアと大きなため息をついて続ける。
「お前な、寝るのも仕事のうちだぞ?」
「貴方に言われずとも分かっていますよ。ですが・・・。」
「ですが?」
「よく眠れないんです。・・・こんな雨の日は。」
そう言うと、オーターは唇を噛み締め俯いた。
そんな彼をレナトスはしばらく見つめた後、こう問いかけた。
「オーター。お前今日の仕事はあとどれくらい残ってる?」
「今日の分の仕事は、机の上にある分です。」
オーターは自身の使用している机の上を指差す。
机の上には積まれている書類の山が一山分ぐらいあった。
「一人で全部片付けられるか?」
「誰に言っているのですか。あれぐらい私一人で処理出来ます。」
「そうだな、聞くまでもないか。オーター。」
「何ですか?」
「今日仕事が終わったら待っててくれ。」
「は?何故。」
「何故って、一緒に帰るからだよ。」
「・・・は?」
オーターは、レナトスの思いがけない言葉に目を見開き間の抜けた声を出した。
そんな彼に構わずレナトスが話を進める。
「俺も仕事早めに終わらせっから。じゃあな。」
「ちょ、待って下さい!勝手に話を進めないで下さい!」
「勝手に帰るなよ?」
バタン。
オーターの訴えも無視してレナトスはそう言い残すと執務室を出て行ってしまった。
再び静かになった部屋で、オーターはフーと息を吐きながらカチャっと眼鏡を押し上げた。
「全く。人の話を聞かない人ですね。」
(無視するのは簡単だが、あとが面倒ですしここは彼の言う事に素直に従った方がいいですね。)
「本当に、調子が狂う。まるで、」
(あいつみたいだ。)
『先輩!』
オーターの脳裏に一瞬、自身を呼ぶある人物の姿がよぎったが、すぐに追い出すように頭を振った。
「・・・仕事を終わらせなければ。」
一言呟いてオーターはソファから立ち上がり、書類の積まれた机へと向かい、椅子に座って仕事に取り掛かるのだった。