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「まぁ素敵! とっても美味しそうだわ」
「え……」
「あら? コーヒーだけなんですか?」
「え? え?」
目の前に、とても綺麗な女性がいる。
年の頃は二十代……後半?
綺麗に染められたライトブラウンの髪は肩より少し下のミディアムヘアで、しっかり内巻きに整えられていて実にエレガントだ。
爪の根元が少しだけキラキラしたベージュピンクのネイルは上品で、シャンパンカラーのワンピースにマッチしている。
どこをとっても隙のない完璧な女性だ。
ネイルか……。羨ましい。子育て中の私には全く縁のないものだわ。
テーブルには食後のコーヒーと思われる飲み物が二つ。
いや、彼女の前にあるのは紅茶かな。その横にはカラフルなマカロンやフルーツ、シャーベットがのったプレートが置かれている。
なんて優雅なティータイム。
どうしてあのプレートが私の前にはないのかしら。
あのプレート、私も食べたい!
…………じゃなくて、ここどこ? この人誰? なんで私、突然この人とお茶しているの?
周りを見渡すとここは見るからに高級そうなレストラン。たぶん、ホテルの最上階にあるようなフランス料理店だ。
私の右側にある窓を見ると、遠くに街の夜景が広がっている。
うん、間違いなく高層階だ。
どうして自宅マンションから高級レストランに飛んでいるのだろう?
「男性って、甘い物が苦手な方、多いのかしら。父もそうなんですよ。私からしてみれば、人生損をしているような気がしますわ。甘い物が食べられないなんて」
男性? 今、この人、私に向かって男性って言った?
それとも一般的なお話を私に振っているの?
一体誰なんだろう……この人。
状況が全くわからない。これは夢?
今日はおばあちゃんを送って疲れているから、いつの間にか寝ちゃったのかしら。
それにしてもリアルな夢……。
「……やさん? ……かやさん?」
ん?
「鷹也さん? どうされたんですの? 突然ボーッとされて」
「へっ? たかや……?」
なんで鷹也? さっきも男の人って……。
そこで私は自分の手元を見た。
細長いけれど、筋張った指。明らかに男性のものとわかる手が目に入る。
……この手、見たことある?
そしてジャケットの袖口からは、ヘルメスのカフスボタンがのぞいている。
「嘘……」
もう一度右側を見た。今度は夜景を見るのではなく、ガラスに映っている自身の姿を見るために。
「た、かや……?」
暗いガラス窓に映った自分の姿に驚きを隠せない。
私は思わず顔に手をやった。
嘘だ。あり得ない。さっきまで自宅でどんぐり飴を食べていたのよ?
そんな私が、どうして鷹也になっているの⁉
「ど、どうしたんですの? ちょっと、鷹也さん? そんなにお顔ばかり触って――」
「あ、あの!」
「……はい?」
「ちょっと…………トイレに」
「ど、どうぞ? 遠慮なさらずに――」
「し、失礼します!」
立ち上がり、店を出てすぐのところにあるトイレに入る。
鏡! 鏡!
「信じられない……」
トイレの鏡には、鷹也がいた。