ある春の土曜、雲一つない空。
フランスとイギリスは、近くの大型ペットショップに足を運んでいた。目的は、ミル用のキャットタワー。
フランス「ミルももう、うちに来てしばらく経つし。そろそろ“お城”を買ってあげないとね」
イギリス「お城って……」
フランス「キャットタワーは猫にとっての王宮でしょ? ふかふかのクッションついてて、いろんな段差があって、景色も見える場所で──ほら、あれとか最高!」
と、フランスが指さしたのは、天井まで届く超大型キャットタワー。
色は白とベージュのツートン。ハンモックにトンネル、小窓、階段付き……完全に城である。
イギリス「……これ、うちのリビング半分くらい埋まる気がするんですが」
フランス「じゃあ残り半分にソファを寄せればいいじゃん?」
イギリス「……発想が豪快すぎるでしょう……」
フランス「大事なミルのために妥協なんてできないんだよ。イギリスだって、ミルが気に入るの選びたいでしょ?」
イギリス「……ええ、まあ、そうですが。……あ、でもこっちの木目調も落ち着いてて可愛くありませんか? これなら部屋に合うかと」
フランス「うーん……たしかに可愛いけど、ちょっとミルの毛が目立ちそうかなあ……」
どこか真剣に、けれど時々笑って、二人は棚を見て回る。
一番下の段にあった、丸っこくてコンパクトな猫用ベッド付きのタワーを見たイギリスがふと口にした。
イギリス「……これ、ミル寝ちゃいそうですね。お昼寝しながら、外の鳥とか見たりして」
フランス「……そういうの、想像してるイギリスって、ほんと優しいよね」
イギリス「……いきなり何ですか」
フランス「べつに。ちょっと好きが増しただけ」
イギリス「……もう……やめてください。こういう場所でそういうことを言うのは……」
照れてそっぽを向いたイギリスに、フランスはふっと笑いながら、手に持った商品札を差し出した。
フランス「じゃあ、これにする? 見た目もかわいいし、何より──イギリスが選んだやつだし」
イギリス「……はい。これならミルも気に入ってくれると思います」
帰宅後。
キャットタワーを組み立てるふたりを横目に、ミルはキャリーの中からじーっとこちらを見つめていた。
そして数十分後──
完成したタワーに、まるで当然のように飛び乗ったミルは、ふかふかの最上段に鎮座し、ふたりを見下ろすように小さく「にゃ」と鳴いた。
フランス「ほら、もう女王様じゃん」
イギリス「……ミル女王陛下、ご満足いただけましたでしょうか」
ミル「……にゃあ」
その夜、ミルは初めてのお城で寝落ちし、
フランスとイギリスは肩を寄せ合って、タワーの前で「いい買い物だったね」と静かに笑い合ったのだった。