この世は大きく分けて、『人間界』『天界』『魔界』の3つに分かれている。
『人間界』には人間などの生きるもの、妖などの死するものが住み、『天界』には神、天使、神獣が住み、『魔界』には悪魔、魔獣が住まう。
太古の昔より『天界』と『魔界』は対立し合い、『人間界』はそれに巻き込まれる形として存在している。
しかし、その3つの世界に共通して伝わる、予言とも言える伝承が存在する。
“天、地、魔、全テガ『己ノ野望ヲ叶エルモノ』ニヨリ消滅ノ世来ム。サレド『悲劇ノ者達』ガコレ救ハム。ソノ者ドモヲ束ヌル一人ノ女子ヲ、皆カク呼ブ。
「この子なら、きっと、きっと…。」
とある町外れのボロボロの一軒家。その家には一人の男と、ヒトリの少女が住む。その家では、男の怒声と、殴る音が日常的に聞こえる。しかし、何故か悲鳴などの声は一切聞こえない。
「あー腹立つ!!なんで俺が怒られなきゃいけねぇんだよ!!!」
男はそう叫びながら、少女を殴り続ける。
「ふぅ、スッキリした〜!やっぱりお前、ストレス発散にはいい道具だよな。
俺はこれから出かけるが、絶対に逃げ出すんじゃねぇぞ?」
「…はい。」
男は少女にそう言いつけ、家から出て行った。
白髪に黒のメッシュが入った少女の名は『琳寧』。琳寧は所謂、二重人格者である。昔からこうして父親から虐待を受け続け、もう一つの人格を作り出し、感情が薄くなったのだ 。琳寧の中にあるもう一つの人格は「凛音」という。無感情の琳寧と、気が強い凛音の2人がいる。
「琳寧!大丈夫か…?」
「うん、大丈夫だよ…私は体は丈夫だからね。」
そうゆう問題じゃない。とでも言いたげな凛音だが
「絶対に無理はすんなよ!限界だったらすぐに俺に言えよ?」
と心配をする。
今はこんな生活を送っている彼女らだが、昔は違った。母親がいたからだ。
母は琳寧の中にいる凛音の事にも理解があり、2人を愛していた。
父親がいない時はごく普通の、幸せな母と子どもだった。しかし父親が帰ってくると、その幸せは一瞬にして消え去る。当時はまだ父親からの暴力は酷くはなかったり、母親が琳寧を庇ったりして、今よりもマシな生活だった。
だがとある日、父親は母親に
「おい、車乗れ。」
と言い、半ば強制的にどこかへ連れて行った。しかし…
大方、父親が母親を置き去りにしたか、もしくは…。
それからというもの、父親からの暴力はヒートアップし、琳寧の身体からアザが消える事はなくなった。
「琳寧、やっぱり大丈夫じゃねぇだろ…」
「あ、ごめん。ちょっと昔のことを思い出してただけ…」
凛音はいつも私の心配をしてくれる。優しいねって言うと、いつも否定されるけど。
こんな生活の数少ない私の救いはこの「凛音との会話」と「神様に祈る」こと。何かの宗教に入ってるって訳じゃないけど、夜空の星を見て祈ると、不思議と落ち着く気がするの。
父親のいない時間を見計らって、ベランダに出る。そして両手を握って、聞いてほしいことを話す。
「“神様、今日も話を聞いてくださいますか?”」
そう言うと、毎回一つ、流れ星が流れる。
「毎回思うんだけどよ、よくこんな奇跡が起きるよな」と、凛音は不思議がる。
「え?これって神様が応えてくれたって証拠じゃないの?」
そう言うと、なんだか凛音は言っちゃいけないことを言ってしまった、みたいな顔をした。
気を取り直して、私はずっと気になっていたことを聞いた。
「“私は、これからどうしたらいいんでしょうか?このまま耐えればいいのか、逃げるべきなのか…教えてください”」
この生活を続けて11年、私はずっと迷っていた。このままだと、私は死ぬだろう。何も食べない日もざらにあるし、暴力も収まりを見せない。だからこそ、このまま死ぬのが最善か、生き延びるのが最善なのか、考えることが疲れてきたのだ。
「お前…!!」
凛音は酷く驚いている。今まで何も言わなかったからかな。
すると突然、強風が吹いてきた。ビュオーという轟音と共に、知らない男の人の声も聞こえてきた。
「明日の朝、近くの神社、多賀大社においで。君を導いてあげよう。」
…今までずっとこうして祈ってきたけど、こんな風に声が聞こえるのは初めてだ…!
「ほ、本当に答えた…」
と困惑する凛音をよそに、
「明日の朝か…。ここから出れるかな?」
と、すでに計画を練り始める私。すると、凛音は何かを思いついたみたい。
「よし!そのことなら俺に任せろ!!」
「何するの?教えてよ。」
「やーだね。この作戦は俺にしか出来ねぇから!」
自信満々だ…。凛音は私のことになるとすぐ動いてくれるから、やっぱり優しい。
「それに、お前は多賀大社の場所すら知らねぇだろ?」
うっ…。それを言われたら何も言い返せない…。
「だから、俺が神社の前まで連れて行ってやるよ。よ〜し決定!!」
「…ありがとう」
「いいってことよ!!それじゃ、明日起きたらすぐに俺に変われよ。いいな?」
「分かったって…」
“変わる”。凛音が主人格になっている時、何故か私はその時の記憶が丸々ない。だから、正直不安。変なことしなければいいんだけど…。と思っていると、その思いが伝わったのか、
「大丈夫だって!安心しろ、変なことは絶対にしないから。」
そういう時こそ心配なんだけどな…。
「んじゃ、今日はもう遅いし、寝ようか。」
「うん、分かった。」
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