テラーノベル
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#隠し子
西幽の帝都へと続く、うらぶれた宿場町。極不壊は、酒場で出された粗末な酒をあおりながら、目の前で優雅に煙管(キセル)をくわえる男を睨みつけていた。「おい、白霧幻。なぜ貴様がまだ俺の隣にいる? 雨はとっくに上がったはずだ」銀髪を揺らし、白装束をまとった白霧幻は、クククと低く笑った。「邪気眼を向けないでおくれよ、極不壊。君のような退屈しない御仁(ごじん)の側は、特等席なのだから。……それに、間もなくここへ、もっと面白い『見世物』がやってくる」白霧幻が煙管の煙で外の街道を指し示した瞬間、酒場の扉が文字通り「両断」された。入ってきたのは、血走った眼をした一人の若き剣士。その手には、禍々しい紫色の光を放つ一本の妖刀が握られている。「ハハハハ! この剣だ! この『紫王剣(しおうけん)』さえあれば、天下の武芸者などすべて私の足元にひれ伏すのだ!」若者は完全に正気を失っていた。魔剣の魔力に取り憑かれ、周囲の人間を無差別に斬り殺そうと狂い始めている。店内の客たちが悲鳴を上げて逃げ惑う中、極不壊は立ち上がり、背中の大剣『万鈞』を引き抜いた。「チッ、また魔剣の犠牲者か。おい白霧幻、下がっていろ!」「おいおい、待ちなさい極不壊。あの若者を力任せに叩き斬るのは簡単だが、それでは少し芸がないとは思わないかい?」白霧幻は蓮華座のように椅子の上で足を組み、悠然と言い放つ。「うるさい! 目の前で狂い刃が振るわれているんだ、小細工を弄している暇はない!」極不壊は一歩踏み出し、大剣を激しく振り下ろした。地響きのような一撃が若者の頭上を襲う。しかし、若者が手にする魔剣がキィィンと甲高い音を立てると、極不壊の剛剣が、まるで目に見えない壁に阻まれたかのようにピタリと止められた。「なんだと……!? 俺の『万鈞』を受け止めるだと?」「ハハハ! 無駄だ! この剣は、立ち向かう者の『闘気』を吸い取り、我が力に変える! 強く打てば打つほど、私は無敵になるのだ!」若者の肌が、魔剣の呪いによってどす黒く変色していく。極不壊は力で押し切ろうとするが、吸い取られる気功のせいで、じわじわと身体が重くなっていく。その時、酒場の中に、いつの間にか濃い「白い霧」が立ち込め始めた。「風を紡ぎて霞を喰らい、世の理を霧に隠さん……」霧の奥から、白霧幻の、鈴の音のように澄んだ声が響く。「――『臨風吐霞』」「何奴! どこに隠れた!」若者が魔剣を闇雲に振り回すが、刃は虚しく霧を切り裂くだけ。霧の中から、無数の白霧幻の幻影が現れては消え、若者を嘲笑うように囁きかける。「哀れなものだね。剣に操られ、己が天下無双になったと錯覚するとは。君が誇るその魔剣、果たして本当に『無敵』かな?」「黙れ! 姿を現せ!」若者は狂乱し、全方位に向けて邪悪な剣気を放った。激しい爆風が酒場を吹き飛ばし、霧が一瞬で晴れる。そこには、胸を深く切り裂かれ、血を流して倒れる白霧幻の姿があった。「がはっ……な, 何という威力だ……。私の幻術が、破られるとは……」白霧幻は苦悶の表情を浮かべ、床に這いつくばる。「ハハハ! 見たか! 私の勝ちだ! 幻術など、圧倒的な破壊力の前には無力だ!」若者は勝利を確信し、高笑いを上げた。しかし、その若者の背後から、呆れたような溜息が聞こえた。「おい、若造。どこを向いて笑っている?」若者がハッとして振り返ると、そこにはかすり傷一つ負っていない極不壊が、大剣を肩に担いで立っていた。「な、何故生きている!? お前は先ほど、私が斬ったはず……」「いいや、お前が斬ったのは――」極不壊が哀れみの目を向けた先、床に倒れていたはずの白霧幻の身体が、サラサラとただの「白い煙」に変わって消えていく。「――君自身の『影』さ。いや、正確には、魔剣が見せた君の『傲慢の幻』かな?」いつの間にか、酒場の屋根の上に腰掛け、優雅に煙管を吸っている本物の白霧幻がいた。若者が慌てて自分の手元を見ると、なんと、あれほど固執していた魔剣『紫王剣』の姿がない。代わりに握られていたのは、ただの「腐った木の枝」だった。「な、私の剣は!? 私の無敵の魔剣はどこへ行った!?」「君が霧の中で我を忘れて剣を振り回していた時、すでに私の幻術で、君の五感は狂わされていたのさ。君はただの木の枝を魔剣だと思い込み、全力で虚空を斬りつけていた。……本物の魔剣は、ほら」白霧幻がひらひらと手を振ると、彼の傍らに、封印の呪符を貼られた本物の『紫王剣』が転がっていた。「そんな……嘘だ……! 私は無敵の剣士になったはずだ!」若者は己の崩れ去った現実を受け入れられず、頭を抱えてその場にへたり込み、発狂したように泣き叫び始めた。白霧幻は、その絶望に染まった若者の顔を、うっとりとした表情で見つめながら、深く煙を吸い込んだ。「素晴らしい。これだから『悪党の勘違い』を特等席で観るのはやめられない。最高の娯楽だよ」「……相変わらず悪趣味な男だ」極不壊は大剣を鞘に納め、吐き捨てるように言った。「おや、人聞きが悪い。私は彼を魔剣の呪いから救ってあげたんだよ? ……さて、極不壊。この危険な魔剣、どこへ処分しに行こうか?」白霧幻は屋根から音もなく舞い降りると、再び煙の混じった霧の中に、その白い姿を消し去っていった。
コメント
3件
読了しました!第2話、めちゃくちゃ面白かったです……! 白霧幻の「悪趣味」な魅力が炸裂してて、あの悠然と煙管を吹かしながら若者を幻術で弄ぶ感じ、最高にクセになりますね。極不壊との凸凹コンビもいい味出てるし、ラストの「魔剣、どこへ処分しに行こうか?」という言葉で次回がもう気になりすぎます。星屑ルカさんの描く“悪党の勘違い”を特等席で見せてもらってる気分、私ももうやめられないです🤍 (198字)