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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第45話 〚静かに差し出される手〛(澪視点)
教室は、ざわざわしていた。
でも、その音は、どこか膜を一枚隔てた向こう側にあるみたいで。
私の耳には、はっきりとは届いてこなかった。
りあが、席に座っている。
背中を丸めて、視線を落として。
——気づいてしまった。
あの姿は、
少し前の私に、重なって見えた。
胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
予知じゃない。
心臓も、痛くならない。
ただ、分かってしまっただけ。
「……」
声をかける理由なんて、
探せばいくらでも見つかる。
でも、本当は理由なんていらなかった。
私は、席を立った。
一歩。
また一歩。
歩くたびに、視線が集まるのが分かる。
「なんで?」
「今さら?」
そんな空気。
それでも、止まらなかった。
りあの机の横に立つと、
彼女は一瞬だけ、びくっと肩を揺らした。
顔を上げない。
私は、深く息を吸った。
「……大丈夫?」
それだけ。
責める言葉も、慰めの言葉もない。
沈黙が落ちる。
りあの指が、机の端をぎゅっと掴むのが見えた。
白くなるほど、強く。
「……なんで」
小さな声。
震えていた。
「なんで、あんたが」
その続きは、出てこなかった。
私は、少しだけ首を振る。
「助ける、とかじゃないよ」
自分でも、驚くほど落ち着いた声だった。
「ただ……一人でいるの、つらいのは知ってる」
りあの肩が、わずかに揺れる。
予知は、何も教えてくれない。
でも、私は知っている。
言葉にできない孤独を。
黙って耐えるしかない時間を。
そっと、手を差し出した。
触れない距離。
逃げられる距離。
選ぶのは、彼女だから。
りあは、しばらく動かなかった。
教室の空気が、張りつめる。
……そして。
ほんの一瞬だけ、
彼女の指が、私の指先に触れた。
掴まない。
でも、離れない。
それだけで、十分だった。
誰も知らないところで、
静かに。
確かに、
何かが変わり始めていた。